挿話・運命に抗う者7

 

 くっ、何かが邪魔して上手く封印出来ない!

 でも、それごと封印してしまえばなんとか…


「ルナ様! 何かが邪魔しています!」


「グリーダちゃん、邪魔しないでよ」

「たぁすけぇてぇぇええ!」

『力が…削がれる…聖女の力か』


「このまま…押切ります!」


「遊んでいないで早く封印から出てよ。まじで邪魔だよ」

「ちがうのぉお! あっそうだ願い星ちゃん、ルルちゃんとデデちゃんとで温泉行くから一緒に行こー」

『我等を封印したとて、無意味な事を』


「もう少し…もう少し!」


「おぉいぃアホぉぉお! 掴むなぁぁあ! まじで離してぇぇえ!」

「一緒に行こうよー行こうよー。ところで何してるのー?」

『柔な封印だが、死を繰り返すよりも力を溜めた方が効率的か』


 真っ白い光が収まっていく。

 なんとか…封印出来た感覚だけれど…

 ……凄く…静かだ。


「……コーデリア様、封印完了したみたいですね」

「はぁ、はぁ、やった……えっ?」


 …私の目の前には、真っ白い三体の石像があった。

 一つは天明らしき、片翼の石像。

 もう一つは、変なポーズをした謎の石像。

 最後の一つは、ルナ様の石像だった。


「見事な石像ですねぇ。ん? 収納は出来ないので生きてはいるみたいです」

「そんな…ルナ様も…」


「主様は…まぁ、自らをも犠牲にしてコーデリア様を守りたかったんですよ。うん、どうしましょうかね」

「私を…いや、お姉さまを守りたかったんだと思います。お姉さまの写真をペンダントにして、いつも大事にしていましたから」


「そうでしょうか? 主様は家族でない限り誰かに食事を作るなんてしませんよ」

「…家族」


「ああ見えて恥ずかしがり屋ですからね。主様は言っていましたよ。二人の娘と食事を共に出来たら、幸せだろうな…って」


 ルナ様…私を、娘だと思ってくれていた…

 嬉しい…でも、この状況はどうしたら…

 悲しい気持ちが込み上げて来た。寂しいよ…


「封印を解除したら…天明の封印も解除されちゃうし…」

「あっ、コーデリア様…お話があります。割りと大事な話です」


「……なんでしょうか」

「主様は破壊の神。研究やらしていますが、本業は破壊活動です。なのである程度破壊活動をしないと、存在が薄くなるのですよ」


「存在…じゃあ、私が封印したせいで…破壊活動が出来ない」

「そうです。更に主様はサボり魔の引きこもりなので、結構仕事破壊活動が溜まっていまして……もし宜しければ、破壊神の眷属として破壊活動をしませんか?」


「えっ…破壊って、何を破壊するんですか?」

「もちろん、世界です。と言っても必ず全壊しなければいけない訳ではありません。半壊以上ですね」


 何を、言っているんだ。

 世界の破壊?

 私が…出来る訳無いでしょ。


「断ったら…ルナ様は…消えてしまうんですか?」

「そのまま消えるか、天明に吸収されて消えるか、最悪の場合…覇道と呼ばれる存在に堕ちて目に映るもの全てを破壊してしまうか…ですね。因みに破壊すればする程、主様の神力は上がります」


「そんな…破壊って…」

「そこで封印された振りをしている痴女の力を持つコーデリア様なら余裕ですが、幾つか世界を壊して貰いたいので…この処女達を使いますか?」


「……考えさせて下さい」

「良いですが、主様が封印されてしまった以上…早めに対処しなければいけませんよ。わたくしは主様が好きなので、わたくし一人でもやりますがね」


 ルナ様が封印されたら、負の力のバランスが崩れてしまうらしい。

 邪悪、混沌、破壊の均衡が崩れると、表と裏の世界が繋がる次元の歪みが増えてしまう。

 今すぐルナ様の封印を解除したいけれど、おかしい…私の力じゃ難しい…どうして…


「封印が…強くなっています!」

「恐らく主様の仕業ですね。解析…なるほど。邪悪、混沌、破壊の力が無ければ封印が解除されない仕組みですか」


「邪悪と混沌は、私が持っています。でも、破壊の力が…」


 今まで、破壊の力は目覚めた事は無かった。

 きっと…天明が持っているのだろう…


「破壊の力を持っているのは…主様と、もう一名だけです」


「えっ、誰ですかっ!」

「裏世界の王…と呼ばれる存在です。会うのは難しいでしょうね、時間もありません。裏世界へ行き、裏世界の王を探している間に主様は消えます」


「そんな…」

「その場しのぎですが、世界を一つ破壊しましょうか。その後、幾つかの世界を一気に破壊します」


「一気に…どうしてですか?」

「一気に破壊すれば、しばらくは主様の力が上がり消える事も天明に押し負ける事もありません」


 押し負ける? まさかっ!

 ルナ様を視ると…少しずつ力が減って…天明に流れている。

 このままでは…ルナ様が吸収されてしまう。


「…やります。ルナ様は絶対に消えさせません!」

「了解致しました。では、違う拠点に移ってから、世界を破壊しましょうか」


 メイドさんが紫色の魔法陣を展開すると、身体が浮く感覚と共に転移した。

 ここは…前と同じ研究室だ。

 一緒にルナ様と天明の石像も転移してきた。あれ? もう一体の石像は?


「ここも、死の星なんですか?」

「はい、では今後の予定として…世界の破壊と、加速空間にて処女達を育て上げ、一気に世界の破壊を行います。宜しいでしょうか?」


「はい…天異界から見たら、私達は悪…ですよね?」

「ええ、大罪人ですね。ですが己を貫く正義でもあります。今なら引き返せますよ?」


「いえ…きっと、お姉さまから見たら私は敵なんだろうな…って」

「味方にしてしまえば良いのでは? 主様の娘なのですよね?」


「味方…無理ですね。お姉さまは、黒金が守っています」

「黒金が守る? ご冗談を。主様より破壊が似合う乱暴者ですよ?」


「本当ですよ。お姉さまを手に入れるには、黒金を倒さなければいけません」

「それは…本当だとしたら難しいですね。主様と痴女が協力してやっと互角に戦えるレベルですよ?」


 そんなに強いのか……確かに…初めて見た瞬間、息が出来なかった…

 あの時の衝撃は、私の心に刻まれた大きな傷だ。圧倒的な威圧感、魔力、美貌…全てにおいて人智を超えていた。考えただけで胸が苦しい。


「でも必ず、黒金は超えてみせますよ。その為に、この身体を上手く使わないと」

「では、参りましょうか。天異界序列千位くらいから壊しましょう」


「…はい」


 本当に、とんでもない事をしようとしている…でも、後戻りは出来ない。

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