最初に言っておくけれど、私は虫の息だぞっ

 

「くっ…あ…神…なの…」

『我を直視しない事をお勧めする。と言っても、手遅れか』


 黒銀のオーラを抑える事なく、黒髪を靡かせる姿は美しい…

 いつもの黒いドレスに、私がプレゼントしたイヤリングを着けている。神々しいよママン。

 生身の身体で会えるなんて嬉しいけれど、ちょっと私は死にそうなので助けてくだしゃい。


 ルゼルが一歩踏み出すと、ミズキの肩がビクッと跳ね表情が恐怖に染まった。無理もないか…恐らくコーデリア達も同じ状況だろう。ミズキ、大人しく私を渡してくれ。


「ひっ…うぅ…怖い…でも…渡さないよ!」

『戦う意志は無い。娘を渡してくれたらそれで良い』


「何をっ…する気!」

『戦う意志は無い。その傷を治すだけだ』


「えっ…どういう…」


 ミズキが驚いた時…空間の歪みが発生。

 リアちゃんかな。

 ……うわ…リアちゃんが臨戦態勢で現れた。

 私達の前に立ち、白槍を構えて真剣な表情。緊張感漂うね…早く助けてね。


黒金くろがね…何をしに来た…あなたの来るべき場所じゃない」

『…他世界の者か。ふっ、言葉を返そう』


「狙いは…この子ね…」

『あぁ、そうだな。早く渡せ』


「…私がさせると思う? 時空結界!」


 おっ、リアちゃんが結界を発動…そして結界内で魔力を高めている。

 戦うの?

 えー…戦うの?

 敵じゃないぞー。

 味方だぞー多分。


 もう私は喋れないくらいの危篤状態。今自己回復中…

 ミズキ、私をギュッてするな。血が溢れるだろ。


『時を止めた結界か、器用な事をする…』


 ルゼルが結界に裏拳。

 するとバッキバキに割れた…いや、力任せに壊さないでよ。風圧が傷口に当たってまじで痛いよ。

 というか力で壊せるものなの? 強過ぎて笑えてくるよ…


「流石ね。でも残念…転送」

 おっ、ミズキの足元に紫色の魔法陣…私達をパンパンに転送するのか。よしよし、これで私は助かるねっ。


『ふむ…時空妨害』

「なっ!」


 ちょっ! 何するのさっ! 妨害しないでよ。

 転移出来ない領域を作っちゃ駄目だよ…幼女も来れないじゃん。


『リデュースエナジー』

「ぁっ…ぅ…力が…」


 リアちゃんの力が抜けていく…膝を付いてダウン…

 えー…ルゼルママン強い…

 おっ、みんなパンパンからこっちに向かって来ている。

 先に着くのは蒼禍かな…いやいやいや、拗れるからみんな同時においでよ。


「アレスティア! 蒼剣・千武!」

『…天魔族か』


 蒼禍が蒼天の剣を振り下ろすと…

 ルゼルが親指と人差し指でパシッと掴む…そしてそのまま後方にぶん投げた。


「うゎぁあ!」

 ……あっ、蒼禍近くの岩に激突。

 …うわぁ…ありゃ動けないか。

 やられ役みたいになったな…


『はぁ…不殺は苦労するというのに』


 うんうん、殺しちゃ駄目だよ。殺したら口聞いてやらないからね。

 ……えー…お次はフーさんとクーちゃん…なんでみんな臨戦態勢なの? 話し合いから始めれば解決するじゃん。


「大地を照らす慈愛の炎。大地を溶かす紅蓮の炎。そして大地を作る、起源の炎。三つの炎が合わさる時…古の炎が甦る!」


「命を守る守護の水。命を作る誕生の水。そして命が還る円環の水よ…三つの水が合わさる時…太古の海が甦る」


「炎の章第九十九…灼熱龍グドラーム、共に戦おう」

「水の章第九十九…大海龍マイロジーオ、やるです」


『『グォオオオオオ!』』


 おー! すごーい!

 赤の龍と青の龍…ミズキが空気を読んで見せてくれた。ありがとー。

 おっきいー!


『久しいな、グドラーム』

『ふんっ、お前と並ぶ時が来るなんてな』


 龍同士の会話…なんか物語のラスボスと戦う時ってこんな感じだなー。険悪だったエルフの姉妹が最後には手を取り合い最強の召喚龍で世界を救う的な事を想像してみよう…


『我らの敵はあやつか? ……あっ…えっ…嘘…』

『ぁ…ルゼル…様』


『ほう、四龍か。エナジーブラスト』


『『ギャァァァアアア!』』


 一撃でやられたー!

 ダセーーー!

 あっ、消えた。


 えー…もしかしてグドラーム達って裏世界出身なの?

 裏世界から召喚されるとか? 会ったらお相手願おうかな。

 フーさんとクーちゃんは召喚の反動でダウン。


 えーと…残りは…


「ぬわぁぁぁ! なんでお主がおるんじゃー! 神鎚・星砕き!」

『む? アラステアか。エナジーパワー』


 真っ白い全身鎧の幼女が飛び出し、白いハンマーをルゼルに叩き付ける。

 ゴンッ! と鈍い音が聞こえ…幼女のハンマーとルゼルの拳が衝突。


 おー…初めて拮抗したぞ!

