挿話・運命に抗う者6

 

『この天命に、祝福を。我等の次なる前進は…』


 ルナ様が両手に包丁を取り出した。あれって、いつも料理に使っている包丁だよね?


「仕方がない…弱らせるか。ディヴァインセイヴァー、アビスセイヴァー」


 包丁から伸びる光の刃と闇の刃。

 格好良いんだけれど、何故包丁なんだろう…お姉さまもダサ格好良い時があったから、親子の遺伝なのか?


 瞬時に天明の背後へ移動し、両腕と両足を斬り刻んだ。

 そのまま重力に従ってずり落ちるかと思ったけれど…確かに斬った。これは…再生能力。


『まだ我等は、強く成れるのか。クハハ…素晴らしい。強さこそ、正義…白銀の星よ』


 ルナ様に斬られている天明が片手を上げると、青い球体…立体魔法陣が出現。青と、時折銀色に光る立体魔法陣が空高く上がっていった。

 この魔力は…異常だ。


「はぁ…あの魔法まで使えるのか。破壊の一撃」


 天明が砕け散り、また復活。

 少し魔力が弱まったけれど、破滅の月歌に匹敵する魔力を持つ立体魔法陣が…上空で発動した。


「コーデリア様、避難しますよ。とりあえず飛んで下さい」

「いや、どうして私に捕まるんですか? 離れて下さいっ、うゎ…星乗り」


 青銀の綺麗な尾を持つ流星が墜ちてきた。

 ルナ様が退避した瞬間、大地に着弾。

 ピキピキと氷が走る様に大地が凍り付き、眼下には白銀の大地が広がった。

 メイドさん…寒いからって密着しないで。


「…Gは魔導主という天異界最高峰の魔法使いで、どんな属性も使いこなせる存在です。もし、全ての魔法と能力を受け継いでいたら大変ですね」

「私は…あんなの出来ませんね。魔法と能力は…恐らく私と半々になっていそうです」


「解るのです?」

「はい…同じ血が流れている影響でしょうね。話し合いでは駄目なんですか?」


「駄目ですね。主様は好奇心に負けて色々ぶっ込んだ御様子。大犯罪者達や、この前持ってきたコーデリア様と一緒に持ってきた人間も混ぜた恐れがありますし…」

「えっ? 一緒に? 誰ですか?」


「名前は知りませんが、うるさいおばあちゃんでした」

「おばあちゃん? あっ……えっ…もしかして、お母様……」


 うわ…ベアトリスクも入っている? だから何か繋がりを感じるのか? それに…凍り付いた大地に佇む不気味な感じ…嫌な予感しかない。

 これは頑張って運命を視なければいけない気がする。


『まだ、まだ足りない。超鋼の星よ』

「魔力は回復しているが、減りの方が早いか。超高速演算はあるが、超魔力回復は無いみたいだな。あの能力さえ無ければなんとかなる」


 今度は黄色い立体魔法陣。

 なんていう魔力操作…魔法の素質は天明に行ったみたいだ。でも、私には能力がある。


「メイドさん、天明に対峙してきます」

「では、わたくしも行きます」


「危険ですよ?」

「何処に居ても一緒ですよ。それに、わたくしには予備の身体があるので何かあってもわたくしだけ生き延びられます」


「あっ、そうですか」

「やっぱり怖いので待っています」


「あっ、はい」


 とりあえず、あの黄銀の塊が墜ちてからだな。

 ルナ様は、黄銀の塊を眺めながら魔力を溜めていた。


「毒なら効くか? ダークネス・ポイズン。百苦の星毒」


 ルナ様が真っ黒いドロドロした液体と、銀色の液体を天明に浴びせた。

 天明の肌が爛れていく。効いていそう…

 その時、黄銀の塊が墜落。

 激しい衝突音と爆風が吹き荒れ、凍り付いた大地が砕けていく。


 よし、今だ。

 星乗りから飛び降り、天明の目の前に対峙した。


『お前は…我等と同じ匂いがするな』


「コーデリア? 危ないぞっ!」

「さぁ、視せて下さい。運命の瞳!」


 黒く淀んだ瞳の運命を、覗き込んだ。

 くっ、一気に流れてきた……様々な世界、様々な文明が崩壊していく様子。沢山の者が倒れ、その中に佇む…お姉さま? 嘘…お姉さまが…まさか…こいつが…


『その瞳、貰おうか』


 ――っ! まずい!


