この胸騒ぎと鳥肌は…

 

 ……なんやかんやでノワールさんが復活した後、天異界の監査員や救護員やらがやって来て、ギュレスの調査を始めた。

 ノワールさんがキビキビと指揮をする姿は格好良いな。


「ノワール様! 負傷者の回復と復活完了致しました!」

「ありがとう、リスト作っておいてね」


「ノワール様! ギュレイドスを発見しました!」

「ありがとう、本部に連行しておいて」


「ノワール様! 今日も素敵です!」

「はいありがとう、仕事してね」


「ノワール様! 不審なサバが逃げ回っています!」

「今すぐ捕まえて生ゴミに出しておいて」


 私とルゼルは隅っこでお茶しながら見学中。テンちゃんはルゼルのおっぱいでお昼寝していた。

 ルゼルと顔が似ているので、ざわざわしないように銀仮面を着用していた。この銀仮面は形状変化が出来るから便利だね。


「おかぁさん、私達の役目は終わりですか?」

『あぁ、終わりだが…アラスの前任の事を知りたいのだろ?』


「そうですね。アテアちゃんが前任をボコボコにする機会があればそれで良いんですが、しばらくは難しいですよね」

『そうだな。これからギュレスの不正が次々浮上するようだし…関わる補佐にも容疑が掛かる』


「じゃあ牢獄へ行ったらしばらくは無理か…ボコボコにする刑みたいの無いんですか?」

『あるにはあるが、専門の部署がやるからアラステアは見ているだけだな』


 うーむ、幼女の希望は通らないか。まぁ堕ちる所まで堕ちた前任を高見から高笑いするだけでも喜びそうだな。一応牢獄へ行っても面会くらいは出来るみたいだし。


「ギュレスはどうなるんです?」

『しばらくは序列一、二、三位の管理下に置かれ、分担で世界の管理やらをやるから…くくっ、今よりも忙しくなるだろうな。天異界基準で序列外の世界になる』


「そうですか…ところで、あの二人組はなんだったんですかね?」

『天異界とは違う組織の一員という線が濃厚だな』


「そういう組織は多いんですか?」

『多いな。大体は不干渉や同盟に加入したい組織だが、たまに襲撃してくる組織はある』


「じゃあ、おかぁさんはそんな組織と戦う事もあるんですね」

『我だけじゃないがな。壊滅させたい時はGを投入したりするし』


 Gを投入したら勝手に壊滅してくれるらしい。アホだから敵味方関係無く…

 ルゼルの仕事も大変なんだなぁ…それでも生き残っているから、天異界という組織は凄いんだろう。


「ノワール様! ギュレイドスが裏世界の冥王と繋がっている証拠がありました!」

「うわぁ…冥王とかぅぇえ…繋がりの濃い世界も調査するから、研修生集めてギュレスの調査を拡大させて」


「ノワール様! ギュレイドスは各世界のエネルギーを集めて他世界を攻める兵器を作っていた模様です!」

「えー…兵器とか条例違反じゃん。技術者を呼んで兵器の調査を宜しく」


「ノワール様! サバが捕まりません!」

「死ぬ気でやれ」


 忙しそうだな。

 冥王ってロンドの事だよなぁ…教えた方が良いか? いや今は駄目か。ロンドが死んでいる事も全体には伝わっていないだろうし。

 ロンドの記憶は能力として吸収しているから、取り出す時は時間が掛かる。


「裏世界と繋がっていると駄目なんですか?」

『いや、駄目ではないが誰と繋がっているかだな。ロンドは邪族進行の主犯だから天異界とは敵対関係なんだよ』


「へぇー、おかぁさんは味方で良いんです?」

『我は中立だな。報酬次第だ』


「キリエの時はどっちだったんです? 裏世界側っぽかったですけれど」

『…中立』


「……本当は?」

『……弟子になってくれる者が来ると聞いて、嬉しくてつい張り切ってしまった』


 可愛い事言いやがって。

 脇腹をツンツンしてやろう。

 端から見たらキリエを絶望に落とした悪い子ちゃんだけれど、私から見たら不器用な可愛い女子なんだよなぁ…


「そういえば、あれからキリエさんには会っていないんですか?」

『会っていないな。あっちは会う気なんて無いだろ』


「んー…どうですかねぇ。結果的にはおかぁさんが来なかったら、キリエさんはロンドに殺されていたので…恩人的なものじゃないんです?」

『客観的に見ればな。キリエからしたら二度と会いたくない相手だろ』


 監査員達がチラチラ見てくるけれど、ルゼルに話し掛ける猛者は居ないか…ノワールさんが疲れた表情でお茶を飲みに来たので、ハーブティーを渡してあげると、お礼を言って立ちながら飲んで一息付いていた。


