私は、強い
心の何処かで、迷っていた。
この力を全力で使う事を。
だって、こんな力…死ぬでしょ。
「敵は…天明。私が…全部やる」
『美しいな、果てゆく命というものは』
きっと姿は変わったと思う。黒ローブから、鎧みたいになっているから。
確認する術は無いけれど…
『アスティ…咎星剣を…使える、のか? みんな……下がった方が良い。死ぬぞ』
咎星剣を使えるのは、私が大きな罪を負ったから、だと思う。
ヘルちゃんとの約束、破っちゃったから。
また、心配かけちゃうな。
怒られるんだろうな…ヘルちゃんの方……見られないや。
ママン、勝手に剣使ってごめんね。
見ていて…ね。
「懺悔は終わり。深淵混沌魔法・終末の焔」
『我等は乗り越えてゆくぞ。魔法破壊』
破壊なんて、出来る訳ないだろう。
天明が黒い焔に焼かれ、再生が追いつかない程に手足から蒸発していく。
もちろんこのまま死なせない。
「行くよ…咎星・
後ろから串刺しにし、破壊に再生を重ねてギリギリを保つ。
生きている剣だから、扱いが難しい。難しいけれど、私の気持ちに呼応してくれる。
この万能感は久し振りだな…魔眼に目覚めた時以来か…その気になれば、世界ごと斬れる。
『禁、術・天空の、裁き』
全ての音を掻き消す轟音と共に、赤い雷が墜ちてきた。
少し、動きが阻害されたな。
天明が転移で逃れようとしていたから、転移妨害を真似してみた。
空間を、ほんの少しずらすだけ…簡単だな。
今なら天明は動けないか。突き刺した状態で細かく解析。
「……他の子も吸収したのか? 咎星・
『禁…術、自己融解…くっ、離せ』
この魔力…ニイ、サン、ヨン、ゴウ、ハチ…吸収したみたい。イチの気配は無いけれど…まだ、助けられる。
天明を空間ごと固定し、逃げられないようにして咎星剣で押し出すように刺してみた。
……難しい。
誰かに頼むか? ルゼルは出来なさそう。幼女は論外。ディアなら…でもルナリードってディアの師匠みたいなもの、かな。
そういえば……ルナリードって居たっけ?
……呼んだらくるかな。
「…破壊神さん、分離…出来ますか?」
『……任せろ』
……さっきの可愛い子。
ルナリードだったのか。
……ルナリードだったのか。
小さい手で天明に触れ、白い魔法陣を展開させた。
口を尖らせながら背伸びをして…(くそっ、抱き締めてぇ…あれ?)
「……その姿、どうしたんですか?」
『……情けない話だが、これが元の姿なんだ。天明に力を奪われてな…』
「そうですか」
『……どちらの方が、良い? いや、なんでもない』
「……断トツでこちらと言っています」
『言って? そう、か。分離術式』
光が五つ出てきた。恐らくあの子たちだ。光はルナリードが回収した。イチは居ない…分離出来なかったのか。
これで、良いか…ベアトリスクの事はもっと懲らしめたかったけれど…
「ありがとうございます。後はお任せ下さい」
『アレスティア? 大丈夫、なのか?』
「はい、もちろんです。咎星・
概念攻撃…罪を重ねた分だけ、不殺の刃を突き刺す。
刃が刺さる間は…死ねない。
死んだ方がましだと思える痛みを与える。
『クハハハハッ! ゴホッ…強い! 強いぞ! 禁術・六芒分身!』
「属性毎の分身…弱点以外は無効化か…」
『アレスティアは光と闇、負、そして特異属性! 我等の魔法を受けよ!』
「確かにそうだ。基本属性は使えない」
六芒分身…赤、青、黄、緑、白、黒の天明が現れ、それぞれ巨大な立体魔法陣を出現させた。
この魔力…超位や禁術を超えている。天明の本気か。
『これが、我等最高の魔法だ…』
立体魔法陣が重なっていく。
重なる度に肥大し、色鮮やかな球体が出来ていった。
赤、青、黄、緑、白、黒…ここまでの規模は初めて見る。
もし、防げなかったらアラスは無くなる。
防げなかったら、だけれど。
「咎星奥義…」
『この世界と共に消えるが良い! 神位魔法・六芒神界!』
