恐れていた事が、起きようとしていた

 

 ルゼルを先頭に…


『ここ怖い』

 テンちゃんがビビってルゼルのおっぱいから私の胸ポッケに入ってきた。

 おかえりなさい。

 尻をぐりぐりしないでくれるかな…丁度乳首の辺りだから変な声が出ちゃう。


 ルゼル、私、ノワールさんの順番で次元の亀裂に入った先…


 ここが…ギュレス?

 目の前には瓦礫の大聖堂…そう呼びたくなるような、壊れた教会が存在していた。

 辺りには、何かが墜落したようなクレーターが出来ていて、道や階段に使っていたであろう白い石畳が散乱していた。

 遠目に倒れている人影…恐らく補佐や見習い神だろう。

 もう事切れている様子…


「襲撃が、あったんですね」

『…そうだな。入るぞ』


 白い階段跡を登り、真っ二つに斬られた扉をくぐる。

 ルゼルが教会に入った時…真剣な表情に変わった。何かを感じ取ったのだろう…私も感じているから。

 なんだろう…ギュレイドスっぽい力は凄く感じるけれど、他の二つはあまり力を感じない。

 覚えのある感覚…


「あぁこの力の感じなさ、凄く…嫌な予感がします。ルゼルさん、あの時と一緒じゃないですか?」

『ふむ、奴の時と同じか』


「えっ、大丈夫…なんです? 奴って?」

「私は直接関わっていないけど、結構前にね…Gっていう奴が天異界本部に迷い込んだの。大した力も感じないから、直ぐに捕まえて帰そうとしたんだけど…馬鹿な奴が、Gを怒らせてしまった。当時あった次元パトロールっていう部署は見事に壊滅したの』


