もうこれは大失態ですよ…私の馬鹿…

 

 ミズキの鋭い突きが私の心臓を狙う。

 流石に刺される訳にはいかないから、エナジーバリアで防御。


「ふふふ、逃げても無駄よ。逃げたら勇者ミズキはアースの王女を殺すわ」

「なんともまぁ、用意周到なこって。うわっ、聖剣渡すんじゃなかった…バリアが斬られるっ」


 コーデリアは自信満々に私を見据え、暗部さん達は驚いているな…

 ちょっとまずいなぁ…ミズキはヘタレなければ強い。今の状態はヘタレていないから…気を抜いたら斬られる。

 それにあの聖剣…私に効果抜群なんだよなぁ…



 * * * * * *


「コーデリア姫…これは、どういう事でしょうか?」

「あの二人は戦う運命にあったという事よ。ふふふ、見物ね」


「白雲殿は…敵ではありません」

「…何を言っているの? 計画の邪魔をしたから敵に決まっているでしょう?」


「天使様を敵に回すという事は…女神様も敵に回してしまいます」

「だから?」


「えっ…」

「私の神はお姉さまだけよ」


 * * * * * *



 どうするかなぁ…このままだと朝まで戦う羽目になる。

 ミズキを傷付けずに治す方法があれば…いや無いかも。

 とりあえず一発攻撃してみるか…


「エナジーバレット」

「ぐふっ…」


 やべっ、ミズキの脇腹にヒット…結構鈍い音がしたからあばらが折れたな。

 仕方ない…


「エナジーヒール」

 脇腹と、顔にもヒールを掛けてみる…これで魔眼の効果も治れば…


「光華一閃!」

 うおっ!

 回復した途端殺しに来た。

 治ったら覚えてろよ…

 くそっ、この技は…


 光の軌跡が通り過ぎ無数の光刃が発生。

 全てを回避するのは無理っという事で今まであまり出番の無かった神剣がっかりソードで弾き飛ばしていく。


「逆光の太刀!」

 返す刃で同じ軌跡が通り過ぎた。

 あぁくそ本気で撃ちやがって…

 後方からも無数の光刃が発生した。

 天壁が使えれば一番だけれど、朱天の剣を解放したら周辺の自然が壊れる。


「仕方ない…ハイエナジーバリア!」

「…奥義・閃華!」


 無数の光刃が輝きを強め爆発していく。

 ハイエナジーなら防御出来るけれど、力が強過ぎてメイド服が痛むんだよ…そんな事を考えている場合ではないけれど…

 普通いきなり奥義使うか?

 アホミズキ…お仕置き確定だな。


「くふふっ、言っておきますが…無元流は私に効きませんよ」

「もちろん小手調べだよ。シャイニングロード」


「それはやめておいた方が良いですよ。ミズキさんには危険です」

「やってみないと解らないでしょっ。光速剣!」


 光の道が張り巡らされ、ミズキが光の道に飛び込む。

 そして一瞬にして後方へと移動…なるほど、光速剣をされる気持ちが解った。この技は回避困難だな…我ながら良い技を思い付いたものだ。


「無駄ですよ。ミズキさんはまだ直線移動しか出来ませんからね」

「それはどうかな。私の世界にはジェットコースターってのがあってね」


 そう言ってミズキがまた光の道へと飛び込む。

 なんだ…光の道が…


「ぐっ…」

 脚を斬られた。

 シャイニングロードが形を変えて曲線や回転が加わっていた。

 やるね。

 それなら…深淵の瞳で光の道を変えてやろう。

 ミズキが再び光の道に乗り…今だっ!

 光の道を下向きに変更!

 そのままドンッと地面に激突!


「ぐ…あっ…」


 うへぇ…ごめん顔から落ちた。

 死んでいないよね? エナジーヒール。

 くっ、このまま戦っていたら加減を間違えてミズキが死ぬ。


 とりあえずコーデリアに直接聞いてみよう。

 ミズキがダウンしている間にコーデリアの近くにジャンプ!


