私は変身を残している余裕のある女だよ

 

 部屋から出て、次元魔法を使って上空へ転移。

 足元の空間を固定して、周囲を上から眺めてみた。


 さっきまで居たのは、宮殿のような豪華な建物。その周囲はコンクリートの塊のような建物が並び、建物が途切れた先はひたすらに荒野が広がっていた。

 ここは、恐らく死の星…かな。


「逃げるな! 混沌炎弾!」


 下からどす黒い炎が上がってきた。

 状態異常満載の炎は、かすっただけでも危険な炎。

 当たる事は無いけれど。


「エナジーバリア」


 この程度なら普通のバリアで防げる。普通のバリアというか、ロンドの次元魔法が追加されたお蔭で、空間を歪ませて射線の向きを変えて直撃を抑え威力を半減させている。

 確かに強いな。ママンと戦う前のディアくらいの強さだと思う。今の私より身体能力や魔力は上だろう。

 ふっふっふ、しかし私はカツオという難関試練を乗り越えた猛者なのだよ!


「邪王炎雷!」

 黒い炎を纏う雷が周囲を伝って私を囲うように迫ってきた。それでもエナジーバリアは貫通しない。

 イチは空中を浮いてまた魔力を込め…


「エナジーマジック・ソルレーザー」

 光の柱に呑み込まれた。

 おっ、その場に留まって耐えている。


『私もー、光帝フォトンレーザー』

「ぐっ、はっ…」


 テンちゃんが追撃。ソルレーザーの密度が倍増し、イチがドンドン下がっていく。


『もういっちょー、マジックリピート』

「ぐぁぁああ!」


 うわ、ソルレーザーとフォトンレーザーがバシュンバシュンと繰り返されていく。流石にレーザーの連発には耐えられないか。

 宮殿を突き抜け、イチが瓦礫に埋まった。

 これくらいじゃ死なないだろうな。今は怒りに染まっているから大した相手では無いけれど。


「憎い…憎い憎い憎い! 混沌…解放!」


 …力が上がった。

 憎悪を糧に…私をそこまで憎むなんて、よっぽど呪いを解除した事が許せなかったのか。それとも、別な理由か。


『おこー、おこー。肉い肉いー、アレスティア…お肉食べたい』

「とばっちりなのは間違いないなぁ。私も焼肉食べたい…妖精って肉食べるの? 花の蜜のイメージ」


『妖精は雑食。花の蜜を飲む事は多いけど、肉の油で喉を潤すのが好き』

「あ、わかるー。冬とか乾燥しているから肉の油が染み渡るよねぇ」


「死を超える苦しみを! カオス・キャノン!」


 イチが瓦礫から起き上がり、どす黒い魔法陣を向け、魔法陣から百を超える呪いや死霊の塊が飛び出してきた。全く、私達が上に居る事を忘れたのか?


『アレスティア、合体技ー』

「ほいよっ、重力百倍!」


 私が重力魔法を発動。黒い魔法陣を出現させ、テンちゃんが魔法陣にストレートパンチ。


『しねー、光重帝グラビトン・レーザー』

 可愛い掛声と共に重力百倍のレーザーが真下に射出。呪いや死霊を押し戻し、瓦礫に居るイチを押し潰した。一点集中の重力攻撃だから効率的かつ威力も倍増。

 テンちゃんの物凄い魔法操作だから成せる技だな。私じゃあ重力波を一点集中なんて無理だし。


「ロクちゃんとナナちゃんは大丈夫かな…あっ、いたいた」

『雌豚が避難させてるね。なんか他にも観客いるよ?』


「四人居る…残りのメンバーだね。後一人は見えないけれど、何処かに居るのかね」


 宮殿の屋上から、他の仲間が私達を眺めている。参戦してくる様子は無いな。観客が居た方が張り切っていこー。

 イチに放った重力レーザーのお蔭で、宮殿のど真ん中に穴が開いた。拠点の破壊も出来たので、ママンに褒めてもらおう。


『……中々出てこないね。死んだ?』

「いや、生きているけれどダメージ回復に時間が掛かっていそうだね」


『降りてみる?』

「罠だと危ないから、一撃必殺の準備だね」


『合体合体ー。準備準備ー』

「お次は冥の太陽!」


 漆黒の球体を肥大させ、巨大な球体へと変化。

 冥魔法は深淵魔法とは違う部類の黒魔法の最高峰。深淵魔法のような地の底に堕ちた黒では無く、天空に存在する黒。

 つまり、光魔法と相性が良い。


『光帝フォトンスプライトー』


 光の魔法陣が分解され、漆黒の太陽に絡み付いた。

 テンちゃんが手を向けていると、徐々に姿が変わっていく…けれど、スライムみたいにウネウネし始めた。


「…テンちゃん、これどうなるの?」

『好きな形になるよ』


「じゃあ格好良いの」

『りょーかい。上で作ってるね』


 テンちゃんがウネウネした冥の太陽と一緒に空へ向かっていった。どんなのになるのかなー。


「くっ…どうして…効かない…私の方が強い筈なのに…」

 おっ、穴からイチが上がってきた。悔しさを滲ませた表情をされても、私は敗けを譲ってやらんよ。

 軍服はボロボロで、青いブラジャーが見えてもお構い無しな所を見ると、相当悔しいのだろう。


「確かにあなたの方が身体能力や魔力は上だけれど、敢えて言うのであれば経験値だね」

「そんな筈は無い! 私は何十年分も過酷な修行に耐えてきた!」


「数十年じゃあ、私には届かない」


 羅刹煌とロンドの経験値が加算されたスーパーアスティちゃんには、たかが数十年の修行じゃあ届かないのさっ!

 身体能力や魔力は、今ノーマルアスティちゃんだからイチの方が上。だが私はあと二回ぐらい変身を残しているのさっ!


「……こんな奴をディア様は…認めない…認めない認めない認めない! 絶機氷剣よ! 私に力を!」


 おっ? イチが直剣を天に掲げ、剣の力を解放した。

 武装? どんなやつだろー…段々おっきーく。

 なんかデカイな。四メートルくらい…少し見上げる大きさの、青い全身鎧?

 周囲の温度が急激に下がった。流線型の不思議な形の翼から冷気が放出されている。氷属性なのかな?

 脚の大きさだけで私の身長を超え…太い腕に胴体。直剣を持つ大きな青い重騎士ってな感じかな。

 中はどうなっているんだろう。


「へぇー、大きくなるタイプもあるんだなぁ。へぇー、格好良いじゃん」

『絶機将グレゴリオ…武神装は最強の装備だ』


「武神装。最強、ねぇ…」


 最強なんて言葉、世に溢れているから安易に自分で使うものじゃあ無いよね。

 優しいアスティちゃんが、世界は広いという事を教えてあげよう。


 ところでテンちゃんまだかなぁ。

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