美少女グランプリ…おいヘンリエッテ、目が死んでいるぞっ

 

 部屋に備え付けられた映像魔導具で、グランプリの様子を眺める。

 決勝は六名。

 鉢合わせないように順番に呼ばれていく仕様だ。


『それでは最初の美少女の登場です!』


「おっ、始まったねー」

「あれ? なんか年齢高くないですか?」


「今年は二部門で初等部以下と中等部以上ですよ」


 へぇーそうなんだ。

 今映っている人は十八歳くらいに見える。


『わたくしは帝国公爵家メイサヤ・ニードルと申します。わたくしの特技は帝国舞踊です』


 一番目に相応しいね。

 伝統的な帝国舞踊で美少女グランプリの雰囲気を作り上げる…しっかりと格式ある服装で帝国美人そのものだ。


「ヘンリエッテは何番?」

「最後よ。恐らく最後というプレッシャーを掛ける気ね」


 おっ、終わった。

 凄い拍手だなぁ。


『これにて、わたくしの特技を終わります』


『はいありがとうございました! 審査員に話を伺いましょう。メズールさん』

『ええ、伝統的な帝国舞踊は素晴らしいの一言ね。そのドレスは王立工房かしら?』


『はい、帝国工房に依頼して特別に用意して貰いました』

『帝国工房に個別依頼出来るなんて流石ねぇ』


 ほうほう。審査員と会話するのか…そこでコネクションやらを公開するのね。

 帝国工房の話なんて一般人にはよく解らんけれど、揚げ足を取られるような服装だと減点なのかね。


『ありがとうございました。続きましてこちらの方です!』


「これ審査員が解るコネクションじゃないと減点ですかね?」

「見るからに凄ければ良いと思うよ。一応コネクションを詳しく姫に教えてあげなよ」


「そうですね。審査員には…ドレスはゴン・ジーラス作『表と裏』。靴はヒルデガルド・ルイヴィヒさんに貰った『ダイヤモンドの華』。ストールは女神アラステア様から貰った『女神の布きれ』。イヤリングはアラステア様の友達の神宝石師イツハ様作の『煌めきの涙』。ネックレスは天使様から貰った『神器スーゲイ』とでも言っておいて」


「突っ込み所しか無い説明をありがとう。別の意味で行きたくないわ」


 嬉しいだろう嬉しいだろう。

 あっ、二番目の人は終わっちゃったな。帝国侯爵家の女子…なんか魔法で色々やっていた。


『ありがとうございました! さて次は…なんとっ、この方が生きていたのですっ!』


 おっ、アレスティアさんの出番かな。

 真ん中の順番とはズルいねぇ。

 アレスティアさんが出てきて、会場がざわざわしている。

 誰だ誰だという声や、アレスティアという声も聞こえてきた。


『みなさん、わたくしはアレスティア・フーツー・ミリスタン…皆様にお会いする為に…死の淵から舞い戻って参りました!』


『『『おぉぉぉおお!』』』

『『『キャーー!』』』


 おー、歓声が凄いなぁ。

 私大人気だなー。

 今まで生きていた経緯は省くのかね? 盛り上がっているから良いか。


「おぉ、アレスティアに似ているねっ」

「あぁ…実際は顔のタイプが違い過ぎて似ていなかったから、私が整形メイクをしたんだよ。私凄くね?」


「いや、何してんの? 敵だよ? 敵を手助けしてどうするのさ」

「だってさ…ヘンリエッテの足元くらいにさせてあげないと可哀想じゃん」


「アレスティア…そんなに褒めても駄目だぞっ」

「あざといから減点」


『それでは、わたくしの特技をご覧下さい!』


 何するんだろうなぁー。

 おっ、光魔法だ。光のお城が現れ、キラキラした花火が上がり城に虹が掛かる。

 おー凄いね。全属性に適性が無いと出来ないぞ。


『おぉ…美しい…』『流石はアレスティア王女…』


 凄いじゃん。自信があるのも頷けるねー。


「なんか去年ヘンリエッテがやっていた奴に似ているね」

「お城を造形するのは難易度が高いから高得点らしいよ」


『皆様との懸け橋をわたくしが作って参りますっ! ありがとうございました!』

『『『――ワァァァァ!』』』


『素晴らしいものを見せて頂きありがとうございました! それでは審査員に話を聞きましょう、ゴーメンさん!』

『はい、素晴らしいものを見せて貰いました。それに秘宝ムージェラのドレスではないですかっ、この目に焼き付けたいと思います!』


『私も良いかしら? その靴もエルメシアとの友好の証フィーンの靴…アクセサリーに至っては国立工房秘蔵の一品…アレスティア王女が着けるに相応しいわね』


 おー、その距離でどこの品物か解るのかー。審査員凄いなー。

 やぁー、全員グルなんだろうなー。


 発表が終わった参加者は舞台の端に居るんだけれど、流石というか存在感が凄いね。


『それでは次の方です! どうぞ!』


「ヘンリエッテ、出来レース感が凄いね」

「まぁ…そうね…差別が凄いものね…」


 次の女子はなんと一般帝国民…審査員があまり興味無さそう。


『よっ、よろしくお願いします! 国立工房見習いフリシア・エムです! 特技は魔導具作りです!』


 ……なんかこの子…凄い可愛いな。

 同じくらいの歳で金髪ポニーテールに八重歯が良い…

 作業着だし…完全に浮いているけれど。

 何故決勝まで来たのか謎だ…国立工房だからか?


