いざパーリーへ

 

 衛兵さんが横窓の近くで敬礼してきたので、秘書さんが窓を開けた。


「申し訳ありませんが…今回は人数が多く、子爵家以上の方に限らせて戴いております」

「あら、それは残念ね。じゃあヘンリエッテ王女、私の家で食事会でも開きましょうか」


「そうですね。帝国に門前払いを受けたのであれば、帝都に用事はありません」

「えっ…ヘンリエッテ王女…もっ、申し訳ありません! お通り下さい!」


「私は貴族じゃないけれど良いのかしら?」

「はっ、はい! ヘンリエッテ王女殿下を送って戴いたので構いません!」


「ふふっ、ありがとう」


 おー、やっと到着した。

 さて、どうするか…その前に、このパーリーは何をするのか何が目的なのか知らないな。


「ミズキさん、教えて下さい」

「何を? あぁ…貴族の嫁探しが主じゃない? 立食スタイルで双方気に入ればダンス的なあれだよ」


「ふーん、だからナンパを避ける為に同伴者が必要なんですね。じゃあ男装中のミズキさんの呼び方を変えましょうか……ミノル」

「それお父さんの名前だから本当に嫌」


「じゃあミーたん」

「……まだそっちの方が良いよ」


 ミーたんっ。おっ、恥ずかしがっている…フリシアちゃん、言って言って。


「み、みーたん」

「うっ…恥ずかしっ…無理かもっ」


「私も言いたいっ。ミーたんっ」

「姫、どうしました?」


「なんでっ! 恥ずかしがってよっ!」


 よし、ミズキよくやった。

 ランネイさんと秘書さんは普通に笑っている。大分打ち解けたな。

 正門を抜け、城の入り口で停車。秘書さんが駐車場で書類を書くので降りてから少し待つらしい。

 ミーたんはちゃんと先に降りてヘンリエッテをエスコートしていた…ヘンリエッテの口元がニヤニヤし過ぎてキモいな。

 私もやってもらおう。

 おっ、早速高官らしき人がやって来て、一番下っ端のヘンリエッテに敬礼してきた。


「ヘンリエッテ王女殿下、ようこそいらっしゃいました。それでは案内させて戴きます」

「お気遣いなく、場所は解っているわ」


「王女殿下を案内出来ないとは帝国の名折れです。会場までの道のりだけでもよろしくお願い致します」

「大丈夫、アース王国の評価はこれ以上下がらないから案内は結構よ」


「……その件についても、正式に皇帝陛下が会談をしたいと」

「会談をしても過去は変えられないわ。これ以上引かないのなら帰ろうかなー」


「しっ、失礼致しました…会食の場は設けてありますのでどうぞ…」


 おー、良いね良いね。ヘンリエッテも中々に悪い女だ。

 アース王国の帝国への評価は最底辺と言ったも同然…これなら半分くらいはヘンリエッテに任せても良いか。


「…どう? こんな感じ?」

「うん、上出来上出来。後でご褒美をあげよう」


「へへっ、頑張るねっ。どんなご褒美?」

「悪い女になればなるほど貰える景品が増えていく。今のは初回ボーナスでそのドレスを景品にしよう」


「うおっ! ほんとぉっ! やったぁー!」


 喜び方が女子女子してあざといあざとい。

 頑張れヘンリエッテ、私を満足させたらスゲーネックレス以外はあげよう。スゲーネックレスはレンタル品だからね。


「ねぇレティ…間違えた白雲、私も頑張ったら何かくれる?」

「良いですよ。ミーたんが頑張ったら…これをあげましょう」


 収納から、聖剣ラストレクイエムを取り出す。淡く光る刀身は、不浄なる者を浄化する効果がある。光属性に大きな適性が無いと、この聖剣を持つ事は出来ない…らしい。


「……それ、何?」

「聖剣ラストレクイエムです。持てばたちまち勇者っぽくなれます」


「……頑張る」


 頑張れ頑張れ。

 ランネイさんが引いているけれど気にしないようにしよう。景品は豪華じゃないとやる気出ないからね。


「ランネイさんには…こんなのどうでしょう」

「わぁ、素敵な絵画ねぇ。誰の作品?」


「迷宮の宝箱に入っていたので解らないんですよね」

「…駄目よ、迷宮絵画は高級品よ…あっレジ、これ鑑定してみて」

「お待たせしましたっ…ん? はい」


 秘書のレジさんが変わった魔導具で、怪しい絵画を視て唸っている。


「鑑定魔導具って奴ですか?」

「ええ、魔物にランクがあるように、物にもあるのよ」


「ランクA+…価値は恐らく八千万ゴルドですね」

「へぇーそうなんですね。じゃあそれを景品にしましょう」


「……本当に良いのね? で、私は何をすれば良いの?」

「私が楽しくなれば景品授与です」


「ふふっ、了解」


 ノリノリだねー。ミーレイママのトゥーナさんは商売第一で少し苦手だけれど、ランネイさんはサービス精神旺盛だから仲良くなれそう。


 ではでは会場へ行きますか……おや? 検問で揉めているぞ。私達の後に並んだ馬車だな…まぁ、おっさんだし無視で良いか。


