痛っ…くない!

 

 ヒラヒラと、雪が降ってきた。

 絶機将グレゴリオ…視るのは反則かな? まぁ視るけれど。

 ほへぇー、絶氷魔法、大地魔法、魔力製造、絶氷剣技、高速機動、立体機動、自動修復、物理攻撃無効だってー。

 武神装の方が反則じゃん。


『お前を殺すまで…魔力製造は止まらない』

「魔力炉搭載型の鎧ね。流石に中心部分の装甲は厚いか」


『この魔法は…躱せない。絶氷魔法・コキュートス』


 空気が、凍っていく。

 手を動かすと、凍った空気中の水分が突き刺さる。動けば動く程に傷付く…それに、どんどん下がる冷気で身体の力が抜けていく。


「エナジーバリアっと…ありゃ、壊れちゃった」


 エナジーバリアがボロボロと崩れて凍り付いた。これじゃ防げないか。ハイエナジーで拮抗するくらいだとしたら、エネルギー消費が激しいな。


『無駄だ。絶氷魔法・烈氷鋭感』

「じゃあ…零魔法・ダメージゼロ」


 イチは自身の強化。寒ければ寒い程能力が上がる…か。最強って言う割には自分を強化するんだな。

 ところで零魔法って何系統の魔法なんだろう。

 …エナジー系統と似た無属性かな?

 まぁ不思議系統という事で。


『凍派絶氷撃』

「ぅおっ! ハイエナジー・シールド!」


 まじか速いっ!

 絶機将の身長程もある剣が青く輝き、気が付いた時には振り下ろす寸前。

 軌跡が凍る一撃にシールドを合わせたけれど、見事にぶち抜かれた。


『死ねぇええ!』

「ぅぉっ…」


 やばっ躱せないっ!

 肩に直撃! 

 痛…くないっぞっ!

 あっ、ダメージゼロ状態か。

 ……なんか床に埋まったな。


『まだまだぁ! 凍派烈撃翔!』

「……」


 埋まった床ごと空にかち上げられた。

 凄いスピードで上がるなぁ…あっ、あれテンちゃんかなぁ?

 ……ん? 光のカーテンで隠している。お楽しみって奴かな?


『とどめだぁ! 凍神絶氷斬!』

 その巨体で高速でかち上げられた私に追い付くのか…

 青白く光る巨大な剣が、私の頭を真っ直ぐに斬り付け…地面へ急降下し、コンクリートの町の中に大きなクレーターを作った。


「……あー、ちょっと痛かったなぁ。でも、零魔法…凄過ぎ…」


 クーリンさんの奥義、紅の臨界をも防ぐ魔法だから安心して攻撃を受けた。クーリンさんってロンド、ディア、イチと同じくらいの強さだけれど、攻撃力は頭三つ分くらい抜きん出ているから。

 そして武神装の必殺技もちょっと痛いだけ。いやー凄い。

 もう零魔法が手離せないね。


『……なん、だと…確かに効いた…』

「効いたよ。見てこのたんこぶ」


『そんな…筈は無い! どんな能力だ!』

「気が済んだ? ではでは私のターンだねー。フルエナジー・パワー」


 絶機将グレゴリオは物理攻撃無効かぁー。

 本当に無効なのかなー。

 気になるんだよねぇ、どこまで無効なのか。

 武器は…折れないソードでやってみよう。


『落ち着け…私は強い。私は…強い! 絶氷の月よ!』


 青い月が空に舞い上がった。

 星体観測と絶氷魔法を組み合わせた魔法か。

 やるねぇ。


「防御は捨てる。私流剣技・絶望不銘」

 絶氷の月を作っている隙に、攻撃してみよう。

 脇腹をすり抜け様に斬り、脇から腕に連撃。

 腕が少しブレたくらいか…続いて尻を斬りながら股下に潜り、股間目掛けて渾身の一撃!


『…ははっ、無駄無駄! この最強の鎧に傷一つ付ける事は出来ない!』


 …かっ、てぇな。

 痛くはないけれど、手がビリビリ痺れたよ。

 最強ったって、私に余裕で勝たないと言えないんじゃない?

 どんな困難も余裕で乗り越えて、どんな強者も余裕で勝って、どんな欲にも負けず、長い長いながーい歴史に君臨し続ける…うん、そんな感じだろうね。


「そもそも、生きている時点で最強なんかじゃないんだよ。転移」


 上空へ転移。

 上から絶氷の月を眺めながら、一撃必殺の準備でもしようじゃないか。

 この位置なら絶氷の月には当たらないかな。


「ダブルエナジー・パワー。重力二百倍。冥府の力」


 エナジーパワーの重ね掛け。超ヘビー級アスティちゃんになり、冥魔法で力を強化。


 おー、ちょっと重力パワーで降下スピードが速すぎだ。

 でもこれくらいじゃないと。


「これで最後…パワーリミッターゼロ」


 限界まで力を強化してやった脳筋アスティちゃんだぜ!

