キュンの上はトゥクンだよ

 

 ……ん?


「俺はまだあきらめないっ! くそったれた神を殺して世界を救うんだっ!」

『へぇー、どこら辺がくそったれなんだ?』


「とぼけるな神の手先! この世界の人達を暇潰しで争わせているのは解ってるんだ!」

『人間同士は争うものだぞ。欲がある限りな』


 なんか白い宮殿らしき場所の中にて、ルゼルと見知らぬ男が対峙していた。

 ルゼルの後ろにはボロボロの髭もじゃお爺さん…神格を感じるから神かな?

 ママンはお仕事中だったのか。

 でも私を抱っこしながらお仕事して良いの?


「おかぁさん、おはようございます。何をしているんですか?」

『アスティおはよう。そこの神が救援を出したから来てみたんだ』


「へぇー、ここは序列何位です?」

『んー…五十位前後かな?』


「この人は殺すんですか?」

『いや、何故この状況になったのか調べている途中だから待機中だ』


『早くこいつを殺すのじゃぁ! 高い金払っておるんじゃから殺せぇ!』


 今は中立って事でむやみに殺さないんだな。

 ルゼルが結界を張ったから目の前に居る男の声は聞こえなくなった。

 ついでにお爺さんの声も聞こえなくなった。


「あっ、さっきまともな加護を貰ったので、ロンドの力を吸収しようかなぁと思いまして」

『そうかっ、じゃあ終わったらやろうなっ。むしろ両方殺せば解決だなっ!』


「それ考え方が脳筋ですよ」

『こんな事よりアスティ優先だからなっ』


 嬉しそう。私の頭を撫でて笑顔を向けて…さっきまでのギャップが凄くてキュンだな。

 男は結界を斬ろうと聖剣っぽい剣でわちゃわちゃしている。

 無理だぞー。


「誰がこれを調べているんです?」

『天異界の調査員だ。アスター出身だから優秀なんだぞ』


 ルゼルの首筋の匂いを嗅いでいると、離れた場所でハンドサインを送る人が見えた。あっ、マスクをしていても解る赤毛の可愛いおねーさまっ。手を振ってアピールしておこう。

 ……ぱん、つー、まる、みえ。


「私のパンツが丸見えらしいです」

『なんだと!』


 怒っちゃ駄目よ。

 調査員さんを睨んじゃ駄目よ。ちょっと後ずさっているじゃん。

 睨んだ視線上に顔をやって至近距離で視線を合わせると、直ぐに睨み顔が元に戻った。


「早く終わらせて帰りましょ」

『あぁ、もちろんだ。丁度調査が終ったみたいだから…へぇ』


 調査員さんがルゼルにハンドサイン。というか手話で説明している…手の動きが尋常じゃない。普通に喋るより遥かに速いぞ。

 …テクニシャンだ。


「なんて言っているんですか?」

『ここの神は世界のエネルギーを密売…条例違反をしているらしいぞ』


「…それって、やったらどうなるんです?」

『普通なら同盟から外されるか牢獄行き。世界をどう管理しようと勝手だが、星を守る義務はあるんだ。さて…』


 ルゼルが結界を解除し、お爺さん神に拘束の魔法を掛けた。

 お爺さん神は驚いた様子でルゼルを眺め…酷く激昂した表情を見せた。


『何故儂を拘束する! 儂を誰じゃと思っている! 今すぐ解け!』

『天異界条例第一項を知っているだろう? お前はそれを違反した』

「えっ…何が起きた…仲間割れか?」


『はっ、何を言ってるのじゃ! こんな事をしてただではおかない! 訴えてやるぞ!』

『どうぞ。この危機を乗り越えたらな。おいお前、こいつは自由にして良いぞ』

「えっ…どういう…」


 ルゼルが私を抱っこしたまま、赤毛のおねーさまの所へ向かう。その間、男は困惑した様子でルゼルの後ろ姿を眺めていた。


「良いんですか? あのお爺さんが死んでも」

『一応神格を持つものだから普通じゃ殺せないさ。これが終われば除名もしくは牢獄へ入り、刑期が終われば見習い神からスタートだな』


「その間は、この世界はどうなるんです?」

『別に神が必ず居なければならないという事は無い。居なくても世界は回るさ』


 へぇー、じゃあ神の存在意義ってなんだ?