「あの騒いでいるおっさんは誰ですか?」

「商業都市ライネの市長よ。私が入れて自分が入れないのが納得いかないのね」


「ふーん、仲悪いんですか?」

「悪いわよ。女を下に見る男だから、私が上の位置に居ると騒ぐのよね」


「まぁそういう人は一定数居ますからね。何かあれば嫌がらせのプロにお任せあれ」

「頼もしいわねぇ。色々と白雲ちゃんに相談しようかしら」


 ネタが沢山ありそう…大好物だからどんどん宜しく。

 城の一階にある通路を進むと、大ホールがありそこが会場。

 大きな扉は開かれていて、通路から綺羅びやかなホールが見える。


「割りと男性多めですね。これはフリシアちゃんを守らないと」

「あっ、ありがとうございます。こういうの初めてで…緊張してきました…」


「私が付いているからね。とりあえず、ミーたんとヘンリエッテはしばらく別行動で様子を見よう。いけそうならいってよろしよ」

「「了解っ」」


 おー、なんか作戦遂行するみたい。

 作戦なんて無いけれどね。

 私とフリシアちゃんが先に行き、ヘンリエッテとミズキ、ランネイさん達は少し待って後から来るようにしよう。


 よし、フリシアちゃん行くぞー。


 大ホールの入り口には執事服の男性が立ち、私とフリシアちゃんを見て右手側に行くように手を向けた。

 グランプリ出場者のエリアかな? まぁ行ってみるか。


 中に入ると、明るく綺麗なひろーいホール。天井には沢山のシャンデリアが輝き、床は毛並みの良い絨毯。腰の高さのテーブルが点在し、立って軽食を食べながら会話出来るようになっている。


「凄いねー。お金掛かっていそう」

「わぁ…圧倒されます…」


 貴族らしき人達の見定めるような視線がバシバシと飛び交い、執事さんの示す所へ到着。

 なるほど、ここにはグランプリ出場者とその関係者が多めだな。

 名前を忘れた公爵家のなんとかさんや、なんとかさん、なんとかさんも居る。

 少し様子を見よう。


「メイサヤ様、帝国舞踊素敵でしたっ!」「ふふっ、ありがとう。貴女の魔法も良かったわ」「ぐふふ…ひめさまぁ…」「アレスティア王女はまだかしら」「早くお話したいわ」


 ……ん? なんかムルムーの声がしたような気がする…気のせいかな?


「し、白雲さん…どうかしましたか?」

「ん? いや、なんか知り合いが居た気がしてね」


「あら、あの子って平民よね?」「決勝に出ていたわね。作業着で」「隣の白鎧は誰かしらね」「あっこれ地元のアレまんだ」「彼氏? そんな訳無さそうよね」「聞いて来ようかな」


 ……なんだ…幻聴か? やっぱりムルムーの声がしたような気がするけれど、ムルムーの姿は無い。くそっ、アレまんってなんだ…気になるぞ。

 おっ、年上の貴族女子が目の前に立ってじろじろ見てきた。いや、それよりもアレまんが気になる。


「ねぇあなた、今回はドレスなのね。てっきり作業着かと思ったわ」

「…はい」


「何よそのドレス、もっと流行りを勉強なさいよ」

「これは…」


「何? 言いたい事があるならハッキリと言いなさい」

「…いえ…あの…」


「ふふん、同伴も何も言えないのね。その鎧は飾りかしら?」

「……ん? あぁ失礼、考え事をしていました。フリシアちゃんどうしたの?」

「あの…ドレスが…」


 すまぬ、アレまんが気になって話を聞いていなかったよ。

 …なんか注目されているな。

 あっ、そうか。ドレスの説明をして欲しいんだな。


「フリシアちゃんのドレスの説明ですね。これは幻の職人ゴン・ジーラスさんの最新作…青と黒が綺麗な黒アゲハをモチーフにしたデザインで、青の部分にはブルーサファイアの粉末を使用しています。そしてなんとこのまま仕事をしても汚れが付かない魔法服にもなっているんですよ。市場価格はなんとっ、二億ゴルド! ……あれ? 違いました?」


 なんかしーんとしちゃった。

 目の前の女子は顔を真っ赤にして睨んでいるし、周りの女子はフリシアちゃんのドレスに釘付け。


「ふ、ふんっ…まぁまぁね」

「まぁまぁですか? これは元々(徹夜明けの)ヘルトルーデ皇女をイメージして作ったドレスで、ヘルトルーデ皇女はこれの赤いバージョンのドレスを持っていますが…まぁまぁですか?」


「そ、それは…な、なんでそんなドレス着ているのよっ」

「なんでって、フリシアちゃんが可愛いから着せてみたかったんですよ。似合いますよね?」


「……くっ…似合う…わよっ!」


 あっ、逃げられた。結局誰か解らなかったし。

 うーん…みんな警戒して話し掛けてこなくなったな。

 まぁ楽だから良いけれど。

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