「あぁ…一度ジョーカーで会いましたが…瞬殺されましたね。怒るタイプには見えませんでしたが、どうして怒ったんですか?」

「さぁ…ルゼルさん知ってます?」


『あぁ、観ていたから覚えているぞ。Gは、迎えに来た友人を馬鹿にされたんだよ。凄かったぞー。たった一言でGの視界に映る上級神以下が全員死んだんだ』

「一言…あの格下即死魔法とか反則ですよね。おかぁさんは戦ったんですか?」


『いや、面白そうだから隅で観ていた。奴はアホだが、強さは本物。アホじゃなければ我よりも強いぞ』

「そんなに強いんですか…」


 アホじゃなければ…確かに、下着姿でクネクネしていたし…マイペースというか…戦いに興味無さそう。まともな思考をしていないのは解る。


『そういえば…それからまたフラリと本部に迷い込んだ時は、ルルと一緒に居たな。あいつら楽しそうに上級神をボコボコにしていたぞ』

「あー、ルルさんも中々に堕落した性格ですから、気が合うんじゃないですかね。まぁデデさんの方が底辺まで堕落していますが…」


『あいつらいつもラグナの部屋の前で雑魚寝しているから邪魔なんだよ』

「そうなんですよねぇ。最近はラグナ様の邪魔をするのが生き甲斐になっていますが……まぁ、引く程に友達の居ないルルさんに友達が出来ただけでも救いですよ、ほんと」


 中々に突っ込み所満載な緊張感の無い話をしながら、大聖堂の奥を目指して歩いていく。

 因みにデデさんとはGとルルの悪友。ラグナとは天異界創設者で、序列一位アスターの筆頭女神様。


 城の中は…割れた花瓶や、破れた絵画が散乱していた。メイドの格好をした魔導人形達は、バラバラにされている…勿体無い。

 何階層もあるみたいだけれど、半分以上は壊れているから入れそうもないな。


「ノワールさん、ルルさんは今アスターに居るんですか?」

「んー、暇な時は大体居るかな。会った事あるの?」


「いえ、直接は無いです。アラステア様がルルさんから買った武神装を愛用していまして」

「へぇー、何の武神装?」


「武神装アヴァロンです」

「おぉー、アヴァロンかぁ。初期型なんてやるね。やっぱりアラステアさんは良い女神なんだねー」


 聞くところによると、ルルが良い神と判断したら良い武神装を売ってくれる。

 そしてアスターの女神達の武神装は最高ランク。性格が変わってしまう程に強いから、中々使わないらしい。

 天異界同盟に加入していなくても分け隔て無く武器を売って、知り合いや取引相手も沢山居る筈なのに…あんなに美人で優しいのに…引く程に友達居ないのか。


「アラステア様は、とても素敵な女神様ですよ。何より可愛いですから」

「会議で見た事あるけどアラステアさん可愛いよねーちっこくて…あっ、私の上司もちっこくて可愛いんだよっ」


「へぇー、アスターの女神様ですか?」

「うん、武神装も可愛いからその筋では絶大な人気を誇るんだ」


「それはかなり気になりますね。じゃあ今度紹介して下さい」

「良いよっ。強い人好きだから仲良くなれそう…っと、着いたかな」


 まだまだ話足りないけれど、到着したみたいだ。

 中央の大きな通路を進んだ先は、ずっと戦闘音が聞こえていた。のんびり歩いていたのは、戦闘音が聞こえる内は大丈夫だと判断したから…でも、着いた頃にはもう戦闘音は止んでしまっていた。


 ボロボロの大扉を開け、大広間に到着したけれど…

 天井は吹き飛んで無く、無理矢理に吹き抜けになった大広間。

 そして、天井の代わりに空に蓋をするような…白と黒の月。

 あれは…星体観測の…断罪の月。

 何者だ?


『『断罪の刻がやってきた』』

『まっ、待てっ! 何が目的だっ!』


 断罪の月に照らされた、残骸と呼べるような瓦礫と人影の中で、拘束された口髭のオッサンに向かい合う二人の少女。

 オッサンはギュレイドスで間違い無いだろう。

 少女達は、白と黒の混じり合った斑模様の髪に、白い仮面と黒い仮面をしていた。


『アスティ、片方は任せようかな。ほらっ、エリクサーだ』

「エリクサー? んっ…これっ、すごっ」


 小瓶に入った虹色に煌めく液体を飲むと…倦怠感やらが一気に吹き飛んだ。もっと早く頂戴よ。と言っても凄く貴重な薬なんだろうな。


『ノワール、状況把握と天異界への報告を頼む』

「了解ですっ、じゃあお任せしますねー」


『アスティ、ノワールが居るからアレ破壊の力は使うなよ』

「はいっ、頑張ります! おかぁさんと一緒に戦えて、凄く嬉しいです!」


『くくっ、そうだな』

『アレスティア…私も頑張るよ』

「テンちゃん…頑張ろうねっ」


 私達が来て、白仮面と黒仮面の二人はわざとらしく振り向き…ギュレイドスの拘束を強めた。


『ぐぁぁあ! 早く…助け…』


『黒の翼』『核星の天使』

『来た』『来た』

『銀色のあいつ何?』『さぁ、知らない』

『知らないから』『断罪しよう』

『その前に』『こいつ殺さなきゃ』


 両手を上げ、断罪の月を墜とそうとしていた。

 あれ? そういえば助けに来たんだよね?

 ルゼルをチラ見すると、見定めるように少女達を眺めて動かない。

 そして、ふーんと言いながら私の方を向いた。


『なぁアスティ』

「なんです?」


『マグロ、貸してくれ』

「えっ、はい…どうぞ」


 ゴトリと冷凍マグロを出すと、軽々と持ち上げて断罪の月が墜ちる場所へと歩き出した。


『…アスティ』

「…なんです?」


『マグロの使い方…教えてやる』

「えっ…いや…あの…いやぁ…うん…あー…はい…お願いします」


 すっげー格好付けてキメ顔で言うから断れなかった。


 ……えっ、何?

 何か言いたげに見詰めないでよ。

 そろそろ断罪の月墜ちるよ?


『……』

「……」


 ……えー……うそぉ。


 くそぉ…ずっと後回しにしていたツケが回って来たか…


 私に…カツオを…持てと。

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