想いよ届け

 

「ふふっ、歴史なんて変えないよ。変えるのは、未来」


 リアちゃんが白い槍を持ちながら、軽い足取りで魔物と化した妖精さん達の元に歩み寄り…

 妖精さんを、えいっと突き刺した。

 合計五本突き刺し、ついでとばかりに賢樹には投げ刺した。

 いや…何してんの?


「これはまだ幼体。成体になったこの子達は手出しが出来なかったの。この時代に私が存在してしまったせいで、この時代からアスきゅんが居る時代までのタイムリープが出来なくなったって訳ね」


 タイムリープには、制限があるのかな?

 この時代はキリエが居た時代だから三千年前…リアちゃんがこの世界に来たのは千年前…

 つまり二千年の間に、妖精さんは幼体から成体に成長してしまったのか…

 でもなんで今ここに存在出来るの?


「この星が、アスきゅんに意志を伝えようとした。正直賭けだったけど、いつかはこの光景を観せるって思っていたから」


 だからリアちゃんは私をちょいちょい自殺の名所へ連れて来ていたのか。

 つまり私が鍵になっている事を、前々から解っていたんだなぁ。凄いなぁ…先祖返りした女子なんてそれっぽいもんなぁ。

 もし違ったらどうだったんだろう…


「ずっと、心残りだったのよ。これで、恩を返せる…封印禁術」


 真っ白い鎖が、サーストに絡み付く。

 頭から足先まで…雁字搦めに絡まった姿は、白いミノムシみたい。

 このまま殺せば簡単だけれど…


「実はね、サーストは相性が悪くて今の私でも敵わないの。だからここからはアラステアちゃん次第ね」


 サーストはそんなに強いのか…

 そこでリアちゃんが懐中時計をいじると、ゆっくりと景色が動き出した。

 妖精さんが消え、サーストが白ミノムシになっている光景に、アテアちゃんが目を丸くして驚いていた。


「はっ、何が…起きたのじゃ…」

「今、こいつを封印したけど…十分も持たない。私じゃ敵わないわ」


「じゃ、じゃあ…どうすれば良いのじゃ。わっちも混沌神の力に太刀打ちなんて出来ん…」

「方法はある。この星に…力を貸して貰うの」


「そんな事…出来る訳が無かろう。星と対話なぞ出来ん」

「普通ならね。でも、私なら想いを届ける事が出来る」


 星は意志を伝えるだけ…こちらの意思は伝える事が出来ない。

 そう聞いている。

 リアちゃんの足元に、真っ白い魔法陣が現れた。

 なんだこれ…神聖魔法とは少し違う。

 別の属性? 固有魔法?


「何を、するのじゃ」

「アラステアちゃんの想いをこの魔法に乗せる。そうすれば、私がその想いを重ねて星へと届ける儀式魔法を行う」


「そんな事…出来たとしても、わっちを認めてくれるかどうか…」

「大丈夫。もう認めている。私を信じて」


 自信満々に信じてと言うリアちゃんに、アテアちゃん瞳が揺れる。

 不安なのは無理もない。一人で世界を管理して、失敗ばかり。災害級の魔物に逃げられて人里に被害を与えたり、自然災害を放置していたら死の土地になったり…

 アテアちゃんを視たら、胸が苦しくなるんだ。

 寂しいのに、寂しいって言えない。

 助けて欲しいのに、助けてって言えない。


「……その魔法…ただでは出来んのじゃろ?」

「うん。本来この魔法は、多くの人々の想いを重ね…悪を討つ超殲滅魔法。想いが足りなければ、代償を払うの。だから私達二人の想いで、私達より強いサーストには放つには想いが足りない」


「イリアスも危険じゃろうに…」

「うん、そうだね。でも私は友達を守りたいの。星に想いを届ける方が確実だし、私にはもう時間が無い」


「……友達?」

「…こうやって、命を賭けて戦った仲じゃないの。私達はもう友達よ」


 アテアちゃんが下唇を噛んで、今にも溢れそうな涙を堪えていた。

 あーもう、格好良いなぁ…幼女がリアちゃんにベッタリな理由も解ったよ。

 それに少しずつ…リアちゃんの身体が薄くなっている。消えたらきっと、ルビアに帰るんだろう…


「なんじゃ、友と呼んでくれるのかえ?」

「もちろん。でも嫌ならいいわよ」


「あ、いや、そうじゃ、なくての…」

「ふふっ、次に会えるのは二千年後。それまで死ぬ気で頑張ってね」


 真っ白い魔法陣が輝きを増した時、サーストの鎖が一つ弾けた。そろそろ復活する…


 リアちゃんが早く取りなさいと言うように、手を差し伸べ…

「…はぁ、ちと長いの」

 そう言って、アテアちゃんはリアちゃんの手を取った。


「忙しいとあっという間よ。この想い…届け。神位魔法・クロスハート」


 視界が真っ白く染まり、様々な心が流れてくる。

 前任の神達は…この世界をアテアちゃんに押し付けて去っていった。

 去っていった理由は…あぁ、くそ。

 世界のエネルギーの大半を…天異界に所属する他の世界に売った。売った功績で…その世界へ行ったのか…


 それでもアテアちゃんは、この弱った世界を想い、一人で世界を守り抜く覚悟を持った。

 どんな代償も払う覚悟も持っている。


 想いが強ければ強い程、強い効力を得る儀式型魔法…か。

 この温かい想いは、しっかりと星に届いているから。その不安も、安心に変わるから。


「なん…じゃ…心が、ざわつく」

「ふふっ、安心して。想いは届いた」


 星は、私にこの歴史を観せたかった訳じゃない。


 ――バキンッ!

 サーストの鎖が全て弾けた。

 それと同時に、クロスハートの光が収まる。


「はぁ…はぁ…小賢しい真似をしても無駄だよ。あぁ? なんだお前…」


「この想い…しかと受け取りました。これが、正しい歴史なら…私は喜んで戦おう」


 星は、私に助けて欲しかったのだろう。


「イリアス…これは、何が起きたのじゃ…」

「ふふっ、星は…世界で一番強くて可愛い女の子に頼んだみたいよ」


 消えかけのリアちゃんが私に歩み寄り、銀色の仮面を顔にくっ付けた。

 なんか…昔から家にあったような、生まれた時からあったような…凄く懐かしい気分になった。これで顔を隠せって事?


「私は部外者だから、星にお願いして星の記憶から消える事が出来る筈。でもアスきゅんは難しいから、この仮面を着けて。これならあの人でも見付けられないから」

「ん? はい、ありがとうございます。では…また後で会いましょう」


「お前! 何処へ逃げる!」

「おっと、あなたの相手は私です」


「邪魔をするなぁ!」


 サーストが黒いエネルギーを放ってきたけれど、折れないソードでスパンッと斬ってやった。

 消えかけのリアちゃんは、アテアちゃんに声を掛けながら頭を撫でて、消えていった。

 星の記憶とか解らないけれど、それは後回しだ。


 先ずはこいつを。


「圧倒的にぶっ潰す。邪悪、混沌、破壊魔装」


 大渦の下に砂漠が広がり、絶壁の山々が連なる混沌とした地帯で、黒い雷を全身に浴びるのは…心地良いな。


 こんな私を…素敵な女神様は、友と呼んでくれるだろうか…

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