挿話・運命に抗う者5

 意識が浮上してきた。もう何度目になるか解らない身体が変わった感覚。

 今度は、違った。

 内に秘められた力と…この衝動…


「気分はどうだ?」

「……前と、全然違います。この身体…凄いです」


「そ、そうか。アホになっていなくて良かった…」


 いや、多分アホになっている。

 色々な衝動に襲われているから…脱ぎたい衝動やら、ふざけたい衝動やら、男と女のカップルを殲滅したい衝動やら…

 多分…多分理性で抑えられると思う…多分。


「容姿は、結構変わりましたね」

「まぁ奴の血が濃いのだろ。本当に…アホになっていなくて良かった」


「は、はいっ、そっ、そうですね! ははは…あ、あの…それは…なんですか?」


 なんだろう…部屋の中央に、大きな白い繭の様な物があった。

 中から…ドクンドクン、と脈動する音が聞こえてきた。


「集めた血を、全部入れてみたんだ」

「……これ、大丈夫…なんですか?」


「いや…失敗したかも…」

「え…失敗? やり直さないんですか?」


「やろうと思ったのだが……この繭、超進化の繭という羽化するまで過剰防衛する危険物でな…いやまじどうしよう…」


 ルナ様が焦る程、この超進化の繭というのは危険なのか…

 羽化したら、どうなるんだろう…その前に、私以外の魂が入っている。


「これは、命を宿したんですか? それとも誰かの魂が入っているんですか?」

「……まぁ、とある魂を入れた」


「どう、なるんですか? それに鼓動が早くなっていませんか?」

「Gは昔…手に負えない程強くは無かったが、この超進化の繭で進化した特異体なんだ。だからこれが羽化したら、今のGの様に私の手に負えるか不安…だな…」


「じゃあ…どう、するんですか?」

「羽化した瞬間に殺す。壊れろ」


 ルナ様が天井に手を向けると、部屋の天井と壁がサラサラと砂になる様に消え、満天の星空が広がった。

 周囲には壊れた町? でも人の姿は無く、町らしき場所以外は黒い土が広がる荒野だった。今更だけれど、外は初めて見る。


「因みにここは、どこなんです?」

「星が世界を作る事を諦めてしまった場所。通称死の星だ」


「死の星…邪族に滅ぼされたっていう…」

「まぁ似たようなものだ。生命の無い世界で、水や風も無いぞ」


 これが、死の星。

 ルナ様はここで研究をしているのか。

 何の研究かは知らないけれど、破壊の神だから破壊に繋がる事なのだろうか。


「主様、何事ですか?」

「悪いが実験に失敗した。この拠点は駄目かも知れないから、色々と回収頼む」


「あらあらまた失敗ですか? 了解致しました。この処女達は貰っても?」

「駄目だ。避難させてくれ」


 メイドさんが現れ、資料を回収して保存された身体は遠くに投げようとしていた。投げちゃ駄目でしょ。


「メイドさん、私が収納します」

「あら? どこぞの痴女に似た方はもしやコーデリア様ですか? なるほど…研究に行き詰まって血迷った挙げ句に痴女の血を使った訳ですか。馬鹿なんですか?」


「…恨み言は後で聞く。まさかここまでアホみたいな事になるとは思わなくてな」

「予想出来た範囲でしょうに。で? どうするんです?」


「羽化した瞬間に殺すに決まっているだろ。月蝕」


 うわ…上空に大きな球体が出現。

 黒く染まっていくと同時に、恐ろしい程のエネルギーが凝縮されている…これ、凄い。私の星体観測とは大違いだ。


「これが、ルナ様の力…」

「いやぁー主様はこの星を壊す勢いですねぇー」


「星が壊れたら…ここはもう無くなるんですね」

「そうですね。まぁ世界が壊れた死の星は壊すが簡単なので、少し本気を出したら粉々ですよ。あっ、羽化するみたいですよ」


 超進化の繭にヒビが発生し始めた。

 なんだ…寒気が凄い。


「羽化したばかりで悪いが、死んでくれ。破滅の月歌」


 繭のヒビから光が溢れた時、ルナ様の魔法が堕ちてきた。

 全てを呑み込む闇の月。触れるだけで破滅へと導くエネルギー。空間が軋み、大地が悲鳴を上げるように地響きが起きた。


『これ程迄に…喜ばしい刻は…あっただろうか』


 羽化したばかりの者に、破滅の月歌が堕ちた。

 大きな月が大地にめり込み、周囲をも崩壊していく。

 これは、殺す事が出来ただろうな。私なら一瞬で消える程だ。


「……もう一度だ。破滅の月歌」


 うわ…また放つの?

 やり過ぎじゃない?

 ……え……一瞬…生きているのが見えた。


『知識はあった、技術もあった…だが、人の域を超える事は出来なかった』


 再び、破滅の月歌が堕ちた。

 おかしい…一瞬だけれど、最初よりも力が上がっていた。


「……くっ、邪神特性か」

『幾多の天命が交差したこの身体…我は…我等は何者にも成れる』


 ルナ様が渋い顔で考察するように腕を組んだ。

 邪神特性…闘えば闘う程に力が上がる特性。限界を超えるまで能力が底上げされる反面、身体が変質していく。

 もしかして、Gは邪神だったのか?


「死なない…まさかこの能力は…破壊流星」

『やっと…手に入れた。我等が求めた、不死の力』


 白と黒の斑模様の星が次々と墜落し、何者かの身体を破壊しながら貫いていく。

 …これ…何度も何度も死んでいる。でも、何度も何度も復活していた。

 普通じゃない。復活速度が異常だ…


「くそ…最悪だ。リスポンだと…」

『我等は…新たなる世界の夜明けとなり、幾多の天命を支配する存在』


 両手を広げて悦びに満ちた者。

 黒髪の上に天使の様な黒い環…それに、片方だけの黒い翼。

 また…力が上がった。


「まずいですねぇ。痴女のリスポン能力をお持ちとあれば、勝負が着きません」

「リスポンって…あの復活ですか?」


「はい。一定時間後に復活する普通のリスポンとは違い、痴女のリスポンは間隔がありません。死亡と復活が同時なのです」

「じゃあ…死なないって、事じゃないですか…」


「そうなります。耳を澄ませてみて下さい。主様は混乱するとボソッと弱音を吐くので…」


 弱音…独り言はたまに聞くな。ふとした時に心の声が漏れる所は、お姉さまとそっくりだから。


『我等の名は、天明てんめい


「…あぁやべ、勝てねぇ」


 ……凄い弱音だ。

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