いやだから喧嘩すんなよ…

 

「……」


『クックック…我を倒せると思っているのか?』

『倒せるかじゃない…倒すんだ』


『面白い。我を倒せたら、母と名乗る事を許してやろう』

『お前の許可なんかいらない! 破滅の月歌!』


 なんかルゼルがラスボスみたいだな。

 天明の影がどんどん薄くなっているけれど、一応攻撃の手は緩めていない。

 単に私の主観がルゼルとルナリードに向いているというだけだ。

 因みにディアは天明に手一杯。天明よりも影が薄いのは仕方ない。


『ほほう、精々足掻いてみせろ。エナジーバレット』

『くっ、速い…』


 ……ルナリードがエナジーバレットを弾き、私の真横にエナジーバレットが飛んで来た。

 底の見えない大きな穴が開いて、私の半身は埃と土まみれになった。


『ふんっ!』

 ルゼルが上空から墜ちてきた破滅の月歌を片手で抑え、掌からエネルギーを放出。

 ボロボロと破滅の月歌が砕け、大きな音を立てて弾けた。

 そして破片が私の上半身に次々と激突した。


「……」

「……ご主人、さま? 当たっていますよ?」


『流石に強いか。ディバインセイヴァー』

『良いぞ、得意分野で戦ってやろう。来い、黒霊剣ドゥエゴ』


 あっ、ルゼルがまともな剣を持っている!

 そういうの頂戴よー。


「喧嘩はやめて下さいよー! 私そろそろ限界です!」

『仲間割れしている隙にアレスティアを消してやろう。金剛槍弾!』


「あっ逃げて下さい! 光華斬!」


 なんか強そうな槍が飛んで来た。

 ついでにディアの光華斬が合わさり、威力が増した。

 助けてー。


『む? 卑怯な。エナジーバレット』

『アレスティア! 月光弾!』


 ちょ……なんで私に総攻撃するんだよ。

 攻撃飛ばすんじゃなくてさ…来てよ。

 助けるってそういう事じゃないの?


「ぐふっ…」

「ご主人さまー!」


 案の定お腹に加速した槍が刺さり、更にエナジーバレットで槍が押されて貫通。

 トドメの月光弾でお腹の穴が拡がった。

 何故避けないかと言うと、雌豚が私を後ろから拘束しているせいで動けないんだよ。

 全員完璧な連携をありがとう。

 雌豚も槍が貫通したみたいだけれど、気持ちよさそうな声を出しているから大丈夫みたいだな。


『『「あ……」』』


「……エナジー…ヒール」


 ……体調悪いから力を使わないようにしていたのに。

 何やってんだよ。

 いい大人が喧嘩して……


「さ…さぁて、処女達の様子でも見て来ますね!」


 雌豚は空気を読んで逃げた。


「……」


「だ、大丈夫ですか⁉︎」

『ア、アスティ…狙った訳じゃ、ないんだ』

『無事、か? いや、あの、すまない…』


 何故みんなで来る…天明放っておくなよ……

 命懸けで戦ったのに…みんなにとって、そんなもんなんだな…

 もう知らん。


「……もういい、帰る」


『まっ…待ってくれアスティ! 直ぐに終わらすから!』

「直ぐ? 倒せないのに?」


『もう一度封印するから!』

「じゃあ早くしてよ。今してよ。直ぐしてよ」


「じゃあ! わ、私が今やります! ルナ様動きを止めて下さい!」

『わ、分かった! 聖光縛翠!』


 ……ルゼル、何見てんの? 手伝いなよ。

 帰っちゃうぞー。

 良いのかー。

 引き篭もる準備は完了しているんだぞー。

 引き篭もりモードに入ったら幼女と同じ生活になるから、月単位で外に出ないぞー。


「……」

『…我も、手伝うかな』


 シュンとしても許さんぞ。

 その後チラ見したからシュンとした振りなのはお見通しだよ。

 ったく、これで封印出来なかったらどうすんだよ。


 天明はルナリードの聖なる光の輪に拘束され、更にルゼルの網目状の結界に閉じ込められた。

 そういえばルナリードは破壊神なのに聖属性が使えるのか。私は使えないからなぁ…教えてって言えば教えてくれるかな? でもルゼルママンが妬いちゃうからなぁ。それに私が聖属性を使えるようになったら、聖女のヘルちゃんが拗ねそうだし。