 やれやれー!

 軽い爆発音と共に両者が離れ、睨み合うように対峙した。

 その中央に私達…お願いだから巻き込まないでね。

 あっ、リアちゃんが復活。


「アスきゅん、あいつを追い出して回復してあげるからね! 集え! 想いの輝き!」


 ……


「アレスティア! 終わったら回復してやるのじゃ! 光よ!」


 ……


『ふっ、我が回復するに決まっているだろう? メガエナジー』


 ……いや、誰でも良いから回復してよ。

 しかも三人共にさ…その位置から私を回復出来るでしょ。

 早く回復してよ…視力もヤバみちゃんなんだよ。


「はぁ、はぁ……えっ、ルゼルさん? うわ…みんな何やってんの?」


 あっ、ヘルちゃーん! 待っていたよー!

 たぁーすけてぇー!

 あっ、凄い嫌そうな顔をしている。見えないけれど、凄い嫌そうな顔をしている事は解るよ。


 うわー、私に聞こえるように大きなため息を吐いた。

 そうですっ、私が元凶ですっ!

 だから回復してー、ヘルちゃーん、回復してー。


 リアちゃん、幼女、ルゼルが力を溜めている間に、ヘルちゃんが中央にやって来た。


「はぁ…神聖なる光よ、セイクレッドヒール」


『「「あっ…」」』


 あっ…じゃないよ。

 死にかけたんだからねー。大変だったんだぞー。

 おぉ…流石は神聖魔法。傷が治っていくよ。

 死にかけた後だから、まだ動く事は難しいかな。

 ヘルちゃんありがとー!

 見せ場を取られて三人が寂しそう…


「レティ…良かった…ごめんね…ごめんね…」

「ご心配をお掛けしました。ここは危険なのでちょっと移動しましょうか」


 ミズキが中央から退避。

 ヘルちゃんだけが残った。


「……」

「へ、ヘルたんっ、早くそこから離れるのじゃ!」


「…ぁ? 嫌よ」

「そ、そうよっ。危険なのよ!」


「…大丈夫。この人はアスティのお母様よ」

「「…へ?」」


 私の母です。

 ご迷惑をお掛けしました。

 ルゼルこらっ、得意気な顔をしないのっ。抱っこしてよー。


「で? ルゼルさんは何故ここへ?」

『ふっ、来ちゃった』


「……自分の存在を解っていますか? 来る必要ありましたか? あなたが来ると表世界が混乱するんですよ? 来て回復して直ぐ帰ればこんな事にはならなかったんですよ? 後ろの帝都は大きすぎる魔力で大混乱ですよどうしてくれるんですか? もう一度言いますが来る必要ありましたか?」

『…そんなに責めなくても良いだろう? …魔力が急に減ったから、アスティに会いたかったんだ』


 ルゼルが少しいじけている…可愛い。


「おかぁさん…抱っこして下さい」

『あぁ…もちろんだ。持ち帰って良いか?』


「それは駄目です」

『駄目が駄目だぞっ』


「ちっ……全員、集合」


 ヘルちゃんのドスの効いた掛け声…

 怒ってらっしゃる?


 リアちゃんは黙ってヘルちゃんの元へ…気配を薄くして空気になろうとしている。

 幼女はビクビクしながらヘルちゃんの元へ…普段後ろめたい事しかしていないから立場が逆だ。

 ルゼルは少し気不味い顔でヘルちゃんの元へ…怒られたばかりだから拗ねている。

 一応私達もヘルちゃんの元へ向かった。


「…あなた達、何をしていたの?」

「いや、こやつが攻めて来たから…」


「攻めて? 誰も殺していないじゃない。何故来たか話を聞いたの?」

「そんなの聞くまでもなかろう。あんな魔力を撒き散らしおって、この世界を壊すんじゃろ?」


「はぁ…アーたん、女神なんだから他世界から来た人とは先ず話し合いをする姿勢を取りなさいよ。そんなんだから脳筋なんて言われるのよ」

「むぅ…だって…」


「それ以前にみんな…死にかけのアスティを放っておいて喧嘩だなんて、有り得ないわ」

「「『……』」」


 ヘルちゃんの睨みにみんな何も言えねぇな…

 もちろん私も何も言えねぇっ! いやー睨まないでー。


「とにかく、一度アーたんの家に行きましょう。軍隊に囲まれながらお茶会なんて嫌だからね」


 お茶会? お説教会の間違いじゃ……ん? 睨まれると思ったらヘルちゃんが私に近付き、抱き締めた。


「ヘルちゃん?」

「アスティ…あなたが危険を犯すと、みんな心配するの。もっと自分を大事にしなさい」


「…うん、ありがと」

「私だって、心配したんだから…ばか」


 ヘルちゃーん!

 可愛いのうっ!

 あっ…ギューを強くしないでね。

 そこ首だよ。

 くるちぃ…

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