可愛いくなる加護はいらないと言えば嘘になる

 

「アスきゅん、他のみんなは私が元に戻すから、先に帰っていてね」

「はい、ではまた後で」


 リアちゃんに転移で送って貰い、パンパンの幼女の部屋に到着した。

 幼女はベッドで寝ている。呑気だな。


『…誰の部屋?』

「そこでお腹を出して寝ている女神アラステア様のお部屋だよ」


 テンちゃんがスヤスヤと眠る幼女を眺め、首を傾げて幼女の胸に降り立った。

 そして、ぽむぽむと幼女の胸を叩いてみたり、枕にしてみたけれど無いものは無かった。


『…無い。ぼいーんばいーんじゃない』

「女神幼女だからね」


『むぅ…女神様ー、起きてー、起きてー』

「ぁん? 誰じゃ?」


『レイティアだよ』

「……えっ……お、お主、戻ったのかえ!」


 幼女がガバッと起きて、テンちゃんをまじまじと見詰めながら驚いていた。

 反応が新鮮だなぁ。まぁ戦友が戻って来たら驚くか。


『アレスティアに戻して貰ったの。他のみんなはイリアスが戻すって』


 驚いた表情のまま私の方へと顔を向け、ベッドの上に正座で座り直して頭を下げた。


「アレスティア…感謝するのじゃ。わっちの力じゃこやつらが魔物のまま永遠を過ごす呪いは解除出来なくての…」


「いえ、これはリアちゃんの頑張りですから」

『アレスティアも、頑張ったんでしょ?』


「へへっ、まぁね」


 幼女も頑張ったんだろう。泣きそうな顔を上げた後は指先でテンちゃんの頭を撫でて、嬉しそうに微笑んで…いつもの荒んだ幼女はそこには無かった。


「のうアレスティア、頼みがあるのじゃ」

「なんですか?」


「わっちが天異界で頑張っていたのは、序列上位になって欲しい物を買う為じゃった」

「欲しい物…テンちゃん達に関係しています?」


「あぁ…序列五位から購入出来る…願いの宝珠を手に入れるつもりじゃった」

「願いの宝珠か…それでみんなを戻そうとしていたんですね」


「それも、必要無くなったでの。わっちの目的は…二つだけになったのじゃ」


 願いの宝珠は願いを叶える有名な秘宝。

 リアちゃんの故郷、ルビアでのみ入手可能でお値段が凄い。

 リアちゃんの伝で購入出来るかと思ったけれど、貴重過ぎて無理なんだろうと思う。


 そして幼女の目的…一つは前に言っていた見習いの神達を呼び込んでニート生活。


「一つはニート生活ですよね?」

「そうじゃ、もう一つは…笑わないで欲しいのじゃが…」


「笑いませんよ。前任の神でもボコボコにするんですか?」

「…えっ、なんで解ったのじゃ」


 やっぱりそうか。

 ここまで世界のエネルギーが安定するまで、大分掛かったらしいし…


「違う世界に行ったんですよね? この世界のエネルギーを売って」

「…イッたんに聞いたんじゃな。なら話は早いのじゃ」


「良いですよ。序列は何位です?」

「恐らく五位じゃな」


「知らないんですか?」

「そうなんじゃよ。一、二、三位は予約制なんじゃが、イッたんの交流で誰が居るかは把握しておるでの…わっちより序列が良くて戦った事が無いのが五位だけなんじゃ」


「へぇー…予約制なんですか。二十一位以下って事はないんです?」


 この世界アラスは二十位。

 それ以下の可能性の方があるけれど、幼女は嫌そうな顔を横に振った。


「奴らの事じゃ。わっちより下位だなんて、有り得ぬ」

「この星と世界、そしてアテアちゃんを見捨てた奴らですよね。私も思う所があります」


『あっ、そういえば…』

「テンちゃんどうしたの?」


 テンちゃんが私の肩に座り、思い出すようにアゴに手を添えてむむむとしていた。

 可愛い…おっ、手をポンッと叩いた。何か思い出したのかな?


『私…見たの。あのオッサンと知らないオッサンが話していたの…』

「なんじゃと…何を話していたのじゃ?」


『邪族に潰される前に…世界から出来るだけ力を取るって…』

「もしや、邪族が来る事を…知っておったのか?」


 あのオッサンは前任だろう。知らないオッサンは…序列五位の神かな?

 それよりも前々から邪族が来る事を知っていたとしたら…ロンドと繋がっていたかもしれないって事か。

 なるほど…ならば、ロンドの力を吸収すれば解るかも。

 でも、私の容量は一杯だからなぁ…


「あの、アテアちゃんの加護はこれ以上強く出来ないんですか? ロンドの力を吸収してみたいんです」

「アレスティア…わっちより可愛いくなりたいのかえ?」


「……」

「……わっちより可愛いくなりたいのかえ?」


「……」

「……何か言っての」


『……アレスティア、女神様は星へのエネルギー供給で大変なの。私が代わりに加護あげる』

「ほんと!? 嬉しいっ!」


 あっ、幼女がいじけた。

 お腹が空いたら戻るだろう。

 それよりもテンちゃんから加護が貰えるなんて嬉しいよ。とても。


『アレスティアは、私のネックレスを着けていてくれたから…簡単に出来るよ』

「いつも着けていたんだっ。あっ、だからあの時見えていたんだねっ」


 テンちゃんが私を見ていた理由が解った。

 最初に天の王に会った時のネックレスを着けていたから。

 これには助けられたなぁ…


『じゃあ…じっとしてて』


 テンちゃんがネックレスに魔力を通して、私の頬っぺにチューしてくれた。

 駄目だ…ニヤニヤが止まらない。


 あっ、なんか私の魔力が澄み渡る感覚…温泉に入ってエステしてまた温泉に入った時より心地良い…凄いや。


「ありがとう。これでロンドの力を吸収出来るかも」

『ロンド?』


「邪族進行を指揮した奴だよ。これで協力者やらを割り出せるかも」

「…アレスティア…どういう事じゃ?」


 あれ? 幼女はロンドの事を知らなかったっけ?

 一応説明しておくか。


 よし、何処で吸収しようかなぁ。

 第一候補、ここ。

 第二候補、私の部屋。

 第三候補、リアちゃんとイッきゅんの部屋。

 第四候補、ルゼルママンの部屋。


 もし暴走しても止められるのは…ママンか。

 よし、このまま寝て裏世界へ行こうっ。

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