行かないと私が殺されるし、行ったら私が殺される…

 

「…よし、成功」


 流石は私。

 素直に幼女の部屋で寝ている元の身体に戻れば良いのだ。魂転移的なやつ。

 うーむ…魂が分離したから、弱くはなったか。邪悪、混沌、破壊の大部分は反抗期アスティちゃん……力を求めている私だから、魔神装から取って覇道と呼ぼう。


 大部分は覇道に取られたし…摩耗した部分を切り捨てた魂が私だ。

 一応負の力は使えるけれど、残りカスみたいな感じ。今の私はカスティちゃん……なんか泣きそうになるからカスティちゃんは封印だな。


「転……いや待てよ」


 あの中に入ったら真っ先に狙われそう。自分に殺されるのは嫌だな。まぁ放っておいても私は死ぬけれど殺されるのは嫌なのだ。寿命は数日程度…長くて十日、かな。

 はぁ……と言う事で、ちょっとおさらいしよう。

 今の私の能力は剣技、光、闇、冥、重力、空間、星、あと細かいの。


「今の私に対抗する術がほとんど無い…か…」


 私の力は私が一番わかっている。

 最高戦力が負の根源だった訳だからなぁ。

 黒異天体は使えるけれど……確実にみんなを巻き込む。


「あーそうだ。武器も無い」


 咎星剣に対抗出来る武器……折れないソードは私が曲げた。この世界の剣は打ち負ける。カツオは論外。マグロは行方不明。朱天の剣に頑張ってもらうしかない…

 そもそも対抗出来る剣なんてあるのか?

 ルゼルに貸して貰うか…いやカツオがあるだろと言われて終わり。


 ……ふっ、詰んだ。

 それでも行かない事には始まらないもんなぁ。

 幸い覇道の状況はなんとなしに繋がっているから解る……目を閉じると朧げに覇道の視点が見えるから。

 現在交戦中で…おっ、ルゼルに殴られたな。

 視点がぐるぐる……おえっ、気持ちわるっ。それにちょっと痛い……まだ魂は繋がっているのか?


 意外だな、ルゼルが覇道を殴るなんて……一応私だから、攻撃出来ないと思った。

 それに他のみんなも割と全力で覇道を攻撃……えっ、なんでみんな躊躇しないの? 私だよ? 説得とかしようよ……殺す気満々じゃん……ヘルちゃんも魔力を溜めて攻撃準備。

 胸が痛いよ……覇道も、みんなの事が好きだったら…いやそれは無いか。

 生き延びる為に、私と一緒に愛の大部分を切り捨てたから……

 にしても複雑な気持ち…みんなも私に容赦無かったし、黒異天体を使っても大丈夫だな、うん。


「行くか、ここで燻っていたら私は私を許せない。転移」


 まぁ、サポートくらいは出来るでしょ。

 と言う事で、容赦の無い仲間達の元へ。

 あっ、靴下で来ちゃった。



「……」


「アスティを、返してよ! ホーリーセイヴァー!」

『アスティ…エナジーストライク・トリプル』

「わっちが止めてみせる! モードランチャー! シャイニングフォース・ブレイカー!」

『アレスティアはもう……破滅の月歌』

「私は…何のために……仙術・龍脈決壊!」


「もっと、もっと本気で来てください! 破壊神剣・覇王撃!」


 すげー。容赦無い総攻撃だ。

 空からヘルちゃんの聖なる剣とルナリードの月が降り注ぎ、ルゼルと幼女の高密度エネルギーが一直線に向かい、下からはディアの魔力を乱す攻撃。

 それを覇道は楽しそうに破壊している。


 ふむふむ、魔神装・覇道は格好良い鎧だな。黒光りする全身鎧に、漆黒のマント。兜は顔が見えるタイプで、当然だけれど私と同じ顔。

 いいなー私も格好良い鎧着たーい。

 だって私…今あずき色ジャージなんだよね。ズボンの裾に紐付いているやつ。収納に靴とかないかな…おっ、あずき色のスリッパあった。


「あのー……」


「馬鹿…馬鹿馬鹿! フェアリィサークル!」

『流石は咎星剣の力…強いな。メガエナジー』


「ただいまー……」


「ディアとか言ったか、援護せい! 神力解放!」

「はい! 仙術・天龍脈動!」


 なにこの話し掛けにくい状況。

 ヘルちゃん泣いているし、ルゼルも涙声。幼女とディアの表情は分からないけれど……アスティちゃんだよー、みんな気付いてー。おーい。


「ふふっ、来た。デスレーザー」

「うひゃっ! 転移!」


 危ねえ、覇道が黒いソルレーザーを放ってきた。やっぱり狙って来たか……


『ルゼル、今…何か聞こえなかったか?』

『集中しろ、死ぬぞ』


 ルナリードが振り返ったけれど、そこはデスレーザーの跡。

 私は覇道の後ろに転移した。つまりみんなからバッチリ見える位置だねっ。

 おーい。

 よし、私も戦おう。朱天の剣を出して……なんか全身あずきコーデだな。

 ジャージにスリッパ……舐め腐った格好で本当に申し訳ない。


「あれは……まさか……」


 ディアが気付いた! 私だよー!

 朱天の剣をブンブン振ってアピール!

 やったみんな見た! ただいまー!


「騙されるでない! アレスティアの傀儡人形を出して油断させる気なのじゃ! 見てみい油断させるためにいつものジャージじゃろ!」

『確かに……勝利の為には手段は選ばず、か。…らしいな』

「本当に、そっくりね……」


 うおい幼女、余計な事をいうなぁおいぃ……

 元はと言えば覇道が出てきたのは幼女が私をぶっ飛ばしたのが原因だろがあぁよぉぉ。


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