「お疲れ様です。終わりそうですか?」

「ぜーんぜん。残業確定だよ。実は他の世界も襲撃にあって、結構滅ぼされた世界もあるのよ」


「えっ…どこが滅ぼされたんですか?」

「あぁ、アラスは大丈夫だけど…五十位とか三十二位とかバラバラに十くらいの世界が滅ぼされたの。ちょっと…これはまずい状況だね」


「…同じ奴らですか?」

「恐らくね。私の上司達も動いているから、特定出来れば解決は早いんだけど…」


 上司達…アスターの女神達が動き出す案件だから、重い事態らしい。私は魔装とかしたら討伐されそうだな。

 星体観測を使う二人組…キリエと何か関係ある?

 それよりも、また襲撃があったらアラスは危険かもしれない…


『アスティ、一度帰るか?』

「そう、ですね。アテアちゃんや皆に状況を伝えたいですし…」


『じゃあ……なんだ?』


 ルゼルが天井の無い空を見上げた。

 空が…赤く染まっていく。夕陽? いや、赤い月が…その上に立つ人影も見える。あれは…


「また、襲撃ですか? テンちゃん起きて」

『……みたいだな。ノワール、全員撤退させろ』


「はぁ…了解です。至急全員本部に帰還! これは命令だ!」

「「「はい!」」」


 監査員達が転移石を起動させ、次々と転移していく。空がどんどん赤くなってきた。赤い月が肥大していく…あの二人よりも凄い奴が来るのか…でも、また力を感じない。


『アレスティア、あれ敵?』

「そうだね。あの二人より強いよ」


『ノワール、あいつの魔力を辿って組織を特定出来るか?』

「はい、やってみますが無防備になるので守って下さいね」


『アスティ、頼んだ』

「はいっ! フルエナジーバリア!」


 とりあえずバリアを張ってノワールさんを守ろう。組織を特定出来れば天異界で総攻撃も出来る筈だし。


「……」


 赤い月が、落ちてきた。

 イッきゅんのギガタイラント・マグナムのような威圧感。それでいて凝縮されたエネルギー体。

 これ、私のバリアじゃキツイなぁ。

 あっ、サバが避難してきた。


『アスティ、安心しろ。メガエナジーブラスト』


 ルゼルがメガエナジーのエネルギー弾を赤い月に放つと、落ちる速度が弱まり…ビキビキとヒビ割れてきた。

 なんか…前よりもルゼル強くなっていない?


「……流石。紅月の雷」


 ヒビ割れていた赤い月から、真っ赤な雷が落ちてきた。それをルゼルはメガエナジーの拳で弾くと、エネルギー弾を敵に放った。

 敵は黒い…大鎌? を取り出してエネルギー弾を斬り刻んだ。


『ふむ、強いな。メガエナジーバレット』

「時空結界。それは…誉め言葉として受け取っておきましょう。環境魔法・次元切離し」


 ルゼルのエナジーバレットを防ぎながら、敵は部屋の中心に降り立った。何の環境魔法だ? これは、外からの侵入を防ぐ魔法? 私達の応援が来ないように、かな?

 ……銀色の髪に、儚い印象を持つお色気お姉さん。なんか…誰かに似ているな。なんだこの胸騒ぎ…それに鳥肌が…


『白黒の奴の仲間か?』

「えぇ。ふぅ…こうして再び相対すると、震えが止まりませんね」


『へぇ。お前のような者は忘れないが…どこで会った?』

「生まれ変わる前ですよ。私は夢の為に生まれ変わった…私の夢を叶えるには…貴女を超えなければいけない…」


 敵は震える手を抑えながら、深呼吸するようにルゼルを睨み、私に視線を移した。

 じー……なんすか?

 魔力を辿っているノワールさんが狙いか?

 そうはさせぬよっ。


『くくっ、夢の為に挑むか。我は大きな障害という訳だな』

「はい…大丈夫…私なら…出来る! 禁薬作製・邪神薬!」


 なんだ…敵が空の小瓶を取り出したら、漆黒の液体に満たされて…それを飲み干した。

 力が上がっていく。これは深淵の…力? 邪神薬と言っていたけれど、邪神になるのか?


『…我はルゼル。名を訊こう』

「…ふぅっ…ふぅっ…ディア」


 ディアと名乗った人の銀色の髪が、どんどん黒く染まっていった。あれ? 黒髪になって…なんかGに似ているな。

 うわぁ…まだ力が上がる。

 これ、ロンドより強いぞ。

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