マグロを振り回す母、カツオを振り下ろす私。その2


『私達は』『正義の使者』

『悪を駆逐し』『正義の世界を作る』


『へぇ、邪魔をする我等は悪という事か』


 ルゼルがマグロの尾を引くと、背骨が丸見えになりながら伸びていく。

 おぉ伸びる伸びる。四メートル超あったマグロが倍の長さになった。背骨が伸びても身の部分はふにゃふにゃしていない…謎機能だな。

 これは槍なのか? 鈍器なのか?


『お前は大悪』『故に駆逐する』


『へぇ、やってみろ』

 ルゼルが離れた位置からマグロを振り下ろした。

 長くなっても届かないんじゃないか? あっ、伸びた!

 蛇腹剣みたいだなぁ…蛇腹風鮪骨鈍器と呼べば良いのか?


『ごふっ…』

 白い奴が潰れた。

 脳天から床を貫いて、それはもう見るからに即死だろうというくらいに潰れた。

 流石は悪と呼ばれるだけあるな。


『ふむ、すり替えか』


『お前に私達は殺せない』『正義が勝つから』

『正義は揺るぎない』『悪は滅びる』


 死んだと思ったけれど、白い奴は次元の隙間から這い出るようににょきっと復活していた。

 何事も無かったかのようにしているけれど、色々飛び散っている。きっと事切れた補佐達の中の誰かと入れ替わったのかな?

 そういえば幼女の前任って顔に特徴無いんだよなぁ。


『アレスティア…あのオッサンが前任だよ』

「どのオッサン? オッサン率高いから解らない」


『あのオッサン』


 テンちゃんがオッサンを指差してビームを放った。

 オッサン貫いてんな…あっ、動いた。生きている。


「あれね。エナジーシール」


 印を付けておけば逃げても追えるかな、多分。

 さて、ルゼルは片方頼むと言ったけれど、出来れば一緒に戦いたい。


『正義を…』『裁きを…』


 白い奴が白く格好良い大剣を、黒い奴が黒く格好良い大剣を手にした。神剣か…何か能力がありそう。

 大剣を掲げると、どんどん魔力が上がっていく。やっと強さが解るな。

 いやそれよりも…まともな神剣を見るのは初めてなんじゃないか?


「おかぁさん、格好良い見た目と名前の神剣ですよ」

『あんなの普通じゃないか』


「魚類と比べたら普通ですがね。あれは武神装とか出来るタイプですか?」

『出来ても武装じゃないか? あれは奴の作品じゃない』


「奴? あぁ、武神装って妖精さんしか作れないんでしたっけ」

『そうだな。武装なら他の神武器師がなんとか作れるが、武神装はルルの師だけだ』


 となれば、神剣の性能は普通か。普通と言っても充分脅威なんだけれど…


『武装、ジハード』『武装、アルマゲドン』


 白い大剣が白く輝き、白い奴が白い鎧を纏う。いい加減こいつらの名前が知りたいぞ。

 黒く奴も同様に、黒い大剣が黒く輝き黒い鎧を纏う。

 確かに強いな…強さはサースト並みだ。

 となれば、魔装が出来ない私は分が悪い。


『アスティ、因みにマグロとカツオも武装が出来る』

「生臭い武装とか無理です。おかぁさんとの思い出が生臭いとか無理です。来ますよ」


『むぅ…今度な』


 白い奴がルゼルに斬り掛かる。速い…でも、ルゼルの方が速いな。

 脳天を狙う一撃を片手でマグロを動かして弾いた。

 白い奴が弾かれた大剣を持ち直し、横に一閃。

 ルゼルの脇腹に触れる前に、マグロが下から大剣を救い上げた。

 またも大剣を弾かれ、バンザイの体勢になった時…


『マグロの一撃』

 マグロが脇腹をくの字に曲げた。

 ボキボキと骨の折れる音を響かせながら、高速で真横に吹っ飛んでそのまま大聖堂の壁をぶち抜き、平行に飛んでいった…


『死ね』

「不意討ちですか、カツオの叩き!」


 後ろから振り下ろされた黒い大剣にカツオを合わせる。

 ビチャッという剣戟の音からかけ離れた音が鳴り、私のテンションは下降していった。


『光帝フォトンレーザー』

『ぐっ…』


 テンちゃんありがとう!