『くっ、流石に破壊神と黒金の拘束は解けぬか』

「凄い…これなら私が柱にならずに使える! 天明覚悟! 完全封印禁術!」


『これは…封印の規模が違う…くっ! まずい!』


 おー…完全と言うだけあるなぁ。

 卵の入ったみたいに真っ白い球体に包まれた。

 封印解除条件が無い隙間無しの封印。力と技術のバランスが申し分無い。良いね才能があるって。力でねじ伏せる私にゃ出来んな。

 ちょっと手伝うか……



『ほう、中々やるな。天異界でもここまでの封印が出来るものは居ないぞ』

『ふっ、自慢の娘だからな』


『…ディアが居るならアスティは我だけの娘だろ』

『私と血が繋がっているから私の娘だ』


『我もアスティと血は繋がっているぞ』

『嘘だ』


『本当だ。我の魔法は血が繋がっていないと使えない』

『……どういうことだ』


『アスティの先祖にキリエという者が居て、我の血を飲ませていた。アスティに届くように魔力を込めてな』

『……アレスティアは、知っているのか?』


『ふふっ、それを答える義理はない』



 ……またヒソヒソ話している…仲良いじゃん。

 あ、やっぱり体調悪いや。

 私がやらなくても良いか、任せよう。


『が……ぎ……い…せい……き…か』

「天明、これで終わり…」


 ディアが拝むように手を合わせると、天明を包んでいる球体が収縮。

 五十センチ程の白い石に変化した。

 ……おっ、封印出来たみたいだな。


『…終わったみたいだな』

「じゃあ、帰りましょうか」


『待ってくれ。礼をしたい』

『報酬は後日請求するから安心しろ』


 ルナリードの言葉にルゼルが被せるように答え、ルナリードが凄く嫌そうな顔をした。

 まあでも天異界が介入せずに事態を収めた訳だから、報酬は必要だよね。友達という訳ではないんだし。

 ……そういえば、何か言い忘れているような…んー。

 あ……封印出来たからいいのか?

 いやでも言わなきゃ駄目か。


「おかぁさん、天明は、破壊神の力を使って封印耐性を得たと言っていました」

『封印耐性? ……おいルナリード、最初の封印はどんな封印だ?』


『……コ…ディアの封印禁術を私が強化した』

『はぁ、封印耐性を持っているなら、またいずれ復活するだろ』


『そんなことは……』

「ルナ様!」


 ディアが何か落ち込んでいるルナリードに向かって叫び、ディアの方を見ると困ったようにオロオロしていた。

 何かあったのか?

 近くへ行ってみると、白い石がウネウネしていた。

 ディアとルナリードが抑えているけれど……

 これ、封印解けそうだな……


「解けそうですね」

『ああ、そうだな。耐性が時間を追う毎に強くなるなら、時間の問題…か』


「どうします?」

『……会うのは少し早いが、仕方が無いか。アスティ、頼みがあるんだ』


「はい、なんでしょう」

『我の剣を、持って来て欲しい。今、裏世界の王が持っている』


「……咎星剣ですね。分かりました。王は今どこに?」

『城に帰って来ている。だからアスティを持って出掛けたのだがな…あっ、ヘルたんの方が危険か…』


 あぁ、だから仕事中に私を抱っこしていたのか。

 変態だから会わせたくなかったんだね。

 でもそうも言っていられない状況なのは確か。


「じゃあ、行ってきますね。次元転移」



 ロンドの力が馴染んでいるから、自力で次元は超えられた。

 行く前にチューしたかったけれど、したらいけない気がしたから出来なかったな。


 よし、成功。

 ルゼルの部屋に次元転移出来た。

 お? ツインテール。


「アスティ、待っていたわ」

「あっ、ヘルちゃーん!」


 ヘルちゃんが待っていた!

 やったぜ!


「どうしたのよそんなクソダサい格好して」

「自覚はあるから言わないで…強くなればなる程ダサくなる呪いなんだ」


「……仮面くらい取りなさいよ。チュー出来ないじゃない」

「取ったら負の力が垂れ流しになるよ。なんか解除出来なくてね……」


「はぁ、使い過ぎよ……ばか」

「ヘルちゃぁん」


 慰めておくれー。

 使いたくて使った訳では無いのだよ。


「土まみれじゃないの…綺麗にするから動かないで」

「うんっ、ありがちゅ!」


「何このキモイ人形、邪魔だから取るわね」

 ぶち…あっ、藁人形ちゃーん!


『アレ…スティ…ア……さよ…なら……』

「藁人形ちゃーん!」


「……なんかごめん。付け直すわね」

『アレス…ティア、ただいま』


「藁人形ちゃーん!」


 良かった良かった。ヘルちゃんに殺される所だったね。

 あっそうだ、王に会いに行かないと。


「ふぅん、とりあえず説明しなさい」

「うん!」


 急ぎじゃないみたいだから、説明してから一緒に行こう。

 藁人形ちゃん、ヘルちゃんを呪っちゃ駄目だよ。

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