みんながここに居る理由が解ったよ…

 

「のうアレスティア」

「なんですかアテアちゃん」


「人間が密集し過ぎて笑えるの」

「あの中に入ったら笑えませんよ」


 美少女グランプリの予選が始まっている今日この頃。

 パンパンの窓から往き交う人…というか大通りをゆっくり進む密集した人々を、幼女を抱っこしているヘルちゃんと眺めていた。


 なんか…去年の倍くらい人が来ているな。

 みんなヘンリエッテを見に来たという訳では無さそう。


「きっとアレスティア王女の噂を聞き付けて来たんじゃないかしら?」

「どんな噂? 私は忙しかったから知らないんだよね」


「アレスティア王女は生きていて、帝都に住んでいるという噂かしら。美少女グランプリに出るというデマに流された結果じゃない?」

「まぁ住んでいるは正解だよね。発生源は?」


「第一皇女派か第二皇子派じゃない? アレスティア王女が帝都に居ると言えば人が集まるし、後は適当に偽物でも作っておけば民衆は騙せるわね」


 ふーん、偽物ねぇ…

 アレスティア王女の偽物を使って私を誘き寄せるとか?

 でも、私は天使アレスティアだからアレスティア王女ではないという屁理屈を掲げているので割りとどうでも良い。


「偽物が出てきたら面白そうだね」

「もちろん抗議に行くわよ。誰よそのブスって」


 まぁそれよりも、フーツー王国が何も動かないのが気になる。

 フーツー王国から見たら…アレスティア王女のグッズや絵本が沢山売れているらしいから、死んでいてくれた方が良いかな。

 因みにグッズは、アレスティアと書かれた食器やらペンやら…私がプロデュースしたらもっと可愛い物が出来るのに。


「その偽物がすっげー可愛いかったら?」

「もしすっげー可愛いのなら、アレスティア王女という重荷を背負って頑張れば良いんじゃない?」


「エンドレスお茶会、毎日分単位のハードスケジュール、毎晩のパーリーが待っているねっ」


 人気があるという事は、それだけ誘いがあるという事。本当に逃げて良かったよ。


「天使になった噂は広まっていないわね」

「それだと教会に信仰が集まるから不都合なんでしょ。っとみんなの所に行ってくるねー」


「後でチロパン寄越しての」

「はーい」


 さっきまで裏世界に行っていたからフラムちゃん達を待たせていた。お寝坊さんですまぬね。


「あっ、アレスティアやっと起きたー!」


 あっ…ヘンリエッテが飛び出して来て私に抱き付いて来た。

 居たの忘れていたよ。

 ……アレスティアはヘンリエッテを装備した。

 ……アレスティアはヘンリエッテを外そうとした…しかしヘンリエッテは外れなかった。

 呪い装備みたいだな。

 まぁ良いか。


 私の部屋を開けるとフラムちゃん、ミーレイちゃん、チロルちゃんが仲良く映像魔導具を観ていた。シエラは私の枕をすーはーすーはーして微動だにしない。


「みんなお待たせー」

「あっ、アスティちゃんっ……それ誰?」


「無視で良いよ」

「私は親友のヘンリエッテよっ! よろしくっ!」


「……また濃いキャラのお友達が増えたね。私フラムだよ」

「…よろしくね、ヘンリエッテちゃん。ミーレイよ」

「なんか何処かで見た事ない? チロルでしゅ」

「アスティさまぁ…寂しかったですぅ」


 シエラ、自己紹介しなさい。

 とりあえずヘンリエッテを装備したままベッドの真ん中にグイグイ座った。

 …シエラ、尻に顔を付けるな。嗅ぐでない。


「ヘンリエッテちゃんは何処に住んでいるの?」

「アース王国よっ、あの、グランプリに出るから応援してねっ」

「えー、すごーい。グランプリに出るんだー! あっ、でも今予選しているよ? 大丈夫なの?」


「えぇ、去年優勝したから決勝戦だけで良いの」

「優勝したんだー。凄いね!」

「あら? でも去年優勝したのって…」


 みんなの顔が引きつった。察したな。

 ……まぁなんて言ったら良いか解らないよね。

 解る解る。


「ここに居るのは普通の女の子だから、いつも通り接してあげてね」

「…アレスティアー…ありがとう」


 よーしよーし。

 普通の女の子として接してくれる友達は居ないのかな。

 わしゃわしゃして慰めてやろう。


「あの…アスティちゃん…聞きたいんだけれど…」

「あっ、ミーレイちゃんにはタイミングが合わなくて言えて無かったんだよね。アレスティアとは私の事さっ!」


 サラッとサクッと伝えておこう。

 おっ、フラムちゃんがミーレイちゃんを逃がさないように後ろから抱き締めた。チロルちゃんはいつも通りポケーッとしている。


「……ありがとう。お友達になってくれて」

「こちらこそありがとね」


「…みんないつから知っていたの?」

「シエラちゃんが帝国を出る前で、チロルちゃんが帝国を出た後で、フラムちゃんが剣技大会の時だよ」


「……ずるい」

「ヘンリエッテあげるから許して。ほれっ、離れろ」


 ヘンリエッテを外して、ミーレイちゃんに装備させた。…うん、おっぱいに顔が埋まって苦しそうだ。


「…ミーレイ…おっぱい大きい…羨ましい」

「えっ、ちょっ、揉まないで」


 おっ、やれやれー。

 その憎っくき巨乳を揉みしだくのだー。


「そういえばフラムちゃんは警備しないの?」

「うん、お家デートって言ったら休ませてくれたよっ」


「良かったね。あれ? クーちゃんは?」

「パンパンの何処かに居るよ」


「なんかフーさんも居そう。あっ、チロルちゃん、アテアちゃんがおいでだって」

「あー…行こうかな」


 さらばチロルちゃん。堕落しておいで。


「いいなぁフラム…それ頂戴…」

「へっ、ヘンリエッテちゃん、ミーレイちゃんので我慢してよっ。あっ、そろそろ行かないとっ」


 ヘンリエッテが早速巨乳コンビを妬んでいる。ヘンリエッテは話術が高いから放っておいて良いか。

 ……おや? となれば、暇なのはシエラだけ…という事で部屋から出よう。


「あっ、アスティ様お供しますっ」

「大人しくするなら良いよ」


 部屋から出て、階段を降りるとバックヤードで店員さん達が談笑中。

 去年は特別室で観覧していたけれど、今年はパンパンで映像魔導を観て過ごすからみんな居る。

 もちろんパンパンも閉まっているから、可愛い店員さん達のパラダイスなのだっ。


「おはよーございまーす」

「あっ! アスティさんこっちですっ!」


「ん? レーナちゃんどうしたの?」

「ここに座って下さいっ!」


 なんだろう…店員さん達に囲まれて、パタパタヌギヌギされて…なんか王女時代を思い出すなぁ。


 ……とりあえず何をするか気になるから身を任せよう。


 ……シエラ、店員さんの邪魔だから離れてよ。


 ……あっ、終わったかな。


「じゃあホールへどうぞっ!」

「あっ、うんっ」


 レーナちゃん達のハイタッチに見送られ、バックヤードからホールに出ると…


「エントリーナンバー1番! アスきゅん!」

「「「きゃー!!」」」


「えっ…」


 なにこれ。

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