「ヘンリエッテ、この子可愛い」

「言うと思ったよ」


「アスきゅんっ! この子可愛い!」

「あっ、リアちゃんいらっしゃい。私と趣味が同じですね」


 リアちゃんが幼女を抱っこして転移して来た。

 幼女はダランと寝ている…どうしても伝えたかったんだね。解るよその気持ち。


 おっ、フリシアちゃんが鳥型の魔導具を飛ばした。

 パタパタと羽ばたいて飛んでいる…飛ぶ魔導具を作れるなんて凄いな…


『おぉー凄い…』『魔導具であんな事が出来るのね』


 観客も感心して…その歳でここまで出来るのか。…なるほど、帝国の技術力を見せ付けたのかな。


『私の夢は、最高の魔導具を作る事です! ありがとうございました!』

『はい、ありがとうございました。それでは審査員のリーラさん』


『はい、えーと…どうして作業着なの?』

『はいっ、私は魔導具を作っている時が一番楽しいからです!』


『うん、でもここは美少女グランプリよ。可愛い服で来ないと』

『この服が一番好きなんです…駄目でしょうか…』


 なんかドレス至上主義の人に質問攻めにあっているな…

 誰もフォローしないし…フリシアちゃんが泣きそうだ。


「ヘンリエッテ、後でフォローしてあげて」

「うん、解った。あれは無いよ」


「ところでリアちゃん、この汚職グランプリをどう思いますか?」

「うーん、もう私の手を離れているから帝国の勝手なんだけど、酷いようなら考えるかな」


「例えば?」

「帝国との契約更新をしないとか」


「契約って?」

「転移ゲートのメンテナンス契約。あれ旧式だからメンテナンスしないと消費が数十倍になるのよ」


 うわ…地味に経済制裁じゃん。

 Aランク魔石で一ヶ月保つらしいけれど、メンテナンスを怠ると一日しか保たなくなるらしい。

 これはかなり痛い…リアちゃんの中で美少女を虐めるのは重罪らしい。


 ん? 扉をノックする音。ブリッタさんが対応すると、係員の人が入ってきた。


「失礼します。そろそろ出番……」

 あっ、ヘンリエッテを見て硬直しちゃった。

 幼女の布切れで神気垂れ流しのヘンリエッテに圧倒されている。


「ミズキさん、私達はここで待機ですかね?」

「関係者席で観覧出来るよ。あのー、大丈夫ですか?」


「はっ…あっ、あの、先ずはこちらに、記載をっ」

「何これ? あぁ、ドレスは誰の作品とか書く紙ですか。レティ、書いて」


 ほいほーい。

 正直に書いていこう。

 カキカキ…よし、これで良いか。書き換えや消されないようにエナジーセーブっと。


「あっ、ありがとうございま……えっ…」

「嘘偽りは無いですよ。女神アラステア様の承認印でも押しましょうかね。アテアちゃん、判子貸して下さい」


「んぁ? ほれっ」


 はーい、ポンッとな。

 エナジーセーブっと。


「えっ…これは…女神…さまの…」


 この判子は見たら女神の承認だと強く認識してしまう効果がある。だから信じざるを得ない。

 悪用したら新しい宗教でも作れそうだな…やらないけれど。


「という事で行きましょう。ヘンリエッテ、頑張れー」

「うん、見ててね」


 ヘンリエッテは待機場所へ行き、私達は関係者席へ。

 場所は前の方…会場は熱気が凄いね。


『はいありがとうございました! では次の方!』


 前の人が発表中に席に座る。リアちゃんと幼女も座った…審査員がチラチラ見ているな。

 近くの女子がミズキに手を振っている…朝居た女子かな。


「リアちゃん、私達のせいで発表の邪魔になりましたね」

「まぁ仕方ないわ、見るからに怪しい団体だからね」


 幼女を抱っこするヒルデガルドさんと、全身白鎧の怪しい奴、女子達に手を振る勇者ミズキ…


『それでは最後の方の登場です! どうぞ!』


 ヘンリエッテが登場した瞬間…会場に静寂が訪れた。

 おーすげー、息を呑むとはこの事か。

 装備品がキラキラしてスポットライトいらずだよ。


『みなさんごきげんよう。ヘンリエッテ・アース・ユスティネと申します。みなさんには、私の国のシンボル…アース城を紹介しようと思います』


 ヘンリエッテが魔力を練り上げ、大きな氷の城を形成。

 おー…完全再現アース城だ。

 城の中から小さな兵隊さんがゾロゾロ現れ…あれ? ヘンリエッテってあんな事出来たっけ?


 あっ、ヘンリエッテの顔が引きつっている……もしかしてスゲーネックレス改の効果か?


『姫さま万歳!』『姫さま万歳!』『姫さま万歳!』『姫さま可愛い!』『姫さま世界一!』


 うわ…喋った…ヘンリエッテが泣きそうだ。

 兵隊さん達はそれぞれ楽器を取り出し…鳴らしながら舞台を練り歩く。やりすぎでしょ…お城の窓からも兵隊さんが顔を出してラッパを吹いているし…

 暴走した兵隊さんの演奏会…ヘンリエッテの目からハイライトが消えていった…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る