「コーデリア!」

「ルナ…様」


 天明が紫色の剣を出し、そのまま私に突き刺さして来た。でも、ルナ様が私を庇って…

 胸元を剣の切先が貫通していた。


「くっ…コーデリア、無茶をするな」

「ルナ様っ! 回復しなきゃ! グレーターヒール!」


「気にするな。破壊の一撃」


 天明を吹き飛ばした隙に、傷をよく見てみる…回復魔法が効かないのか。


「大丈夫じゃありません! そうだっ! 禁薬作製・エリクサー!」

「コーデリア、禁薬作製が出来るのか?」


「はいっ! 早く飲んで下さい!」

「くふっ、ありがとう」


 禁薬エリクサーを飲んで、胸元の傷は消えた。良かった…

 禁薬作製…Gがよく使う能力としてルナ様から聞いていた。想いが強ければ強い程、強力な禁薬が作製出来る。

 その分反動が凄いけれど。


「Gの能力は私と天明で、半分ずつ受け継いだみたいです」

「そうかっ、奴は禁薬作製を使えないんだな! 良かった!」


「これ、凄い能力ですね」

「あぁ、天明が持っていたら終わりだった。っ! 離れるぞ!」


「乗って下さい!」

『あやつは…我等の…片割れ? 業獄の星』


 赤い流星が墜ちてきた。

 直ぐに星乗りで移動したけれど、直撃は免れるけれど間に合わない。


「ここなら大丈夫だ。リフレクト・ミラーフォース」


 ルナ様が銀色のシールドで爆風を弾いて…星乗りがビリビリと揺れていた。

 砕けた大地は、業火に焼かれて熔けていく。なんて魔法を連発するんだ…

 天明の魔力が高まった…次は風属性、まだ撃つのか。

 いやそれよりも、大事な事を伝えないと!


「あっルナ様! お姉さまが…お姉さまが…」

「アレスティアが…どうかしたのか?」


「あいつに…天明に殺されます」

「…なんだと?」


「天明の運命が視えました。変えようにも、私の力が足りません」

「……大丈夫だ。そんな運命、私が変えてやる」


 私のせいだ。

 私がルナ様を喚び出したから…

 …過去は変えられないのは解っているけれど…いや駄目だ、この運命は変えなきゃ!


「私も手伝います! 禁薬作製・天地の秘薬! 飲んで下さい!」

「これは四属性無効化か。やるなコーデリア」


 Gの能力や魔法があるという事は、天明が次にやる事も何となく解る。


『真嵐の星』


 暴風を纏った星が墜ちてきた。

 本当に、魔法の才能が凄いな。

 星属性に光と闇属性以外を乗せるだけでも大変なのに、水、土、火、風の属性を乗せて来た。

 恐らく次の一撃で星が壊れる。


「コーデリア、封印禁術は使えるか?」

「えっ、はい。でも私の力じゃ難しいです…」


「弱体化させる。その隙に封印してくれ」

「私が…はいっ!」


 任せて貰える。何かを任せて貰えるのは、初めてだ。結局私は、籠の中に居た役立たずな世間知らずだった…ただ、お姉さまに憧れるだけの。

 今は違うと、感じる事が出来れば、この黒い気持ちも変わるかもしれない。

 …力を溜めないと。


「わたくしもお手伝い致しますね」

「…まぁ、仕方がないか。頼む」


「ふふっ、ではイッて来ます」


 メイドさんが星乗りから飛び降り、天明に向かって歩く。その足取りは、ワクワクしている様な…

 大丈夫なのか?


『我等の前に立ち塞がるは…偽りの人か、偽ざる未来か』

「ふんふんふふーん、能力解析ー。ほっほー、なるほどー」


『我等に敵対し、何を得る』

「未来の快楽に決まっているじゃあないですか。十八禁魔法・勝利の媚水」


 なんだ…この雨。なんか寒い。

 えっ、媚水って何?


『笑止、明日なぞ巡らぬ。巡るのは、終末。元素の真星』


 青、黄、赤、緑の立体魔法陣が合わさり、物凄いエネルギー体が出来上がった…これが墜ちたら、この星は壊れる…


「はっはっはー! 何言っているか解りませんねぇー! 十八禁魔法・極亀甲縛り!」


 メイドさんが高笑いを上げながらどす黒い魔法陣を発生させると、黒い縄が天明に纏わり付いた。

 凄い…天明の力がどんどん減っていく。

 その真上で、死んだ目のルナ様が白と黒の包丁を一つに合わせ、銀色の剣を作り出した。


「全く…恥ずかしい魔法を…破滅の星剣。ん?」


 そして、天明目掛けて銀色の剣を一気に振り下ろした。


「ねっがい星ちゃーん! 遊びに来たぎゃぁぁああああ!」


 …ん?

 今何か見えた気がするけれど、早く封印禁術をしなきゃ!


「いきます! 封印禁術!」

「えっ、ちょっ! やめてぇぇえ! いやぁぁああ!」


 うわっ、凄い光。

 真っ白い鎖が天明に向かい絡み付いた感覚。よし、力を奪っていこう。

 視界が真っ白で、何が起きているか解らないけれど、やるしかない!

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