 到達点まであと少し。

 私に気付いても遅いぞー。

 さぁ振りかぶって。


『――っ上か!』

「私流奥義…脳筋天誅!」


 ただの力任せ超物理特化の一撃必殺!

 折れないソードが折れない事を祈りつつ、絶機将グレゴリオの兜を斬り付ける!

 ――ドゴォォオン!


 ふっ、決まった……私の膝くらいに陥没した絶機将の頭…結構埋まった。

 折れないソードは折れなかったけれど、ちょっと曲がっちゃったな。ママンに修理依頼しよう。


 イチの反応は無い。結構な衝撃だから気絶した?

 結果は兜というか頭が陥没…物理攻撃無効は私に掛かれば意味は無いという事が証明出来たな。

 うんうん、自動修復の効果か陥没した兜が直っていくけれど、まぁ上出来じゃない?


『……お前は、なんなんだ』

「言葉をお返しするよ。初対面で決闘なんかして、謎に憎まれてさ。なんなん?」


『お前さえ、いなければ…』

「そもそも、名乗り合ってもいないじゃん? 決闘って名前と所属を明らかにして立会人が居ないと成立しないよ?」


『くそ…馬鹿にして! 全てを凍らす絶氷の月よ! 墜ちろ!』


 冷気を吸収し続けた巨大な青い月が、町を潰す勢いで墜ちてきた。

 これが墜ちたら、宮殿どころか死の星が壊れるんじゃないか?


「はぁ、解り合う気なんて無いんだね…この技は卑怯だから使わなかったけれど…」


 星魔法と次元魔法と重力魔法を起動。

 超重力の星…重力点を圧縮、圧縮。空間の殻で包み、更にその殻の周囲に重力点を複数圧縮して空間の殻で包む。

 出来上がった球体は、軸になる銀色の星の周囲を黒い星がくるくる回る天体模型のような、手の平サイズの危険物。


 後はこれを持って、今にも私に墜ちてくる絶氷の月に押し付けるだけ。

 おーらいおーらい、よいしょ。


『……は? 消え、た』

「これは黒異天体。魔力で構成されたものなら、引き寄せて吸収する。大きさなんて関係無い」


 簡単に言えば、使い勝手の良いブラックホール。まぁ他にも能力はあるけれど…これでもまだ未完成なのだ。

 ロンドは星属性を持っていなかったから、不安定になって使いこなせなかった。

 私の為にあるような魔法だねっ。

 そして絶氷の月を吸収したから、黒異天体の中に青い星が追加された。


『だから…なんだよ! 凍神絶氷斬!』

「ほいっとな」

 眼前に迫るイチに黒異天体を向けて、吸収した青い星を解放。

 ズンッ! と、絶氷の月に超重力を追加した凶悪なエネルギーに、イチは押し潰されて地面に這いつくばる形になった。

 床の空間を固定しているから地面になんて埋まらせてあげないからねー。


『がっ…あっ…く…』

 ピキピキと、武神装にヒビが発生してきた。

 負けは認めない。まだやるのか?


「言っておくけれど、私は本気を出していない。敗けを認めてくれないと、殺しちゃうよ」

『く…そ……な…だ…れ…だ…』


 んー…まだ粘るかー。黒異天体を全解放したら死ぬから、手加減が難しいんだよなぁ。

 とりあえず上を見てみる。

 ……テンちゃん、もう終わっちゃうよ。まだなの? 普通ならこの回で出てくるでしょ? 私はもう帰って寝る気満々なんだからさぁ…


『は…かい…しん…さま…』


 あっ、ディアの事を待たなきゃいけないのか。

 ロクとナナは戴いたって言えば良いかな。


『ねが…い……こい…つを…ころ…し…たい…』

「ん? なんだこの気持ち悪い魔力…」


 イチから、変な力が発生してきた。

 怨念みたいな、憎悪みたいな…脅威には感じないけれど、気持ち悪い事は確かだな。


『ちか…ら…を! 私に! 力を!』

「おー、立った」


 イチの力が増大した。

 覚醒? いや、加護かな。

 何の加護だ?


『破壊神様が! 私に力をくれた! お前を殺す力を!』

「破壊神?」


 んー? 破壊神ってルナリードだよな?

 なんか、違うような…でも、戦えば解るか。

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