「っと、コーデリアさん、どうやったら運命は元に戻ります?」

「…普通直接聞く? まぁ良いわ。どちらかが死ねば運命は元に戻る」


「へぇ、正直に言って良いんです?」

「ええ、制約の多い力だからね。正直に言えば効力も増すの。私を殺しても無駄よ」


「なるほど、良い事を聞きました。ところで、過去に掛けた運命操作は似た条件で解除されます?」

「大概死ねば運命は元に戻るわ。まぁ、死んでしまったら意味は無いのだけれどね」


 ふーん。

 強力な能力だと思うけれど、制約も多いのか。

 この場合、コーデリアを殺しても意味は無い。結局、殺し合いは避けられないのか。敵同士で普通に喋るという違和感はこの際闇に葬り去ろう。

 暗部さんが何か言いたげだ…あっ、呪いの解除ね。


「暗部さん、二人とも動かないで下さい。ハイエナジーヒール」

 呪いよ治れー。

 これは、ベアトリスクが所有している呪詛の魔眼かな。

 ったく、あいつは何がしたいんだよ…ん? 少し力を逆流させたら同じ呪いの人が百人くらい居るのが解った…えっ、まさかまた生贄を使う気か?


「っ…ありがとうございます。本当に助かりました…」

「いえ、約束ですから。もし良かったら帝都に住みませんか? 歓迎しますよ。もちろんご家族も連れて来て大丈夫です」


「……そこまでお世話になる訳にはいきません」

「じゃあ、私があなた方を雇います」


「……」

「その気になったら私の所に来て下さい。ところで、同じような呪いの方はあと百人くらい居ますよね?」


「えっ…はい…恐らく…」

「もしかして…私や第一皇女の死体回収も命令されています?」


「…はい」

「そうですか。ベアトリスクはまた魔族を召喚する気ですね。今度は魔眼持ちの遺体と、美少女百人を生贄にして」


「また…どういう事よ」

「あら、コーデリアさんは知らないんですか? 元アレスティア王女は生命の宝珠という秘宝で作られたんですよ。美少女百人の生贄によってね」


 ベアトリスクを視る事はしなかったのかね?

 いや私のように心の深淵を覗く訳じゃないのか。運命を視る…うん、よく解らないけれど軽い記憶しか視れなさそうだな。


「…そんな馬鹿な話嘘よ」

「嘘じゃありませんよ。ベアトリスクから直接視たので」


「……じゃあ…お姉さまが冷遇されていたのは…」

「魔法の才能が無い失敗作だからですよ」


「……」

 あっ、ミズキが起き上がった。

 回復はしているけれど、魔力が少ない。魔力を使い過ぎて暴走しかねないな…ったく、世話の焼ける。


「まぁでも、そのお蔭でアレスティアは自由を…そして力を手に入れました」

「何を……えっ……お姉…さま」


 メイド服が破けると困るので、早着替えでいつもの白い普段着に着替え、地味メガネを外して準備万端!

 コーデリア、すまんねこんな再会で。

 私はミズキを死なせる訳にはいかんのだよ。


「さぁミズキさん、私を殺せば元に戻れるらしいですよ」

「…運命に従うのみ」


「駄目…駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目! お姉さま! 駄目です!」


「コーデリアさん、私はあなたのお姉様じゃありません。血の繋がりの無い他人です…あなたのお姉様は今頃第二皇子と◯◯◯◯している事でしょう」


 魔力感知が優れているお蔭で色々解るんだよ。

 魔力が絡み合い…混ざり合う…いや、ここではやめておこう。


 血の繋がりの無い他人という意地悪を言っておかないとね。

 間接的でもヘンリエッテを殺そうとしたんだ。

 素直に許す事は出来ないよ。

 だからせめて目の前で死んでやろうではないかっ!


