帰ったら、幼女に優しくしないとな…

 

 邪悪、混沌、破壊の魔装…負の根源。

 今回は黒い雷が落ちた…まだ不安定な魔装だから、変身方法も定まらないのだろう。

 全身黒ローブに銀色仮面という、両手しかお肌が見えない地味不審者仕様だけれど、今回は左手に黒いブレスレットが装着された。お情けかな。はぁ…夜道で出会えば変質者確定だ…


「全ての力…信じられない…何者だ…」


 黒いフード越しに見えるサーストの表情は、予想通り口を開けて驚愕していた。


「無元流…首狩り」

「まっ、待てっ!」


 待てと言われてもねぇ…

 全身のバネを使って瞬時にサーストの真横をすり抜け、スパンッと首を飛ばした。


 ごとりと鈍い音を立て、サーストの頭が転がった。瞬時に首を狩ったから、身体は直立姿勢のまま。

 そして数秒後…頭は砂のように崩れ、直立姿勢の身体の首から黒い霞が出現。

 不死の呪い…か。


「はぁ、はぁ、久し振りに死んだよ…なっ!」

「天誅殺」


 脳天から股まで真っ直ぐに両断。

 服の隙間から素肌が見えた…ナニは無い。やっぱり女の子だな。いや、恐らく深魔貴族だし性別とか関係無さそうだ。

 左右の身体が離れた時…両断部分に黒い霞が発生し身体がくっついた。


「くっ…何故こいつの味方をする!」

「あなたは私の敵だから。ライトソード、乱れ白桜」


「まずいっ! 魔力暴発!」


 右腕、胸を斬った所でサーストの魔力が爆発。私にダメージは無いけれど、サーストが反動で離脱。

 腕はそのまま…死んでいないから元には戻らないのかな。

 あっ、ライトソードが消えた…光魔法は相性が悪いか。でも使えない事は無い。


「くっ、そぉぉ! 消え去れ! カオス・デスペラード!」

「魔法破壊」


「……へっ?」


 なんか強そうな魔法を使ってきたから、バキッと破壊。

 魔法を放った決めポーズのまま硬直してしまった。

 いやぁ、ロンドより弱いし魔法しか使わないから相性が良すぎるなぁ。


「シャイニングロード、光速剣」

「うそっ…かっ…」


 一瞬でクモの巣のように光の道を張り巡らせ、首を飛ばして身体を縦横斜めと両断していく。死んでも斬り続け、サーストの身体はバラバラになった。


「ソルレーザー」


 バラバラの身体に追擊。

 身体は消えたけれど…復活するのか? 様子を見よう。


 そういえばアテアちゃんは何をしているんだろう。


「「……」」


 私をジーッと見ていたので、私も見詰め返してみる。

 ……あっ、目を逸らされた。でもまた目を合わせてきた。でもでもやっぱり逸らされた。

 警戒しているような、興味津々なような…嫌悪感は感じない。可愛いからついつい見詰めてしまう。


「な、なんじゃ」

「いや、可愛いなぁって…」


「ぅっ……」


 ごにょごにょと何かを呟き、下を向いてしまった。

 ウブいのう…女神幼女に言ってもニヤリとするだけだったから新鮮。

 つい、いつもの感じで話してしまうけれど、一応初対面なんだよなぁ。

 あっ、自己紹介していないっ!

