いやだからなんでみんな私に総攻撃するのさ

 

 ……戻ってきた。

 幼女とリアちゃんは、居ない。ルゼルの所に行っているのかな…どこにいるんだろう。


「…アスティ、書置きがあったわ。フーツー城に行くわよ」

「フーツー城…分かった。雌豚、タンスは漁るなよ」


「まだ漁っていませんよ。わたくしの楽しみを奪うおつもりですか? うほっ、もう一人のご主人さまにマーキングしますね!」

「やめろ。お前が触ると私が穢れる」


 幼女のベッドに私が寝ている。

 ふむ…こうして表世界の私と、裏世界の私が対面するのは初めてだな。

 変な感じ。

 とりあえず私にチューしてみるか…あっ、銀仮面が邪魔で出来ない。

 うーむ…駄目だな、銀仮面を取ったら負の力を抑えられない。


「…負の力は使っちゃ駄目よ」

「うん、解っているよ。でも、裏世界から力が流れてくるんだ…」


「…アスティは、動くゲート…か。困ったわね」

「それでも、行かなきゃね。我慢我慢…転移」


 この状態は表世界と裏世界を繋ぐ扉。その気になれば直ぐに裏世界への扉を開ける事が出来る困ったちゃんなのだ。だから私は天異界の敵…このまま過ごしていたらきっと始末されるんだろうな。

 でも、この世界は守りたい。

 私の故郷だから。



「こちらの結界が壊れました! 修復班急いで!」

「次はこっちです! もう持ちません!」

「たかが少数の戦いで何をやっている! 攻められる者はいないのか!」

「無理です! 入った瞬間に死にます!」


 ……転移した先は、戦場だった。

 天異界の部隊らしき同じ服を着た人達が街全体を囲う結界を展開し、その街の中では荒れ狂う天変地異の如く様々な魔法やエネルギーが入り乱れていた。上は開いている…エネルギーを逃さないと壊れるからか。

 中にいるのは……ルゼルと、ディアと、ルナリード? ロクナナテンちゃんに幼女もいる…

 外には、蒼禍とイッきゅん…ノワールさんの魔力は感じる。他にも…あれ? リアちゃんがいない…だから閻魔も居ないのか?

 あれ? ここって……


「ここ……城が…あった…」

「アスティ…」


「なんだかんだで、生まれた場所が無くなるのは悲しいね。じいや…生きているかな…」

「信じましょう」


「うん…あっ、ロクちゃんナナちゃん」


「アレスティア、待っていた」「天明強い」『アレスティアーふわふわしたいよー』

「テンちゃんちょっと我慢していてね。状況は?」


 中からロクとナナとテンちゃんが転移してきた。ヘルちゃん、新しい店員さんになる子達だよ。

 威圧しちゃ駄目よ。なに? まだ手出していないよ。

 とりあえず雌豚に座るか。


「良くない」「ルナリード様は天明が放つ破壊のオーラを抑えていて、ディア様とおば…ルゼル様と小さい女神は天明と交戦中。問題は天異界の奴らに囲まれている」


「…もしかしたらここより結界内の方が安全かもね」


 天異界の兵士が近付いてきた。

 こちらは超絶可愛いツインテール美聖女と、恐らく指名手配のロクナナと、亀甲縛りのメイドに座る明らかに負の力を垂れ流している怪しい黒ローブ。


「お前達、そこを動くな」


「アスティ、急に褒めてどうしたのよ」

「だってその服モロ聖女じゃん。白いドレスがキラキラして可愛いじゃん。わたしなんて従者みたいじゃん」


「両手を上げてその場に座れ!」


「アレスティア、格好良い…私も真似したい。私の人形…強化してくれたんだね」

「ナナちゃんには今度ファッション雑誌をプレゼントしよう。あっ、ノワールさん…」


 マズいなぁ…ノワールさんが仕事モードで近付いて来た。黒い高そうな制服に凛とした表情、赤毛の髪が靡いてお偉いさんの雰囲気がプンプンして素敵だね。

 ロクナナを捕まえようとしているな…私に気付いていなさそうだし…まともに戦ったら不利だ。

 銀色の剣を向けられると、魔法陣が出現。

 逃げよっと。


「…事情は牢獄で聴きましょうか。白牢…」

「あっ! サヴァ!」


「んだと! どこだ!」

「今度連絡しますねっ! 集団転移!」


「えっ…アレ…」


 さらばだっ。

 今捕まる訳にはいかぬのだよ!