「私のお姉さまはあなただけなんです! もう離れるのは嫌! 運命の瞳よ!」

「駄目ですよ。深淵の瞳」


「弾かれたっ、どうして! このままでは!」

「あぁ、良いんですよ。私はもう一度死ぬ必要がありますから」


 死ぬというか、私の運命を元に戻す必要がある。コーデリアの思い描いたハッピーエンドが私の中に刻まれているんだ。


 ずっと疑問だったんだよ。

 どうして私はミズキに殺されたあの時…第二皇子を助けたのか。


 答えは、コーデリアの魔眼…運命の瞳も発動していたから。

 皇子が愛する王女を助ける物語を思い描いていたのかは解らないけれど、中途半端に覚醒していたお蔭で王女が皇子を助けてしまった。

 あの時…身体が勝手に動いたような気がしたのはそのせいなんだけれど、死んだ時に運命が元に戻らなかったのは何故だろう。

 いやそれよりも第二皇子を助けてしまう呪いにも似た運命を解く方が先決だ。他にも何か地雷が潜んでいたら今後皇子と結ばれる可能性も…やばっ、鳥肌がっ!


 その為に死の淵でクソな運命をほじくり出さなければいけない…

 私の因果を断ち切るのだっ!


「くっ…ぁ…」

「いや…いやぁぁあ! お姉さまぁぁあ!」


 そんな事を考えている間に、ミズキの聖剣が私の心臓を貫いていた。


 あぁ、痛え。


 意識が薄れそう…早くしないと、私の命の源…星属性が垂れ流しだ。私の星属性が無くなったら本当に動けなくなるから…

 おっ、ミズキが元に戻ったか?

 死亡ではなくて致死レベルのダメージでも戻るのか。

 良かった…それならヘルちゃんに治して貰おう。


「……ぁ…レ、レティ…」

「私を…ヘルちゃんの…所へ…お願いします…深淵の…瞳…」


 運んでいる間に私の深淵へゴーゴー!

 ミズキ早く行けっ!

 ほらっ、茫然とするなっ!


「わ、わ、私…なんて事を…」

「ごふっ…早く、ヘルちゃんの、所へっ!」


「あっ、う、うんっ! グレーターヒール!」

「待って! お姉さまを連れて行かないで!」


 ちょっと遠いかなー、まぁなんとかなるでしょ。

 正直自己回復で一時間くらいは余裕だし。

 でも星属性が垂れ流しのせいでエナジーヒールが使えないからなぁ…


「くっ…効かない…早くしないと」

「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま! 渡さない渡さない渡さない渡さない!」


 コーデリア荒れてんなぁ……


 ……


 あ……


 しまった……


 やっちまったー!!


 無視だ無視、話している場合じゃねえぞっ!

 やばいやばいっ! 大変な事を思い出した!


 どうしよう調子こいて刺されるんじゃなかった!

 聖剣のせいでグレーターヒールが効かない!

 いやそんな事はどうでも良い!

 あぁくそ、私の星属性が無くなったらやばいんだよっ!


「早く…がふっ…しないと…」

「喋っちゃ駄目! 今行くから!」


 あー!

 もうー!

 早くしないと!


 早くしないと!


 私の星属性はとある場所に繋がっている!


 裏世界の…アレスティア人形…

 人形に繋がる魔力が急激に減ったら…

 何が起きたか気になってしまう…


「…来ちゃ…う…」

「えっ? ぁ…な…に…この魔力…」


 あぁ…遅かったか。


 空間に歪みが発生し、中から黒銀の魔力が溢れ出す。


 ミズキが動けなくなる程の、圧倒的な力がそこにはあった。


『魔力を辿って来たが…ふむ、とりあえず娘を渡して貰おうか』


 過保護なルゼルママ…

 来なくて良いよ…空気読んでよ…

 ちょっと髪が乱れている…急いで来たんだね。

 嬉しいんだけれどさ…いやほんと、来なくて良いんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る