 でもアレスティアとは名乗れないよなぁ…名前名前…


 うん、思い浮かばないから裏世界の者だと言えば良いや。どうせ次に出会うのは三千年後だし…


「私は…裏世界にいる天使様の娘です。この度は、同じ裏世界の者が失礼致しました。直ぐに滅しますのでお待ち下さい」

「そ、そうか…裏世界の者なのじゃな…すまぬが……その力…信用は出来ぬ」


「えぇ、信用はしなくても構いません。私は、私のやるべき事をするだけですから」


 まぁ、そうだよな。邪悪、混沌、破壊の力を持つ裏世界の者なんて信用しろという方が難しい。

 ぼろが出る前に倒すか。


「こやつを倒したとして…その後は、この世界をどうする気じゃ?」

「この世界を? 別にどうもしません。帰るだけです」


「…本当かえ?」


 神一人で世界を守っているから疑り深いのも無理は無い、か。そろそろサーストが復活するな。

 黒い霞が身体の形に変化していく。

 あの霞を調べれば…深淵の瞳ー。

 あっ、破壊の瞳で不死の呪いを壊せるじゃん。


「げほっ、げほっ、なんだ、この力は、僕は混沌神様の力を持っているのに!」

「どんな大きな力を持っていても、使いこなせなければ意味は無い。破壊の瞳」


「なにっ! 力が…」


 混沌神の力を破壊。

 破壊出来るという事は、本物の混沌神の力では無いという事か。まぁそれはこの際どうでも良いか。


「さて、私にはそろそろ時間がありません。どうせ死んでも裏世界で一からやり直す事が出来るので、また頑張って下さいね。能力破壊」

「まっ、待てっ! お前を混沌神様に紹介してやる! だからっ!」


 インガラのように、深魔貴族はやり直しが出来るらしいし、また頑張ってくれたまえ。

 キリエはもう終わったのかな?


 バキンッとサーストの内部からガラスの割れる音が響いた。

 サーストが胸を抑えてよろめき、その間に至近距離へ移動。

 折れないソードを天に向け、サーストを見据えると、怯えの含む表情で私を見ていた。

 ふんっ、妖精さんを笑いながら食べた報いを受けなさい。


「あぁ、言っておきますが…混沌神なんて興味は無いです。破壊の剣よ」

「ぐっ、裏世界の者では無いのか…何者だっ!」


 折れないソードに破壊の魔法剣を付与しようとしたけれど、邪悪と混沌もくっついて来た。


 ――シュヤクハーオクレテーヤッテクルゥゥ! ヒャッハァァア!


 血盾さんこんにちは。よろしくお願いします。


「私の母は、裏世界で二番目に強いらしいですよ。フルエナジーパワー」

「二番……まさか…娘が…居たのか…」


「ふふっ、ではごきげんよう。滅裂の刃」


 ――デバンスクナイカラハリキルヨォォオオ!


 ルゼルはこの私を見ていたのかな?

 気になるな…今度聞いてみよう。


 よしっ、はいさよならー。

 三つの力を混ぜて振り下ろすと、サーストは跡形も無くなった。

 あっ…やばっ…力を込めすぎた。

 荒れ狂う邪悪、混沌、破壊の力…周囲の切り立った山々が崩壊している…

 あー! 

 渦巻きが吹っ飛んでいくー!

 賢樹も吹っ飛んでいくー!


 …なんかごめんよ。

 遠くに一つだけ山が残ったくらい…私が一番自然破壊をしてしまった。


「……のう、お主」

「……すみません、やり過ぎました」


「いや、それは良いがの…まぁ、感謝、するのじゃ」

「……いえ、長居したせいか星の力を使い過ぎました」


 私が居れば居る程、星のエネルギーが減っている。

 これ以上はまずいな。

 星さーん、そろそろ帰りまーす!

 おっ、身体が薄くなってきた。


「大丈夫じゃ、代償は払うでの」

「代償は、なんです?」


「それを言う義理は無いでの。じゃあ…また、会えるかの?」

「えぇ、もちろん会えますよ」


「そ、そうか…名を、訊いても言いかの」

「今は、名乗れません。ですが、また巡り会えたら…その時は…」


 あっ…身体が消える。

 まだ話したかったー…抱かせてくれって言えなかったぞーくそー。

 アテアちゃんが名残惜しそうにして…

 ……仕方ない、帰ったら幼女に優しくするか。

 目が覚める感覚…また会いましょうねー!

 ばーいばーい!


「……行ってしもうたか。不思議な縁もあるものじゃな……はぁ…一人か。さっ、イリアスが来るまで仕事頑張るかの! ん? …空腹? くくっ…空腹なぞ、久し振りじゃな」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 意識が浮上してきた。

 戻ってきたんだな。


「……」

「アスきゅん、おはよう」

「ひめさまぁーおはようございます」


「おはようございます。あの…リアちゃん」

「なぁに?」


 目が覚めた私を、寝起きっぽいムルムーと、ご機嫌な…それはもうご機嫌な表情のリアちゃんが出迎えた。

 リアちゃんは目的が達成された訳か。

 早く行きたくてウズウズしているけれど、私に言って欲しいから待っている。

 はいはい、次にする事は解っているよ。


「じゃあ…天の王に、会いに行きましょうか」

「ふふっ、そうねっ」

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