嫌がらせ計画ばかり思い付くけれど、何個実行出来るかね

 

 夕方になり、リアちゃんの転移でパンパンへと戻って来た。何処へ行ってきたか…一言で言うとラブホだよ。

 白兜に白鎧はそのままだとあれなので、赤いマントを装着。式典用白鎧の完成だ。


「…アスティさん、兜を取ってみて下さい」

「断る」


「えー! 見たいんですよー!」

「恥ずかしいからやだ。レーナちゃんはいつも見ているじゃん。今はほんと駄目だよ」


 準備は完了。

 面子はヘンリエッテとミズキ、私とフリシアちゃんがペアになって行く予定。同伴者が居た方が良いらしいからね…


「す、すみません白雲さん、同伴をしてもらって…私、ルールも知らないし…」

「私もルールなんて知らないよ。パーリーの同伴者なんて初めてだし」


「そう、なんですね…慣れていらっしゃると思いました」

「パーリーの時なんていつもボッチだったよ。むしろ私で良かった? 彼氏とか居たら申し訳ないし」


「あっ、いえ…彼氏なんていませんよ」

「ありゃ、そうなのか。好きな人は居る?」


「はぃ……居ます」


 ふむふむ、好きな人は居るのね。国立工房の人かな?

 どんな人なのかなー。気になるなー。気になっちゃうなー。


「どんな人? 国立工房の人とか?」

「ぁっ、ぃぇ……ただの…片想いですから…」


 少し寂しそうにして…もしかして奥さんが居る人とか? 気になったら知りたくなっちゃうけれど、深入りすると駄目かな。人の恋路は妨げてはいけないよね。


「しつこくてごめんね。よしっ、そろそろ行こうか」


 仲良くなったらその内教えて貰おう。

 仲良くなれれば…か。

 なんかもう…私にビビっているからなぁ…

 そりゃ色々な決定権を持っている奴だから怖いか…下手をして私の機嫌を損ねたら国立工房も潰されかねないと思っていそうだな。

 ……いや、店員さん達に何か吹き込まれたな。


「じゃあみんな行ってらっしゃい」

「はーい」


 流石に歩いて行くとパニックになるので、リアちゃんの転移で城の近く…式典ホールに送って貰った。

 ヘンリエッテとミズキは有名人なので変装…ヘンリエッテは私のぐるぐる眼鏡を着用。ミズキはそれっぽく男装している。


 着いてみると城の正門は馬車の行列が出来ていた。


「……なんか混んでいるね」

「パーチーに出たい人が殺到しているんじゃない?」


「……仕方ないから並ぼうか」

「そうだね。ルールに沿って権力を使わずに平等に並びましょう」


 そうそう。権力を使わずに平等な行動を心掛けよう。

 という事で馬車達の後ろに並ぶ。


「ねぇ白雲、ところで私の立場って何なの? ただの王女で良いの」

「良いんじゃない? 聖女と天使は居るし、ヘンリエッテはパンパンの中では下っ端だからね」


「それはそれで新鮮だね…私の立場はパンパン基準なんだ…」


 そうだよ。パンパンの配膳と調理をマスターしないと下っ端から抜け出せないからね。

 だからヘンリエッテは一番下っ端なのだ。


 おっ、後ろにも馬車が並んだ。割りと時間ギリギリというか、多分遅刻だけれど大丈夫なのかね?

 まぁ私達も遅刻だから良いか。

 …ん? 前の馬車の後ろ窓が開いて、四十代くらいの青い髪の女性が私達を珍しそうに見た。


「ねぇあなた達、どうして馬車じゃないの?」

「あれな馬車しか無いので歩きです」


「ふーん。乗ってく? 今回はマナーにうるさいらしいから、馬車じゃないと城に入れないかもしれないわよ」

「お気遣いありがとうございます。入れなかったら帰るので大丈夫ですよ」


 そうなんだ…持っている馬車は、リアちゃんの魔導馬車だからざわざわするんだよ。

 門前払いならそれはそれで良いかな。


「ふふっ、潔いわね。まぁ馬車で来ても入れないかもしれないけれど…あなた達なら大丈夫か」


 おっ、帰っていく馬車もある。大人気だから審査が厳しいのかね。

 審査基準は何だろう。主催者の味方か否か…かな。


「大人気ですね。皆さんグランプリを優勝した人に会いに来たんですか?」

「そうね、そう言わないと入れないわよ。でも、本当はみんなヘンリエッテ王女に会いに来たのよ」


「仲良くなれば利権が得られますからねー」

「大半がそうでしょうね。私は違う人に会いに来たんだけれど…一目会えたからもう帰ろうかしら。ね、白雲さん」


「ん? 私に会いに来たんですか?」

「そうよ。私はアース王国に親友が居て、色々聞いていたの。それでアース城内を引っ掻き回した白鎧さんを近くで見たかったのよ」


 私は知る人ぞ知る有名人という訳か。それなら天使だという事に気付いているのかね?