 そこら辺の境界がわからないんだよなぁ。

 星が世界を作って、その世界を管理するのが神…星が何故世界を作っているだとか、何故神が管理しないといけないのかとか、その内解るんだろうけれど、今知りたいのさ。


「でも居ないと死んでしまう星もありますよ。私の世界とか」

『ん? 死ぬのか?』


「アテアちゃんの前任が、世界のエネルギーの大半を売って逃げたから、星の力が弱まったんですよ。今は安定していますが、大変だったみたいです」

『…そんな話は聞いていないな。詳しく調べてみよう』


「お願いします。何か解ったら、教えて下さい」


 よしっ、ルゼルが調べてくれるのなら詳細が解りそう。

 私達が話している様子を、赤毛のおねーさまは不思議そうに眺めていた。

 あっ、男がお爺さん神を斬ったな。でもあまり効いていない…いやそれよりもおねーさまだ。


「ルゼルさん、この可愛い子は誰なんです?」

『…娘だ』

「はじめまして、アレスティアと申します。母がいつもお世話になっております」


「…………えっ…娘? えっ、えっ、ええぇぇぇええええ!」


 おー、めっちゃ驚いている。

 ルゼルは少し恥ずかしそうにしながらどや顔だな。

 おねーさまは夜中に凄い光を浴びたみたいなポーズで驚いて…余程娘というのが衝撃だったんだろう。

 あっ、マスクを外した。

 優しそうな可愛い系のおねーさまだっ!

 ちょっとルゼル、私を遠ざけないでよ。おねーさまに近付いて。


『…そんなに、驚く事か?』

「いやいやいやいやあのルゼルさんがですよ! 娘って…娘って! アスターのみんなに知られたら大変ですよっ!」


『ふっ、超可愛いから大ニュースだな』

「大ニュースどころじゃないですよっ! この忙しい時にみんな仕事そっちのけで来ちゃいますからっ! お相手は誰なんですかっ!」


『相手?』


 ルゼルが私を見詰めて、私もルゼルを見詰めている。

 ……相手は私とか何か変な事を言って拗れる前に私が説明するか。


「私の本当の親は、破壊神を喚び出す為の生贄になりました。それからしばらくして…ルゼルおかぁさんと運命的に出会ったんですよ」

「そうなんだ…ついつい結婚でもされたのかと…」


『ふむ、結婚か。アスターの寂しい女神達に御祝儀を貰うのも悪くない…アスティ、結婚しようかっ』

「凄く嬉しいんですが、ヘルちゃんより先にしたら後が怖いですよ」


 ヘルちゃんの名前が出た時、ルゼルがしょぼんとした雰囲気で唇を尖らせた。伏し目がちに私の髪の毛を指でクルクルさせて……もしかして、いじけている?


『……別に後で良いもん』

「可愛い過ぎですよ。ここでトゥクンな事をして私を生殺しにする気ですか…アスターの方々とは知り合いなんです?」


 アスターとは、序列一位の一番強くて一番有名な世界。

 天異界を取りまとめている凄い所。

 天異界に加盟するにはアスターの女神二柱以上の承認が必要とされるくらい重要な世界。

 赤毛のおねーさまはルゼルの様子に凄く驚いていた…ルゼルのキャラってクール系だし、人前で表情を変える事なんて稀だからだろう。


『まぁ……奴らとの付き合いは長いな。ノワールと組むのも何度目になるか解らないくらいだし……なんだ?』

「ルゼルさん…可愛い…」


『……あいつらに言うなよ』

「解ってますってっ。ふふふー、良いもの見れて満足です。ごちそうさまでしたっ」


 ……なんかルゼルの友達って感じが良いなぁ。

 長い付き合いだからこそ、ルゼルに対して柔らかく接して。

 ルゼルは初対面だとビクビクしちゃうからなぁ。


『…アスティ、どうした?』

「なんか良いなぁって。アスターの女神様達とも仲良いんですか?」


『「んー……」』


 何さ二人とも。

 微妙な反応されると地雷踏んだみたいじゃん。


「うぉぉぉおおお! みんなの仇! 俺式スーパーウルトラローリングダイナマイツスマッシャーズ!」

『ぎゃぁぁああああ!』


 うわ技名くそだせえ。

 あれ? お爺さん神は…死んだ?


『「あっ…」』


 あっ…て何さ。

 どうするのさ。


「じゃあ…帰りましょうか」

『あぁ、そうだな』


「待って下さいよぉぉお! 強制捜査のお手伝いお願いしますぅぅー!」

『我は大事な用事があるんだ』


「アレスティアちゃん説得してよぉ! エネルギーの密売ルートを詳しく調べないといけないのっ!」

「密売ルートかぁ。おかぁさん、やりましょうよー」


『分かった』

「切り替えはやっ! じゃあ強制捜査の書類出して来ますね!」


 ノワールさんが銀色の剣を振ると、次元の亀裂が開いてその中に入っていった。


「じゃあ待ちましょうか」

『あぁ、その間にロンドの力を吸収して良いぞ』


「わーい」


 あっ、この世界でやっても大丈夫かな?

 まぁルゼルが居るから大丈夫か。

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