挿話・運命に抗う者4

 

 あれから、新しい身体を手に入れた。

 生命の宝珠にお姉さまの血と、ルナ様の血を入れて作った身体。


「――やぁ!」

「……」


 剣にありったけの魔力を込めた本気の一撃。

 ルナ様の肩に直撃するも、無傷。

 全くダメージが無かった。


「はぁ、はぁ…」

「むぅ…ここで成長は頭打ちか…」


「…すみません」

「いや、コーデリアのせいじゃない。私の計算ミスだ。まだ時間はある」


 次の身体を試すのか。

 この身体は、廃棄されるのだろうか…折角お姉さまとルナ様の血で出来た身体なのに…


「あの…この身体はどうなるんですか?」

「……リサイクルだな。身体の時を戻して分離すれば、また生命の宝珠が使える」


「そんな事が、出来るんですね」

「あぁ、この生命の宝珠は貴重だからな。成長が伸びそうな保留にする身体は保存するから、まぁ大丈夫だろ」


 それなら少し安心かな?

 お姉さまの血も減らさずにまた使う事が出来る。

 すっかり慣れてしまった身体を手離すのは寂しいけれど、強くなる為だ。


「一時間程で出来るから、休憩していてくれ」

「ははっ、便利ですね。加速空間って」


「まぁな。これのお蔭で修業も早いし…時間の感覚はずれるがな」


 加速空間という場所で活動すれば、時間の変動があれど、百日修業しても外に出たら一日くらいしか経っていない。

 これでお姉さまに会える時が大分早まった、と思う。


「では、少し休みます」

「…あぁ」


 研究家なルナ様とは、大分打ち解けたと思うけれど、まだ少し壁があると感じていた。何か他に研究をしていてもはぐらかされるし、友人らしき人が来ても紹介はしてくれない。


「はぁ…」

「コーデリア様、お悩みですか?」


「ひゃっ!」


 メイドさん…背後から耳に息を吹き掛けないで欲しい。

 匂いを嗅がないで欲しい。


「次の身体に移るのですか?」

「はい…あの、近いです」


「じゃあ…処女を下さい」

「だっ、駄目です! じゃあの意味が分かりませんよ!」


「次の身体に移ればまた処女ですよね? コーデリア様は気晴らしになりますし、わたくしは処女を堪能出来る…ウィンウィンな関係です」

「い、や、で、す!」


 この人はずっとこの調子だから、気分を狂わされる。私は焦っているというのに…


「コーデリア様、リラックスは必要ですよ。最近無駄に力が入っています」

「それは…分かっています」


「ほら、肩こりが酷いじゃないですか。マッサージくらいさせて下さい」

「……ありがとうございます」


 メイドさんに肩を揉まれながら、ルナ様を待っていると、だんだん眠くなってきた…


「そのまま…そのままリラックスして…寝ても良いですからね…ふふふ…」


 寝たら嫌な予感しかしないけれど、この眠気には抗えなかった……


 ……

 ……

 ……ん? 私、寝ていたな…


 身体を起こしてみると、身体が小さく…あっ、そうか。次の身体か。


「コーデリア、おはよう」

「ルナ様、おはようございます。新しい身体ですね」


「あぁ、それとあの変態は縛っておいたから安心してくれ」


 あの変態? 辺りを見渡すと、部屋の隅で木の馬に乗りながら縄で雁字搦めのメイドさんの姿…口には変なボールが咥えられて、私と目が合うと顔が紅潮して嬉しそう……なんか見ちゃいけないものを見た気がする。


「あの…あれご褒美ですよね?」

「……結果的にな」


「……あっ、今度は誰の血を使ったんですか?」

「今度はエルフの血を使った。魔法の適性は上がっていると思うが」


「はい、確かに前よりも魔法が使えそうです」


 早速、次の身体で修業を行った。

 ルナ様の修業は厳しい。立てなくなっても、魔法で回復されて立ち上がるを繰り返して、根性は育ったと思う。

 でも…前よりも少し良くなった程度。

 また、次の身体に移って、同じように修業をした。


「次の身体を試そう」

「はい…」


 何度も、何度も繰り返した。

 繰り返したけれど、駄目だった。

 ルナ様に傷一つ負わせる事が出来なかった。


「はぁ…難しいものだな」

「お姉さま、凄いですね。自力で、あんなに強くなって…」


「直接聞いてみたいものだな…アレスティアの能力は、何か知っているか?」

「お姉さまが失踪してからを知らないので…詳しくは…あっ…」


「何か思い出したか?」

「お姉さまは、美少女百人の血で作られたって言っていました」


「美少女百人? まさか…アイツは全員生贄に使ったのか……絶望に堕とした美少女百人という混沌に、私の破壊……この宝珠は耐えられるというのか…」


 ルナ様は難しい顔をしながら、悩んでいるように見えた。

 凄く悩んでいるように見えた。私に言い辛い事でもあるのかな?


「ルナ様、やりたいようにやって良いですから。私は強くなれるなら、なんだってします」

「いや……ずっと悩んでいたのだが……一つ、試していない血があってな。私の知る限り、一番強い者の血だ。だが、副作用があるかも知れないから…」


「やります。どんな副作用でも耐えてみせます!」

「いや、その副作用はな……アホになるかも知れない」


「えっ……」

「強いんだ。強いのだが、アホなんだ。駄目と言われた事は何がなんでもやるし、風呂に入る時だけ服着るし、リア充を見ると物理的に爆発させようとする…他にも…」


 なんか…凄い方が居るんだな。ルナ様の愚痴が延々と続いている…

 それでも…強くなれるなら…例えアホになろうと構わない。アホみたいにお姉さまを愛しているから、大丈夫。


「ルナ様…やりましょう!」

「コーデリア……分かった…駄目なら直ぐ止めれば良いんだ…大丈夫」


 自分に言い聞かせるように呟いて、研究室へと足を運んだ。

 やると言った手前、私も研究室に付いて行く事にした。

 研究室はいつもの部屋の隣。大きな透明な円柱に液体が満たされ、その中に保留にした身体が十体程保存されていた。

 その他にも、黒く淀んだ円柱があったり…何か怖い場所。


「この身体に命が宿る事はあるんですか?」

「あぁ…この液体から出せば、生命の宝珠の能力で命が宿る…と、思う」


「もしこれが成功したら、出してあげたら…どうですか? 私、思い入れが強いし…一応、ルナ様の子供…ですよね?」

「…その内な。今回は二種類の身体を作る」


 お姉さまの血も入っているから…お姉さまの子…いや、違うな。血が入っているだけ…それだけだ。


 ルナ様が大きな瓶に入った血を出した…これ、多くない? 致死量超えているよね…


「この量…とても大きな方、なんですか?」

「いや、死ぬまで血を採った。死ぬまでというか、死の概念が薄い奴だから採れるだけだがな…よしっ!」


 二種類の身体…ルナ様と、お姉さま、Gという人の血を混ぜたものと、集めた血を全種類ぶちこんだもの。


 どうなるか想像も出来ない。

 正直、全種類ぶちこんだものは…恐いな。

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