 引っ掻き回した訳じゃなくて、国王と宰相を苦労させようとしているだけだし。

 因みに私のファンらしい…もうそれだけでこの人の好感度が上がっているぞ。


「今度はそこの城を引っ掻き回しますが、観ていきます?」

「是非っと言いたいけれど、私の立場で入れるか解らないのよ」


「じゃあ私達が乗れば入れますよ。改めて私は白雲と申します」

「ふふっ、ありがとう。私はランネイ・アズリード、これでもアクアシティの市長をしているのよ。乗って」


「アズリード…あっ…ミーレイちゃんの親戚ですか?」

「えぇ…ミーレイを知っているの?」


「はい、お友達なんですよ。みんな乗るよー」


 みんなも立ちっぱなしに疲れていた様子だから丁度良かった。

 アクアシティの市長さんかぁ、会ってみたかったんだよ。女性のリーダーって尊敬するし、話すだけでも色々勉強になる。

 馬車の中は広くてランネイさんともう一人…秘書さんも乗っていた。


「お邪魔しまーす」

「ゆっくりして良いわよ。少しの間よろしくね」


「ありがとうございます。ヘンリエッテ・アース・ユスティネと申します」

「あらっ、まさかとは思ったけれど王女殿下でしたか。じゃあそちらの方は勇者様ですか?」


「はい、ミズキと申します」

「有名人と同じ空間なんて嬉しい限りです。殿下、グランプリとても素晴らしかったですよ」


「いえ…白雲のせいで結果は最下位でしたから。それに敬語も不要です…下っ端なので」

「ふふっ、それでは遠慮なく。神器が無くても優勝だと思ったわ。…下っ端って?」


「今パンケーキのお店パンパンに滞在しているのですが…配膳や調理が出来ないと下っ端扱いなんです」


 ミズキは息抜きにパンパンで働いているから、配膳と調理は出来る。フリシアちゃんは流石は常連…メニューとオーダー表の書き方を全部暗記しているから配膳は出来る。

 だからヘンリエッテはこの中で一番下っ端なのだ。


「ふふっ、ヒルデガルドさんは変り者だからね。そうそう、ミーレイとお友達って…ミーレイはみんなともお友達なの?」

「そうですね、パンパンのみんなと仲良しですよ。あと…ゴン・ジーラスさんと色々やっているみたいなので…その内会社を立ち上げると思います」


「……ミーレイったら…恐ろしい程のコネクションを手に入れたのね」


 フリシアちゃんが自己紹介のタイミングを逃してあわあわしているのが可愛いな…

 話に参加させてあげようかな。


「フリシアちゃん、ミーレイちゃんが可愛い服や下着の量産をするのに、同世代の女性で腕の良い魔導具職人を探しているみたいだよ」

「えっ、いや、私はまだ見習いですし…」


「あっ、あの鳥の魔導具良かったわよ。あれだけの腕があるなら出来そうよね…やるなら出資するわよ」


 おっ、ランネイさんもノリノリだね。

 流石は商人の家系…決断が早いね。私とリアちゃんが出資しているから、ランネイさんも加われば知名度も上がるし…将来安泰だな。


「でも…私、最高の魔導具を作る夢があって…勉強を優先したいんです」

「どんな魔導具?」


「…笑わないで下さいね。あの…超文明の遺産、転移ゲートです。国立工房が転移ゲート研究の第一線なので…」

「笑わないよ、立派な夢だと思う。でも丁度良いよね」


「丁度良い?」

「ミーレイちゃんはパンパンで経営や接客などの勉強をしているんだ。転移ゲートってリアちゃんがメンテナンスしているから、ミーレイちゃんと一緒にパンパンで学んだ方が…」


「本当ですか!!」


 うおっ、びっくりした。

 おー…顔が近い。兜が無かったらチュー出来るのに…

 超文明の遺産…超文明って何さ。適当な歴史が捏造されている…初代皇帝がルビアから持ち込んだだけでしょ。


「うん、でも生活がパンパン中心になるから国立工房を辞めないといけないけれど…」

「辞めます! 今すぐ辞めます!」


「いやいや、保護者の方の了解もあるし…リアちゃんに何も言っていないから直ぐは辞めない方が良いよ」

「説得します! お願いします!」


 フリシアちゃんに火が着いてしもうた。ランネイさんは微笑ましく眺めて…落ち着いた女性は憧れるね。

 …んー、フリシアちゃんが転移ゲートをメンテナンス出来るようになれば…ふむふむ。


「でも良いの? 転移ゲートの関係は極秘事項なのに言っちゃって」

「良いんですよ。メンテナンス契約は今日で無くなるかもしれませんから」


「あら、そうなの? それは困るわね」

「数年は大丈夫ですが、それからコストが数十倍になります。でも…数年後に転移ゲートをメンテナンス出来る人が新しく現れたらどうします?」


「両手を上げて歓迎…まさか…」

「はい、良い計画が浮上しました。ランネイさん、今度ご飯行きましょう」


「是非! 楽しそうねっ!」


 わーい、フリシアちゃんには頑張って貰おう。

 ミーレイちゃんも交えてのお食事会の予定を練っていると、お城の検問に到着したみたい。

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