私と天明の間に、先の見えない虹色の巨大な柱が突き刺さった。
柱を覆うように虹が掛かり、人が到達できない領域を見せ付けたみたいで、この力が解放されたら生き残れるのは何人いるだろうか。
前の私が命懸けで放った裏奥義・神滅を超える規模。
「…
発動すれば、ね。
『なん、だと……掻き消され…いや、これは…』
「咎星剣の能力に、魔法の無効化、変換がある」
『六芒分身が…』
「六芒神界を無効化し、私の力に変換した。これで、天明よりも遥かに格上になった訳だ」
天明の魔法を私が使いやすいように変換し、擬似的に基本属性を使えるようにしたから六芒分身なんて簡単に消せる。
『ならば邪神特性で追い付くのみ!』
「無理だよ。この剣、凄いんだ。魂を斬れる。空間固定」
『ぐっ…やめろ…我等はまだ…叶えていない』
「私が、叶えてやるよ」
天明の身体に、ゆっくりと刃を通す。
格下になった影響で、空間固定の効き目が強いな。
魂を斬れば、意思のない空っぽの身体になるから、必然的に私の勝ち。
これ、か……あった。魂の集合体。これを……斬る!
『我等は、死な、ぬ、ぞ。必ず……』
……一つ、逃げた。
刃の届かない奥底に、逃げ込んだ魂があった。
深追いしたら、私の魂が持っていかれる。
でも、出て来れないように閉じ込めればいいか。
道を塞げば能力なんて使えないし。
「咎星・魂道封印」
……
……勝った。
(やったー、流石私! ってやっぱおかしいぞ。どうなっている?)
天明は、沈黙した。
魂はリスポンしないようだ。
これは魂を封印した死体みたいな扱いで良いのか?
だから…やっぱり、収納出来た。
天異界に渡したくは無いな。
私が使うから。
『…アスティ、天明は…やったんだな』
(ママン褒めて~。褒めて~。力の~限り~ギュッてして~。骨が~軋む~ほどに~)
「はい、魂を殺しました。褒めて欲しいみたいですよ」
『……みたい?』
(ふむふむ、どうやら私は魂が分離したみたいだなぁ。そりゃ普段から魂移動を繰り返してきた訳だし、負の力を使い過ぎて天明みたいに魂が複数になっても不思議じゃあないな。天明と同じく、私は美少女百人分の血で作られた訳だし……)
「私の中の私ですよ。ルゼルさん」
『……お前、誰だ?』
(表に出ているのも私も私なのは間違いない。今は負の力が強いから、闇堕ちアスティちゃんという事で良いのかな? いや反抗期アスティちゃんと言うべきか。みんなー私に近づいちゃ駄目だぞーって言う前にルナリードとディア以外近付いて来ないね。私ってそんなに危険人物かしら)
「私? アレスティアですよ。よく知っているじゃないですか」
『…アスティは…我を、母と呼ぶ』
(ママンって言わなきゃ駄目だぞ私ー。ぷんぷんだぞー)
「私の親は…覇道と呼ばれる存在。ルゼルさんではありません」
『……』
(ママン、泣きそうじゃないか…)
「私には、夢がありました。世界で一番強くなる事……」
『……それは、叶えたじゃないか』
「叶えていません。今、居るじゃないですか……」
(私の考える事だから良く解るよ。今この場にルゼルや天異界の人達が居る以上、現在世界で一番強い者は曖昧だ。そんな屁理屈並べるのは私らしいし、何よりこの流れは…私は目に映る者全員が戦う対象になっているんだろう…敵とは違う、ただ…殺し合いたいだけ。うーん、どうするかなぁ……私に身体の主導権取られちゃったし……あっ、そうだ)
『アスティ…いや、アレスティアと戦えない者は出来るだけ遠くへ行け』
「ふふっ、戦えない者は相手にしませんよ」
(よっこいしょっと。ちょっと行ってきまーす)
『お前は信用出来ない。アスティを出せ』
「もう、存在しません。消えました」
『……なん、だと』
「では始めましょうか。皆さんも、掛かって来て下さい」
『……』
「私は、強いですよ」
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