挿話・運命に抗う者3

 

 白と黒の怪しい扉を抜けた先…薬品の匂いが漂い、棚に謎の物体が並ぶ部屋に到着した。

 部屋の中は明るく、沢山の魔導具があるけれど、どんな機能があるか想像も出来ない。

 少し待っていると、扉からルナリード様が現れた。


「さて、ようこそ。ここは私の家だ」

「家…あっ、お招き戴きありがとうございます!」


「畏まらなくて良い。しばらく共に過ごすのだ。まぁ…そうだな…アレスティアの妹なのだろ? それならば、家族のように接して貰っても構わない」

「は、はぃ…では……ル、ルナ様。宜しくお願い致します」


「まっ、追々直してくれ。あっ、そうだ」


 ルナ様は部屋の中央にある机に、お姉さまの自撮り写真を飾った。数秒程眺めた後、先程取って来た生命の宝珠を取り出して何やら調べている。


「あの…ルナ様は、お姉さまに会われないのですか?」

「……会ってどうする? 何と声を掛けたら良いか解らん」


 私の方をチラリと見て、呟くように答えた顔は…凄く会いたいと言っているようで、胸が締め付けられる想いだ。出来れば、会わせてあげたいな。


「あの…私は、何をすれば、宜しいですか?」

「あぁすまんな、先ずはこれで知識を身に付けろ。コーデリアの世界は天異界と呼ばれる組織に所属する、序列二十位の世界だが…先ずは天異界や世界、神や概念についてだな」


 半透明な板の魔導具を渡され、説明された使い方に沿って使ってみた…これ、凄い。調べたい知識が直ぐに解る。

 組織や世界の事はもちろん、魔物の仕組みや魔力の知識…夢中で頭に入れていった。


「ルナ様…こんなに沢山世界があって、神様もいらっしゃるんですね…ルナ様は、どんな世界の女神様なのですか?」

「私は裏世界と呼ばれる、特殊な世界の一部を管理している。調べてみたら出るぞ」


 魔導具で裏世界ルナリードと調べると、出てきた。破壊神ルナリード…なんか、格好良いな。

 邪悪、混沌、破壊…ルナ様は悪い神なのかな?


「あれ? でも破壊神は行方不明って…」

「ん? そうなのか? 見せてくれ」


 魔導具には破壊神は長い間姿を消していると書かれていた。


 ルナ様が私の隣から魔導具を覗き込んで…近い…ドキドキする。私はお姉さまが好きなのに…喜んでいる自分が居る。良い匂い…綺麗な首筋…いや駄目だ駄目だ!


「あぁ…もうそんなに経っていたか。破壊の力を封じてから、加速空間を使わずに研究に没頭していたから…どうした?」

「あっ、いやっ、なんでもないですっ」


「とりあえず私は血を収集してくるが…何か食べるか?」

「はいっ」


「少し待っていてくれ」


 ルナ様もご飯とか食べるのかな? 長い髪を後で縛って、部屋の隅にある台所らしき場所で…えっ…料理するの?

 包丁で食材を一瞬で切り、調味料を出して指をパチンっと鳴らしたら…もう出来ていた。

 鮮やかな炒め物に白いライスに茶色いスープ? それに副菜も多くて…なんだろうこの衝撃は…


「うわぁ…良い匂い…」

「食べたら食器は水に浸け置きしておいてくれ。じゃあ」


 えっ…一緒に食べてくれないの? 行っちゃった…


「……美味しい」


 流石はお姉さまのお母様。完璧だ。

 でも、これから一緒に居る事で…ドキドキし過ぎて私の精神が保つのか?


 美味しく戴いた後、言われた通りに食器を浸け置きし、魔導具で情報を見ていく。

 読めるけれど、解らない用語が多い。そもそも天異界ってなんだ?


 ……天異界同盟は、簡単に言えば有事の際には世界同士で助け合おうという同盟。有事とは、同盟外や裏世界からの進行、星の危機…後は…


「時折現れる、強くなり過ぎた者の始末…」


 強くなり過ぎた…世界を管理する神が手に負えなくなった場合は、始末されるのか…お姉さまは、大丈夫かな…


「大丈夫…お姉さまの運命は、私が変えてみせる…」


 その為には…強くならなきゃ…


 ……ルナ様まだかな。

 何か扉がガチャガチャ言っている…


「失礼致します」


 ……誰か来た。メイドさん? なんか…格好が独特というか、紐か何かを身体に巻いて…メイドさんはスタスタと部屋に入り、私を見て首を傾げた。


「はっ、初めましてコーデリアと申します!」

「あぁ…お客様が来ていたのですね。ふむ…」


 メイドさんが紐を私に差し出してきた。

 えっ…何?


「えっ…なっ、なんですか…」

「これを引いて貰えますか?」


「こっ、こう…」

「……もっと強く」


 強く? この紐って、身体に巻いてある紐に繋がっているよね?

 結構ギチギチ絞まっているけれど…


「こうっ、ですか?」

「……本気で」


「はっ、はいっ。行きますよ」

「そう…それで良いのです。貴女のアレを存分に感じさせて下さい」


「ただい…ま…ちょっ! 何してんの!」


 本気で紐を引くタイミングで、ルナ様が帰ってきた。

 何か焦った様子でメイドさんと私を離して、メイドさんを睨んでいる。


「ちっ…おかえりなさいませ」

「おい…どうやって入った…」


「わたくしに開けられない鍵はありません。さぁ、いけない事をした悪いわたくしを心イクまで罵って下さい」

「嫌だよ。あっち行けっ。しっし!」


「それは放置プレイですか? 生憎わたくしは構ってチャンなので放置プレイは苦手です。そうそう、お客様が来るなら事前に言って戴かないと困ります。ただでさえ部屋が汚いのにお恥ずかしい」


「お前の方が恥ずかしいわっ! 亀甲縛りで徘徊するなと何度言えば解るんだよ!」

「わたくしからそれを取ったらただのメイドですよ? 今日はお洒落して赤い縄なんですよ? そんな事も解らないのですか? あっ、これお手紙です」


 なんだ…このメイドさん怖い。

 美人なのに変態だ…


「コーデリア、変態メイドがすまないな。早速試作を始めよう」

「あっ、いえ…」


「ところでコーデリア様は人間ですが、どういったお客様ですか?」

「お前に関係無いだろ」


「関係大有りですよ。主様のお客様ならわたくしのお客様ですからね。ではわたくしは隅で視姦していますのでどうぞ」

「はぁ…勝手にしろ。じゃ、やろうか」


 メイドさんが隅へ移動する際、ルナ様の尻を触っていた。それを気にしない様子だから、日常なのか…?

 私もこの日常に慣れていくのだろうか…

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