この幸せが、いつまでも続けばいいな…
次元転移の練習…魔力を練って発動してみると、直ぐ隣に転移。
おぉ…出来た。
もう一回お隣へ…あっ、酔いそう。
ロンドの熟練も受け継いではいるけれど、私が馴れないと完全には使えないな。
少し力を使っただけで、ハァハァが復活しそうだから厄介だ。
また今度練習しよう。
『んー…んぅー…』
ん? なんだ?
「何か言いました?」
『いや?』
『んぅー…』
「あれ? 私から聞こえる?」
ポンッと私の胸元から光る物体が飛び出してきた。
おやおやおや、白い髪に白い身体、白いプリチーなドレスを着た我らがテンちゃんじゃあないですか。
『やっと出れた…あれ? ここどこ?』
「テンちゃーん! どうしたのー、来てくれたのー?」
『いや、アレスティアに吸い込まれて…出てきたらアレスティアが居た…なんで?』
「この私は裏世界仕様なのだよ。でもここでもテンちゃんに会えて嬉しいなぁ」
『んー。加護の影響かな? まぁ、良い…か…ぅゎっ』
テンちゃんがルゼルを見て、ビクビクしながら私の首にしがみついた。軽くキュッと首が締まるのが良いね。
もう少し強くしてもいいんだよ。
『おっ、妖精か? 我の前に来るなんて珍しいな』
「テンちゃんですよ。私にまともな加護をくれたんですっ」
『そうか。テン…ちゃん、娘に加護を与えてくれてありがとう』
テンちゃんが娘? と言いながら私とルゼルの顔を見比べ、身体を見比べた。…今どこ見たの?
しばし観察したした後…ルゼルを敵じゃないと判断したのか、ふわりと浮いてルゼルのおっぱいに降り立ち、おっぱいにコテンと横になった…テンちゃーん…行かないでー…
『ふわふわー、ふわふわー』
『ふふっ、妖精に触れるのは久し振りだな』
『ふわふわぁ。アレスティアもふわふわなる?』
『…あぁ』
ルゼル、今嘘ついただろ。
テンちゃんが可愛いから嘘ついただろ。
あっ、目を逸らされた。
ちっ。
ルゼルがテンちゃんと機材を見て、ノワールさんはなんとか復活して機材を見て…私は中央で仁王立ち。
ふっ、やはり暇だ。
『ん? あったぞ』
「あっ、ありがとうございます。見せて下さい」
『まぁ予想通りだな』
「むぅ…やっぱり序列五位ギュレスに流れてる。一応証拠にはなるか…でももっと欲しいかも」
『別に除名して均衡が崩れても良いんじゃないか?』
「それこそ戦争が起きますよ。ギュレイドスがどうなろうと構いませんが、ギュレスに生きる命が死に絶えます」
『依頼をくれたらギュレイドスを討つがな』
「いくら積めば良いんですかね。その前に確証を得てからですよ。側近が黒幕だったり、神じゃない可能性もありますからね」
捜査は慎重にという事か。
もうここに乗り込んでいる時点で、慎重という言葉は星空にぶっ飛んでいる気がするけれど、気にしたら駄目だ。
序列五位、ギュレス。幼女が最下位から着々と序列を上げている時に、かなりの勢いで下位から序列を上げていった世界だ。
「ギュレスに神は何人いるんですか?」
「えーっと、平均だよ。管理は十柱…補佐が三十に見習いが五百だったかな」
「うへぇ、アラスの五百倍以上…」
「アラス?」
「私の故郷ですよ」
「へぇー、アラス出身なんだぁ。ちょっと調べるね」
ノワールさんがたぶれっとを取り出して、アラスの情報を見ていたので私も横にくっ付いて見てみた。
ぐりぐりと髪の毛の匂いを擦り付けながら。
「ノワールさん、今日の下着は青ですね」
「なんで解るの…アレスティアちゃん、凄く良い匂い」
「あっ、趣味で花油を作っていまして、良かったらこれどうぞ」
高級花達をブレンドした花油をプレゼント。
私の魔力入りだから一日持続する優れもの。
「わぁっ、ありがとう。今度お礼するねっ」
「じゃあアスターでデートして下さい」
「んー…分かった。じゃあ招待状送るから、連絡先教えて?」
「連絡先?」
何の連絡先?
