マグロを振り回す母、カツオを振り下ろす私。道連れにサバを投げる女を追加しよう
『あっ見て。ノワール、笑ってるよ』
「んだと?」
……ノワールさん、顔を真っ赤にさせて笑いを堪えながらたぶれっとでマグロの動画撮影中……
そして、マグロが二人に着弾した。
白黒の二人の武装が溶けていくのが解る…やっぱり許容量を越えたか。
いやそれよりも、この絶望に打ち勝つには…私より絶望に堕ちた人を眺める事!
さぁ!
時は満ちた!
「おかぁさん! ノワールさんが神双剣・サヴァグレイシアをご所望ですっ!」
「なっ…」
ノワールさんの目がゆっくりと見開き、真っ赤な顔がゆっくりと青褪めていく…おやつを取られた子供のような、裏切られた子羊のような、この世の終わりが訪れたような表情で、茫然と私を見ていた。
ウインクを返しておこう。
『そうかっ! ノワールもようやくこの武器の良さが解ったか! 受け取れ!』
「いやぁぁぁぁ! やめろぉぉおお! サバ投げんなぁぁぁああ!」
ノワールさんの目の前に突き刺さる二匹のサバ。
我に返るのが遅かったな。ふっふっふ、自分だけ魚類を手にしないなんて許されると思っていたのか?
私はルゼルがサバを持っている事を知っていたのだよ!
この魚類ネタを引っ張る事はかなりリスキーだけれど、それよりも道連れにしてしまいたい欲望が勝利を納めたんだ。
「ノワールさん! 私とおかぁさんはマグロカリバーのせいでかなりの疲労です! そのサバで援護して下さい!」
『ノワール頼む! 力を貸してくれ! そのサバで!』
「い、いやぁ…いやだぁ…サバがこっち見てる…」
「早くっ! こいつらが復活します!」
『早くそのサバを取ってくれ!』
私とルゼルの説得に、ノワールさんが一歩踏み出したけれど、首を降ってサバを取ろうとしない。
このままでは私とルゼルはピンチに陥ってしまう。
「これを取ったら…私はお嫁に行けない!」
『大丈夫だ! 今更アスターの補佐官とか皆ビビって求婚なんてしない!』
「それ言うなやぁ! 気にしてんだ!」
『サバくらい黙っていてやるから!』
「千年記録に残るんだよ! 千年サバ女って言われんだぞぉ!」
「私サバ好きですよっ!」
「食べるのはなぁ!」
荒れてんな。サバがビビる程の荒波だ。
序列一位アスターの補佐官だから実力があって高給取り。男性は気が引けるんだろうなぁ…
だがそこで諦める母娘ではない。
「ノワールさんより稼げる男はジジイばかりですよっ!」
「んなこた解ってんだよぉ! 夢見させろ!」
『ノワール諦めろ! お前はもう振られているんだ!』
「それは…禁句だぁぁあ! このサヴぁぁぁあ!」
あっ、キレた。
ノワールさんが二匹のサバを乱暴にビチャッと掴み、丁度復活してきた白黒にぶん投げた。
サバに八つ当たりするヤバい人だけれど、ここまで面白い人は中々居ないな。
生き生きとしたサバは軌道を変えながら白黒に突き刺さる…これは使役しているのか?
あっ…ぶん投げた後…ノワールさんが泣きそうになった…いやもう泣いているか。きっと技名を言わないといけない呪いに気が付いたんだな…少し、耳を澄ませよう。
「……
あっ…うゎっ…これ、ガチのダサい奴だ…
ルゼルと目が合う…あれこんなダサかったっけ? みたいな顔で困惑と驚きが先に来ていた。
『くっ…なんだ…』『また魚…』
『データに無い…』『攻略が見付からない』
サヴァ・サーヴァントは本来のダガーナイフの役割を無視した飛道具技。サヴァ・サーヴァント中は格好良いポーズで操作しなければいけない。それにこれダサくて弱いけれど、回避不能技だ。
白い奴の喉元に食い付き、血管を噛み千切ると次は黒い奴の喉元に食い付く…サバ怖い。
サバに襲われ、膝を付き瀕死な状態。これはチャンスだ。
「ノワールさんっ! 今です! 決めて下さい!」
『ノワール! やれー!』
「サバ奥義!」
あっ、サバが戻っていく。
戻ったサバの両口を合わせ、チューする形にしたらくの字のサバが出来上がった。
えっ…もしかして…奥義のくせにブーメラン…えっ、本当にブーメラン?
大きく振りかぶって……
「
投げたー!
ママンっ、シングの発音が良すぎるからって指差しちゃ駄目!
くるくると回転しながら、白黒をスパンスパンと切断している…中々エグい技だな。
いや、強いよ…強いけれど……ブーメランて…ブーメラン使いの人には申し訳無いけれど、双剣の奥義でブーメランとか耐えられない。
『ぅゎだっさ』
ママン言っちゃ駄目!
笑っちゃ駄目!
ほら来た!
「おかぁさん! 来ます!」
『…触らずに避けろ』
「えっ、叩き落として下さいよ!」
『叩き落としたらサバの主が叩き落とした者に変わる』
「えっ……最強の技じゃないですか…」
『大丈夫だ。ノワールの心が折れるまで避ければ良い。ほら、サバの速度が弱まった』
おぉ、サバがゆっくりになって格好良いポーズを決めるノワールさんの元に戻っていった。
そして、ビチャッとサバを受け取り、膝から崩れ落ちた。
うん、ここまで心が折れた人を初めて見たよ。
目のハイライトが消え、目を開けた状態で涙を流しながら顔から床に倒れ込んでいる。
やりすぎたか…でも、面白かった。
「……おかぁさん、どうします?」
『ノワールが仕留めてくれたから、慰めるか』
そう。白黒は復活してこなくなった。
恐らく逃げたか死んだか…きっと逃げたんだろうな。
「じゃあ…チューして慰めます」
『そうだな。あっ、アスティがノワールを貰ってやれば良いんじゃないか?』
「まぁ、それはノワールさん次第ですよね」
魚類で戦った仲だから、仲良くなれる筈だよねっ。
たとえ私達母娘が心を折った元凶だとしてもっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます