美少女グランプリ…兵隊さん頑張れー

 

『姫さま最高!』『姫さま可愛い!』


 …兵隊さんの演奏会が終わりを迎えそうだ。

 自分で出した魔法で自分を褒めるとか痛い奴だけれど、観客は口を開けて茫然としているから、そこまで気が回っていないと思う。


 ん? 兵隊さんが向きを変えてグランプリ参加者の方へ向かっていく。アレスティアさんを攻撃するのか?


『フリシア様!』『フリシア様!』

「えっ…私?」


 おっ、兵隊さんがフリシアちゃんの方へ向かって敬礼している。ヘンリエッテはもう魔力操作を放棄して、終わるまでボーッと兵隊さんを眺めていた。

 こらっ、気を抜くでないっ。


『姫さまが可愛いって言っていました!』『フリシア様が一番輝いていたって言っていました!』


「えっ、あっ、ありがとう…ございます…」


 おー、兵隊さんやるねぇ。フリシアちゃんを少し笑顔にさせたぞ。


『お友達になりたいって言っていました!』『一緒にパーリー回りたいって言っていました!』


「そっ、そんな…私なんか…」


 ん? ちょっと待て…もしかして…


『ヘンリエッテ、お前気を抜くなよ』

「えっ…何この崖から突き落とされた気分は…」


 おー…私の意志を言ってくれている。今スゲーネックレス改の所有権は私だからか。

 …もしかして…姫さまって私か?


 よーし、兵隊さん達!

 動け動けっ!

 よしっ、こっちに手を振ってっ!


『『『女神さまぁー!』』』

「あ? なんじゃ?」


『『『世界一! 可愛いよー!』』』


「…もぅっ、ヘンリエッテ…何を言わすのじゃ。わっちが可愛いに決まっておるじゃろっ。照れるのうっ!」


 幼女の声が響いて、観客が恐る恐る見ると両手に手を当てて喜んでいる幼女の姿。もう観客達は訳わかめ状態だな。


 よーし解散!

 兵隊さんが城に入っていき、城ごとスーッと消えていった。

 ふっ、良い仕事したぜ。


「あっはい、みなさまにアース城を紹介出来ただけでもこの場に立つ意味があったと思います。ありがとうございました」


 ……まだしーんとしているな。

 仕方ない…手甲を脱いで拍手でもしよう。

 パチパチパチパチー。


 おっ、釣られて観客も拍手し始めた。口はまだ開いているけれど…

 次第に拍手は大きくなり、観客総立ちで拍手喝采が始まった。

 ――ワァァァァ!!


『――っ! ――っ!』


 もう司会の人の声は聞こえないくらいの音が響き渡り、幼女が耳を抑えながら眉間にしわを寄せて不機嫌だ。

 それにしても凄いな。

 ヘンリエッテが手を振ると更に観客は熱狂しているし。

 よしよし、これでアレスティアさんが優勝したら大ブーイング間違い無しだね。

 ふっふっふっ、審査員は事態に気付いて顔面蒼白だよ。


『――さん! 皆さん落ち付いて下さいっ!』

「落ち着いていられるかぁ!」「そうよっ! こんなに感動したの初めて!」「ヘンリエッテさまぁー!」「うるさいの。イッたん黙らせて」「アラステアちゃんがやりなさいよ」「王女さまぁー!」


 もう司会にヤジが飛んでいるよ。

 ヘンリエッテ、なんとかして。

 おっ、ヘンリエッテが人差し指を立ててしーってやると歓声が治まった。あざといな。


「みなさん、まだ終わっていませんからね。審査員の方は、私に何か質問ありますか?」


「「「……」」」


 少しの沈黙の後…偉そうなおばさんが深呼吸をしながら手を上げた。


「はいどうぞ、メズールさん」

「…はい、素晴らしいものを見させて貰いました。そのドレスは…幻の…」


「はい、ゴン・ジーラス様に作って戴きました。本当に…わたくしには勿体無い出来映えで感無量です」

「…近くで見させて戴いても?」


「どうぞ」


 おばさんがヘンリエッテに近付き、いや他の装備に圧倒されて近付けないな。

 それでもおばさんの目から涙が流れていた。


「ありがとうございます…一生の思い出になりました。そのダイヤモンドの靴も惚れ惚れします」

「この靴は…ヒルデガルド・ルイヴィヒ様に感謝を。このダイヤモンドの花とイヤリングは宝石師イツハ様に作って戴きました」


「世界は広いですね…自分がいかに無知であるか実感させられます。宝石師イツハ様にお会いする事は出来ますか?」

「それは、帝国次第…と言うべきでしょうか」


「……肝に命じておきます」


 ふーん。あの偉そうなおばさんは公平な判断をしそうだな。

 ゴン店長のファンなんだろう。


 もう一人偉そうなおじさんが手を上げた。


「そのネックレスは…どのような神器なのですか?」

「これは、正直私ごときには解りません。女神アラステア様の天使様から貸して戴きましたので…」


 ヘンリエッテが私に死んだ魚のような目を向けてきた。

 良いねその目…結構そそるよ。


「……あの…女神様は…あちらに…座っている方…ですか?」

「はい、そうですが…この場を借りてお話したい事があります。司会さん、よろしいでしょうか?」


『はいっ、どうぞっ』


「今…この世界に脅威が迫っています。その脅威から世界を守る為に、女神アラステア様は女神の力を大量に使い子供の姿になってしまいました」

『なっ、なんですって…』


 おー、ざわざわしているなー。

 おい幼女、ピースするな。

 折角だから私もピースしよう。いえーい。


「ですが安心して下さい。違う世界から来た深魔貴族と呼ばれる存在…その深魔貴族を倒す為に、勇者ミズキと天使様が討伐に出向きます」

『本当に…大丈夫なのでしょうか?』


「もちろん大丈夫です。わたくしの目的は、世界を救う英雄を皆さんに知ってもらいたい事です。ミズキ…信じているからねっ!」


 ミズキが立ち上がり、おでこで敬礼…あっ、それ私のっ。

 ヘンリエッテが観客に一礼し、舞台の端へ向かう。そしてフリシアちゃんの隣に立って話し掛けている…えー良いなぁ、私も話したーい。


『…えーと…ありがとうございました。また世界の脅威に付いては、皆様に詳しく報告したいと思います。それでは審査に入りますので…しばし、お待ち下さい』


 司会さんが上手くこの場を流し、審査へと向かわせた。

 どうなるんだろうね。

 観客はヘンリエッテの話題しかしていないし…アレスティアさんはもう忘れ去られているぞ。


「ねぇレティ、姫可愛いかったねっ」

「まぁ及第点ですね。それよりもヘンリエッテがフリシアちゃんと仲良くしているのが嫉妬です」


「どうせ後で話すんでしょ?」

「そうですが兵隊さんは私の事を言っていましたからね。お友達になりたいのは私なんですよ?」


「あぁ…やっぱりあの兵隊はレティの仕業か…」


 審査員は防音エリアで話し合い。

 ……結構難航しているな。

 あっ、誰か審査員の輪に入っていった。

 あれは…第一皇女の侍女さんだ。懐かしいな。


「リアちゃん、あの人が私を帝国から追い出した人ですよ」

「もう調査済みよ。第一皇女派を動かしているのは彼女ね」


「第一皇女の計画を完璧にこなそうとしていますが、こればかりは計画変更しないといけませんよね」

「ヘンリエッテちゃんが優勝すると一番都合が悪いからね。アース王国の王女は政治利用が全く出来ないし」


「それだとアレスティアさんはどうなるんです?」

「きっと直ぐに第二皇子と婚約して、花嫁修業で帝国に滞在する名目だから政治利用可能なのよ。美少女グランプリを優勝しなくても出来るのにね。完璧主義だこと」


 偉そうなおばさんが凄い反論している。

 おばさん頑張れー。

 権力に負けるなー。


 観客も優勝がヘンリエッテだと解りきっているから退屈そうだな。

 ありゃっ、おばさんが怒って帰った。交渉決裂か…


「あー、レティ…これってもしかして…」

「もしかしてですね。プランAで行きましょう」


 ヘンリエッテにプランAの合図。

 プランAは…アレスティアさんが優勝するから帰ろうぜー。


「リアちゃん、プランAです」

「りょーかい。ふふふっ、楽しみねっ」


「ぷらんえーってなんじゃ?」

「帰っておやつの時間という意味です」


 という事で私達は席を立ち、そのまま控え室の方向へ。

 ヘンリエッテもフリシアちゃんの手を取って素早く舞台裏へ。

 観客達がざわつく中…控え室でヘンリエッテと困惑するフリシアちゃんに合流したので、リアちゃんの転移でパンパンへと帰った。


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