 ノワールさんが居るという事は…アスターの女神が居る可能性が高い。今は会いたくないな……うわすげえ粉塵。なんも見えねえ。

 おっ、幼女の魔力が近い。なんかどんどん近付いて…


「ぬぉぉおお! 爆裂神槌!」

「うそぉぉおお! だめぇえじぜろぉぉおお!」


「あっ…天明じゃなかったの」

「アーたん、お仕置きが必要ね」


 痛えよ。いきなり空飛ばされてんじゃねえか。

 もうみんなとはぐれたよ。

 幼女よ酷くねぇか?


『…来たか。超鋼の星』

「どこを狙って…ん?」


 あっ、ディア助けてー。

 破壊の力が使えないんだよー。

 我慢なんだよー。

 鋼の塊がー。

 私にー。

 当たっ…


「あっ、身体動かねぇ」


 たー。

 さよならー。

 地面に激突したら無事に済まないぞー。

 動けっ、私のからだー。


『そのまま沈め。獄門奈落』

「させない! 真炎光斬!」


 地面に黒い穴が出現。

 穴から凄い怨嗟の声が聞こえてきたけれど、ディアの斬撃に吹っ飛ばされた。だからこっち来て助けてよー。

 乱暴だぞー。それになぜ炎を混ぜた…藁人形ちゃんが燃えるだろうが。


「あー誰も助けてくんねぇ…我慢我慢。おっ、この魔力は…あれ?」


 ルナリード? いや違う…? んー…あれー?

 誰か知らんが助けてー。

 白髪のきゃわゆい子ー。

 私を受け止めてー。抱き締めてー。力の限りー。


『アレスティア! 今こっちに来てはいけない! アスターの奴らに捕まってしまう! セイントレーザー!』

「うへぇ…」


 なぜ弱点を攻める!

 今の私は神聖属性特効なんだぞ…

 覚えてろよー!

 可愛い子ー!

 あぁ焼ける…使っちゃおうかな…駄目だ駄目だ。

 あっ! ママン助けてー!


『黒金よ。お前はもう限界であろう? 破壊光線』

「ふん。我に限界など無い。エナジーブラスト…あっ」


 助けてー!

 なんで狙ったみたいに射線上なんだよー!

 これは当たったら死ぬ…特に破壊光線は駄目だ。破壊の力で相殺しないといけない。


 ……どうする。

 破壊の瞳は使える…使えるけれど…我慢しないと…私の身体が、限界を迎える。

 エナジーブラストの方が速い…これで弾かれれば生存率は上がるかも…ちょっとずれている。


「グラビティ…プレス」

 私の位置を調整して…おーらいおーらい。

 どーん。

 よしよし、ダメージゼロ貫通してまじ痛いけれど、死ぬよりゃましだ。

 これで破壊光線の射線から外れて…


 はぁっ!? 追尾だと!


『アスティ! 避けろぉぉお!』


 転移! うそっ! 出来ない!


『クハハッ、終わりだ』

 天明が手を向けている…転移妨害か!

 他に何か…ゆびーむ! 追尾だから意味ねぇ!


 あー! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!


「もー! 破壊の瞳!」


 ……使っちゃった。

 破壊光線が、ドサリと落ちた私の前でバラバラに崩れていく。

 崩れた先、安心した表情のルゼルと薄く笑う天明が目に入った。


 そして、心の奥底で、何か…大きなものが崩れた。


 あ……だめ……

 止められ……ない。


 ……


 ……もう、この仮面はいらない。



『アスティ! 無理するな…アスティ?』

「……深淵…解放」


 ……なぜ、我慢する必要がある?


「アレスティアさん! 無事ですか! ……な、うそ…運命が…変わった…」

「……混沌…解放」


 ……好きなように、戦えばいい。


『アレスティア! 駄目だ! 力に呑まれるな!』

「……破壊…解放」


 ……私には、力がある。


『クハハッ、流石…黒金の子だ』

「……咎星剣、私に従え」


 ……力を使って、何が悪い。

 みんな使っているじゃないか。

 咎星剣、私に見せてよ…あなたの力を。

 私はあなたに見せてあげるから…


「アスティ…ばか…何してんのよ…」

「…命果てる前に、力の果てに…辿り着こうじゃないか……魔神装・覇道」


 倒せば、良いんでしょ。

 簡単、だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る