ノワールさんがたぶれっとを指差したけれど、持っていないし…買い方も知らない。
ルゼルを見ると、駄目って顔をしていた。
「おかぁさん、買って?」
『うっ、まだ…早い…』
買ってよー。
深魔貴族になった時、好きな物買えって言っていたじゃん。
あっ、プイってされた。
両手を握ってあごの下に持っていき、目をキラキラさせて…見よっ! 熟練されたおねだりポーズを!
「おかぁさん、この目を見てっ」
『いやだっ、見たら負ける!』
「欲しいなぁ。私もたぶれっと欲しいなぁ。ノワールさんと知り合えたのにもう会えなくなるの嫌だなぁ」
『くっ、アスティ、まだ早いんだ…ノワールも何か言ってやれ』
「えっ、買ってあげれば良いじゃないですか。みんな持ってますよ」
『えっ…』
『アレスティア、たぶれっとって何?』
「色々調べられる魔導具だよっ。おっぱいの動画もたくさん観られるんだよっ」
『ルゼルママ、買って』
『テンちゃん…』
三対一。勝負は決まったな。
ルゼルがムスッとしながら次元の歪みに手を突っ込み、ピンク色の箱を渡してきた。
あっ、腕を組んで後ろ向いちゃった。
もしかして…たぶれっと?
「開けて…良いんですか?」
『……あぁ』
リボンで包装された箱…可愛い。
リボンをほどいて箱を開けてみると…うぉぉ…手の平より大きいくらいの淡いピンク色のたぶれっと。
めった可愛い。
あれ? 裏にアレスティアって書いてある…
「うわっ、これ数量限定抽選販売の桜カラーじゃないですかっ! 私これ抽選落ちたんですよ!」
「えっ…じゃあこれ、前から頼んでくれていたんですか?」
『……だ』
「えっ?」
『……たんだ』
「あ、あの…聞こえないです」
『誕生日に…あげようと思っていたんだ』
えっ、何そのトゥクン。
まだ早いってそういう事か。
『ルゼルママ、可愛い』
「うん、可愛いです」
「可愛いすぎですよもう…トゥクンが止まりません」
後ろからルゼルをギュッと抱き締めると、回した手をそっと握ってくれた。
もうトゥクンにエコーが付いたよ。
トゥクン…トゥクン…トゥクン…
『…アスティ、我は…幸せというものを、感じても良いのだろうか』
「当たり前じゃないですか。どうしたんです?」
『愛を知れば知る程、故郷を思い出す』
「故郷は、もう…無いんですよね」
ルゼルの故郷は、死の星になってもう、存在していない。
力のある者は別の世界や、クーリンさんの様に裏世界へ逃げ込めたけれど、人間など力の無い者は死に絶えた。
故郷にも、こんな愛が溢れていたと思うと、罪悪感が残るのだろう。
死の星になったのは、ルゼルのせいではないとしても。
『負の力から、守れなかった。くくっ、笑ってしまう…この強さは負の力から得たのだからな…』
「…おかぁさん、自分を責めないで下さい。私が居ますから。そしたら…私を、守って下さい。気の済むまで守って下さい」
『…もちろん、守り通すさ。すまぬな、弱気な事を……ノワール、さっさと終わらすぞ……なんだ?』
「ふふふ、ルゼルさん。良い女になりましたねぇー」
『…茶化すな。それより…鳴っているぞ?』
「あら、ちょっと出ますね」
ノワールさんのたぶれっとが軽快なリズムを奏でている。あんな感じで通信が来るのか。
「はいこちらノワール」
『そこにルゼルはいるかっ!』
「えっ、はい居ますよ」
『ギュレスから救援! 至急頼むと伝えてくれっ!』
「えぇ…だ、そうです…」
ギュレスから救援?
序列五位からの救援なんて…危険なんじゃないか?
『そうか、分かった』
「おかぁさん…」
『危なくなったら、ノワールに送ってもらうんだぞ』
「はっ、はいっ」
付いていって良いのか。やった。
少しくらい、お手伝い出来るかな…
「じゃあ行きますよっと」
ノワールさんが銀色の剣を振ると、次元の亀裂が開いた。
何か少し嫌な予感がするけれど…入ってみなければ解らない、か。
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