美少女グランプリまでだらだら過ごそう

 

 エーリンはお風呂に入った後に直ぐ寝てしまった。

 ヘルちゃんクーちゃんとの旅行も終わり、今まで放置していた王女さんことヘンリエッテと帝国に行く予定だけれど、わざわざ街を経由して行くなんて無理だから転移ゲートで行く予定。


 という事を説明しにアース城へ来た。

 ……ミズキは居ない。

 予定表を見ると、今日は騎士団で剣術指南か。


 暇だからヘンリエッテの所へ行こう。

 ここは中層だから、エレベーターで上層へ向かう。

 ……ちーん。

 今の私はメイド服を来た女子モードだから、すれ違う人にチラチラ見られる。お邪魔してまーす。


 ヘンリエッテの部屋は夜の徘徊で把握済みなので、迷わず部屋の前に到着した。


 ……こんこん。

「…どなた?」

「私」


 …おっ、私で扉が開いた。私私詐欺だったらどうするのかね?

 ブリッタさんこんにちは。今日も青い髪が綺麗ですね。抱き締めて良いですか?


「あっ…」

「ブリッタさん、仕事が終わったらデートしましょう」

「喜んでっ!」


「アレスティア…」

「じゃあミズキさんの部屋で待っていますね」

「はいっ!」


「では失礼しました」

「ちょっと待てぇえい!」


 なんだよ。

 用事は済んだぞ。

 ブリッタさんに日程を伝えた方が確実でしょ。


「あっ、ヘンリエッテおはよう。じゃっ」

「だから待ってよぉお!」


「何? ブリッタさんに会いに来たんだよ」

「ここでお話しようよぉぉお!」


「心を込めて私の事を好きって言ったら良いよ」

「ぇっ…ぁっ…ゃっ…急にそんな事…」


「じゃあねー」

「大好きだよぉぉお!」


「えっ、好きって叫んで恥ずかしくないの?」

「言わせたんだろぉおがぁ!」


 おー…いつものヘンリエッテだ。

 やっぱり闇落ちしているくらいが丁度良いな。


 叫んではぁはぁ言いながら近寄って来たから手の平を向けて待てのポーズ。

 手の平を向けながら回り込んで、ベッドにポフッと座った。


「ヘンリエッテ、おいでっ」

「ふぁぃっ!」


 太ももをポンポン叩くと、嬉しそうに私の太ももを枕にしてお腹に抱き付いてきた。

 よーしよし、待てが出来ましたねー。偉いねーよーしよし。


「ヘンリエッテ、今どんな気持ち?」

「ぅ…嬉しい気持ち…」


「嬉しいだけ?」

「えっ、いや…」


「ヘンリエッテが私を一人占めしているんだよ?」

「あっ…幸せですぅー!」


 よーしよし。良い子だ良い子だー。

 頭を私のお腹にぐりぐりやって…犬みたいだな。

 尻尾があったらブンブン振っているぞ。

 よーしよーし。


「あっ、そうだアレスティア…帝都での滞在はどうするの?」

「もちろんパンパン。敵陣に乗り込む訳無いし」


「えっ、でもファイナリストはお城に滞在するから…えっと…その…」

「ミズキさんと寝れば良いじゃん」


 別にミズキが居るから大した危険は無いでしょ。

 城に泊まるとかどんな罠が待ち受けているか解らない。入った瞬間に第二皇子と婚約の義とか有り得るじゃん。

 丁度美少女グランプリで帝都内放送をしている時だから、婚約を生放送なんてされたら私は帝国を潰すよ。


「じゃ、じゃあ私もパンパンに泊まろう…かなー」

「あーそれなら良いよ」


「ほんと!? やったぁ!」

「部屋空いていないからムルムーの部屋になるけれど良い?」


「えっ、アレスティアのお部屋が良いっ!」

「お友達来るから駄目だよ」


 美少女グランプリの期間中はフラムちゃん、ミーレイちゃん、チロルちゃんが来るからね。あっ、あと多分シエラも。ヘンリエッテが来たら混沌とするから嫌だよ。


「私もアレスティアのお友達とお友達になるわっ!」

「ヘンリエッテだけ王族なんだよねー。気使わせるの嫌なんだよ」


「アレスティアだって王族じゃないっ!」

「アレスティア王女は死んだの。私は平民のアレスティア」


 ただでさえ私の正体が解っているのにヘンリエッテまで居たら……あっ、しまった。

 ミーレイちゃんに言っていないぞ。

 ヘルちゃんの師匠の件で恐らく気付いていると思う。

 その後は会っていないから…拗ねていたらどうしよう。


「…アレスティア? どうしたの?」

「ん? 考え事」


「悩みがあったら相談に乗るわっ」

「いや、相談する相手は決めているから」


「誰誰っ!」

「急に声量上げないでよ。言っても解らないし」


 誰誰って聞かないでよ。そういう女子のノリは苦手なんだ。

 なんて言ったら良いかな…イケてるグループの会話は合わないんだよ。

 どうせそれも理解出来ないと思うけれど。


「私はもっとアレスティアと仲良くなりたいの」

「仲良いじゃん。ほら」


「もっとこう…小さな悩みも言い合えるような…親友…みたいな?」

「言い方があざといから減点」


「今の普通だったよっ!」

「ヘンリエッテの普通と私の普通は違うよ」


 考え方も違うからな。

 押し付けるなら無理矢理襲っちゃうぞー。

 ちゅーしちゃうぞー。


 おっ、ヘンリエッテが起き上がって私をギュッと抱き締めた。ふわりとオレンジフルーレの香りが舞う。今度はブレンドの花油にしてみるか…


「私…最近おかしいの」

「いつもおかしいけれど、どうしたの?」


「…色々悩んでいたら何も手に付かなくて」


 ふーん。

 ……ん? ちょっと待て、美少女グランプリの練習をしていないって事かい?

 前回初等部の優勝者だから、予選無しで決勝戦に行けるけれど…今年から中等部だから練習してもらないと勝てないぞ。


「ミズキさんの事は悩んでも仕方ないよ。ミズキさんの問題なんだから」

「…でも…ミズキはここに居るより幸せなのかな…って」


「さぁね。故郷に帰れないミズキさんと、故郷を失ったエーリンと、故郷から逃げ出した私じゃあ感じる所が全然違うからね。例え今が楽しくても、だよ」


 無駄な事を考えるくらいなら自分の事を考えた方が効率的だけれど、ヘンリエッテはそうもいかないんだろうな。


「結局…悩んでも私には解らないって事か…」


 そうそう。

 だからもう離れて。

 足でガッチリだいしゅきホールドを決められると対抗したくなるんだよ。


 ……立ち上がってみよう。

 おっ、そのままくっ付いている……ヘンリエッテアーマー。

 ……アレスティアはヘンリエッテを装備した。


「ブリッタさん、普通なら帝都まで何日で着くんですか?」

「魔導馬車で一週間ですね」


「魔導馬車なんてあるんですね。帝都には転移ゲートで移動するので、開催日までゆっくりして良いですよ」

「あっ、助かります。去年は帝都までの準備やら忙しくて仕事が溜まっていたんですよ」


「別に休暇でも良いですからね。何かあればヘンリエッテはアレスティアの所に居るとでも伝えておいて下さい。美少女グランプリまで適当に過ごすので…では夕方に会いましょうねっ」


 ブリッタさんに転移ゲート用の指輪を渡して、ヘンリエッテを装備したままミズキの部屋へ行き、扉をくぐって私の部屋に到着した。

 さて、夕方まで…ナニしようかなー。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る