一応さぁ、私も世界観守っているんだからさぁ…
武神装、絶機将グレゴリオの色が変わっていく。
暗い紫色のような、心の陰のような…そんな色。
流線型の翼から、黒い煙が排出された。暗い感情のような…妬み嫉みのようなドロドロとした黒。
「そこまでして、私を殺したい理由は何? 呪いを解いた以外に心当たりが無いんだよ」
『…お前を殺せば、ディア様は私を見てくれる。お前を殺せば、私だけを見てくれる!』
「とりあえず、ディアを崇拝している事は解った。その破壊神は、本当に破壊神?」
『破壊神様は…私に力を与えてくれた…くくっ、凄い。力が漲る! 凍神絶舞!』
…速い。
この重力下で動けるという事は…重力に耐性が付いたか。
何か能力が追加されたみたいだけれど…
少し危険な予感がするから、今の内に殺した方が良いか。
「黒異天体、解放」
イチに向けて黒異天体の力を解き放った。
エネルギーが暗い氷を纏った大剣に触れた瞬間、大剣がバキバキに折れ、腕、肩を砕きながら胸へ到達。
砕かれているのに苦しんでいる様子は無いのが不気味だ。
やがて胸から胴体、脚、頭と砕かれ、エネルギーと砕かれた武神装が一気に凝縮。
「さよなら。天体爆発」
天空に向けて大爆発を起こした。
鼓膜を揺るがす爆音と、大気に伝わる振動で私の耳はキーンと響き、現在吹き飛ばされている状態だ。
これ…ダメージゼロ状態だから吹き飛ばされているだけなんだけれど、誰か居たら全員巻き込む大惨事だな。
「……てへっ、やり過ぎたかな」
完全にオーバーキルだな。町は消え、宮殿も瓦礫になっている。天空に向けなかったら死の星は完全に壊れていたよ。
もしかしたら、黒異天体ならママンにダメージを与えられるんじゃないかな。
「…ん? 宮殿に、気持ち悪い力があるな」
イチが破壊神と呼んでいた奴の…根源みたいな、行ってみるか。
……は?
『死ねぇぇえ! 絶対零度!』
生きていた!?
確かに死んだ筈。
あぁくそ、ダメージは無いけれど分厚い氷に閉じ込められた。
うん、動けん。
一応頭は動く…何故頭は動くかというと、傷とかみんなが悲しむから私は常に守っている。ママンのギガエナジー級の攻撃じゃないと通じないというヘンリエッテの金剛頭並みの防御力なのだ。
「確かに死んだのになぁ。加護の能力か?」
『絶氷奥義…』
んー、氷が透明だからイチが力を溜めているのがよく見えるよ。
どうするかな。転移でも出られるけれど、服に氷が貼り付いているから下着姿もしくは最悪すっぽんぽんで登場なんて女子としてやっちゃいけないな。
「破壊の……あっ…」
光のカーテンが開いた。
やっとテンちゃんが準備完了なのか。
ちょっと待ってみよう。
テンちゃんたーすけてー、イチの攻撃がもうすぐ来るぞー。
遠いから黒い影…段々近付いて……
『アレスティアー、お待たせー』
『もう何が来ようと遅い! 神氷千礼!』
いや…私攻撃食らってんじゃん。
普通さ、寸前で助けてくれるもんじゃん。
お約束ってあるじゃん。
私が吹っ飛ばされたせいでテンちゃん登場シーンを見逃したよ。
「テンちゃん、ちょっと痛いしさぁ……えっ……まじかよ…」
『アレスティアの為に頑張った』
いや…いやいやいや…それは…ね。
うん、大きな分類だと魔装なんだろうけれど…さ。
全高二十メートル超…黒光りするメタリックなボディ…洗練された重厚な脚部にホバー機構…背面部にジェットエンジン搭載…両肩には大砲が搭載され、手に持つは黒光りする立派な巨大マグロ…行方不明だと思ったらそこに居たのかマグロよ。
頭部は…あっ、これ幼女の部屋にあった機動戦隊ニャンモフにすげー似ている。
「ロボは…ちょっと…」
誰だよテンちゃんにロボアニメ観せた奴は……ちょっとちょっと、グレゴリオさん踏んでいるよっ!
『ぐ…ぎぎ…なんだ…こいつは…』
『早くー、乗って!』
胸部分がパカッと開き、目をキラキラと輝かせたテンちゃんが手招きしている。
え…乗るの?
いやぁ…流石にさぁ、これに乗ったら弱い者いじめみたいになるから…
と思いつつ乗ってしまう私なんだけれど…
中はマッサージ椅子みたいな所に座るだけ…ん? どうすれば良いんだ?