 テンちゃんレーザーが黒い奴の心臓を貫いた。でも貫いた穴は直ぐに塞がれた。効いているんだけれど…不死身って奴かな?

 いや…何かを生贄に復活するタイプだ。


「カツオ吹雪!」

『死烈』


 カツオの口から氷魔法が飛び出した。

 生臭い冷気が黒い奴に当たるけれど、大して効果は無い。試した私が馬鹿だった。

 盛大に黒いエネルギーを受けて吹っ飛ばされたよ。


 カツオめ…仕事しろよ。回復しながらチラリとカツオの目を見ると、スッと目を逸らされた…えっ怖い。


『黒死炎』


 黒い奴の鎧が墨で描いたような歪な炎に包まれ、鎧が強固になっているのが解る。

 試しにソルレーザーを放ってみたけれど、効かなかった。

 ちょっと視てみよう。えーと、物理防御上昇、魔法防御上昇、光と闇属性無効か。

 あっ、白い奴も次元の隙間から現れた。白い奴の武装も似た効果か…ふーん。


「おかぁさん、光と闇が無効みたいです。それとこのカツオ生きています」

『解凍したら新鮮だぞ。無効と言っても限界はあるだろ』


「じゃあ一緒に頑張ってみましょう」

『良いぞ。メガエナジーマジック』


「えっ、ちょっ、刺激が強いぃぃ!」


 いきなりメガエナジー使わないでよっ!

 私のハイエナジーと比べ物にならんですよっ!

 ではではソルブレイド(仮)でもお見舞いしてあげるかねっ!


 ライトを周囲に展開。

 …なんか多い気がするけれど気のせいだ。

 その全てをソルレーザーで繋いで魔法陣を作成。


『アレスティア…それでっかい剣出るやつ?』

「そうだよっ。ソルブレイド(仮)だよっ」


『多分それ神級魔法のグランドエクスカリバーだよ』

「へぇー、名前あったんだね。もうそろそろ出来るよ」


 白黒の奴が私の魔法を妨害しようとしたけれど、ルゼルがエナジーバリアで二人を拘束した。ナイスママン。


『くっ…離せ!』『…壊れない』


『くっくっく、光魔法は効かないんだろう? アスティ、これも追加だ』


 ルゼルがマグロを元の大きさに戻した。そして…ソルレーザー魔法陣の頂点に向かって空高くぶん投げた。くるくると回転するマグロが頂点に差し掛かると、白く輝き光の塊に変化。

 何が起こるか解らないけれど、ソルブレイド…いや、グランドエクスカリバーの切先が見え始めた。


「よーしっ! グランドエクスカリバー! ゴー!」


 私の掛声と共に、巨大な純白の剣…グランドエクスカリバーが白黒の二人に向かって落ちていく。

 ……あれ? 切先って切れ目なんてあったかな?

 ……あれ? 目なんてあったかな?


 ……えぇぇ……うそぉぉ……


『アレスティア…マグロだね』

「まじかよ…」

『……アスティ、やるな』


 天より落ちる巨大な純白のマグロ。

 グランドマグロカリバーじゃねぇか…だせぇ…だせぇよ……

 口をパクパクさせて、エラが激しく動く。空中でエラ呼吸してんじゃねぇよ。


『アレスティア…泣かないで。マグロ…美味しそうだよ

「テンちゃん…優しいね」


 …ここで膝を付いて落ち込んだら負けだ。

 この羞恥心と絶望に打ち勝つには…


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