「これ、どうするの?」
『私が操作するから座っているだけで良いよっ!』
「あ、うん。じゃあよろしく」
『ふふふー、魔神装機・アレスティンカイザー! ごー!』
「ぉい名前…正気か?」
魔神装なんだね。となればテンちゃんにロボアニメを観せた第一容疑者は魔神装を使えるリアちゃんだな。
第二容疑者は幼女か。
と考えている間にアレスティンカイザーの背中にあるジェットエンジンが黒い炎を吹き、イチ…って言うと可哀想になるから、グレゴリオの首を掴んで地面に押し付けながら高速発進。
『ぐぁあ! なんて…力だ…』
うつ伏せの状態で地面を削りながら縦横無尽に駆け巡る。
ちょっと…それエグいよ。
『はははーしねしねー』
「……」
充分に地面とグレゴリオを削った所で、グレゴリオを放り投げマグロで空に打ち上げた。
錐揉み回転しながら空に打ち上がる様子は、大きな人形を放り投げたような脱力した…きっと気を失っているんだろうな…
『ひっさーつ。にゃん…げふんっ、アレスティンきゃのん!』
「……」
今ニャンモフって言おうとしたよね?
両肩に搭載された大砲がグレゴリオに標準を合わせ、黒光りするレーザーが射出され、見事に命中。
白、黒、青、紫の綺麗な花火が上がった。
『たまやー』
「…かぎやー」
『あれ? 復活した』
「あぁやっぱり? なんかさっきも復活したんだよね」
『ふーん』
百メートル先に、グレゴリオが現れた。
やっぱり復活で間違いないだろう。
グレゴリオが氷のシールドを展開し、それを見たアレスティンカイザーが即座にジェットエンジンを吹かして高速移動。
マグロを振りかぶって、勢い良く叩き付けた。
「あっ、死んだね」
『うん。でもまた復活した。リスポン能力だね』
「リスポン能力? 死んでも無条件で復活するの?」
『普通なら代償は払うよ。でも…能力は下がるどころか上がってるし、何か変な力と繋がってる』
「あっ、それ多分宮殿から感じたから、根源は宮殿にあるのかも」
『次殺したら行ってみる』
楽しそうね。
またやりたいって言うんだろうな。
再びグレゴリオが復活し、アレスティンきゃのんを放って粉砕。
宮殿に向かって高速飛行し、私の星乗りよりも数倍速いスピードで瓦礫の山に到着した。
「もう少し真っ直ぐ、少し右、そこそこ」
『んー、なんか石像があるよ?』
「破壊神様に…触れ…るな…」
アレスティンカイザーが二体の石像を掴もうとした所で、武神装を解除したイチが両手を広げて立ちはだかった。腰に挿した武神装の剣は、バキバキにひん曲がっていたのは見なかった事にしよう。
イチが守る石像は、雰囲気がディアに似た片翼の天使。その石像から、あの気持ち悪い力が流れ込んでいた。
「……違う。あれは破壊神の像じゃない」
『違うの?』
「うん、どちらかと言えば…こっちの像が破壊神っぽい」
もう一つの像は顔はよく見えないけれど、左手でチーとパーの間くらいに握って顔の前にやり、右手で白衣っぽい服をバーンと開いた…漆黒のナイトメアポーズをしている石像。こっちがルナリードっぽいな。
石像を作るなら格好良いポーズを決めたいと思う気持ちは解る気がするし…
なんだ? 声が…聞こえる?
「破壊神様、私に…もっと…力を…」
≪我等の…一部と…なるか?≫
「力を得られるのならば!」
≪くくっ、よかろう≫
「駄目だ…駄目だイチ! 離れろ!」
『アレスティア?』
「それは破壊神じゃない!」
アレスティンカイザーから降りてイチの元へ行こうとしたけれど、もう…遅かった。
「ぐっ…あっ…」
片翼の天使像が動き、イチの心臓を貫いていた。
そして、翼が広がり…イチを包み込んで、吸収…した。
「テンちゃん! こいつは像じゃない!」
『えっ、うん。きゃのん準備』
片翼の天使の表面がポロポロと崩れ、ディアに似た黒髪の女性が現れた。
なんだこの違和感と、嫌悪感。
『実らぬ愛は、憎悪に変わり…なんと、美味なる事か。片割れを待っている時間は無かったが…これは良い素材だ』
「なんだ…お前…」
『くくっ、そう急くな。我を、我等を視ろ。お前に会える事を、楽しみにしておったのだぞ?』
「視ろって……な…んだと…」
なんだこれ…沢山の…邪悪、憎悪、怨念、絶望を持つ者達。
その中に…なんで、こいつが居る。
『素晴らしい運命だとは思わないか? アレスティア』
「ベアトリスク…」
『我等は天明。我等は我等の願いを叶える。その第一歩を、踏み出す刻が来た』
天明は私を見据え、待ちに待ったご馳走にありつけたように、にんまりと笑った。
これは、何の因果か。
はぁ…状況把握で一杯一杯テンパりアスティちゃんだよ…
いやもうこれ…ふざけている余裕なんて無いんだろうな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます