別に惚れられる為にやっている訳ではないよ

 

「うぅ…眠い…」

「大丈夫、チロルちゃんは講義中に寝ていても影薄いからバレないよ」


「まだブラジャー根に持ってるの? 謝ったしょ」

「私は性格悪いから根に持つよ」


 フーさんは満足して帰ったので、チロルちゃんと少し眠い目を覚ましながら朝食を食べていた。

 因みにクーちゃんは睡眠魔法で朝まで寝ていたご様子。寝過ぎたせいで寝癖のまま出勤していった。


「アスティちゃんはこれから迷宮?」

「うん、来週くらいに帰ってくるよ」


「そっかぁ、じゃあフラムちゃんとミーレイちゃんに言っておくね」

「よろしくー。あっ、アテアちゃんがチロルちゃんの事を気に入っているから顔出してあげると喜ぶよ」


「えっ、私を気に入る要素無いでしょ」

「ボッチで貧乳で目が死んでいて腹黒い辺りに親近感があるんじゃない?」


「……泣いて良い?」

「リアクションも似ているね」


 あっ、拗ねた。

 よーしよし、慰めてあげるよー。


「ちょっ、アスティちゃんっ、ぁんだめっ、もう学校行くんだからっ」

「五分あれば充分でしょ?」


 ……はい、自主規制自主規制。

 っと、チロルちゃんも学校へ行っちゃった。

 さっ、アース城に行ってみるか。


「あっ、アスきゅん」

「リアちゃんどうしました?」


「予想通りだったよ」

「えー…了解です。じゃあ行ってきます」


 ガチャリ…なんか転移ゲートを久し振りに開ける気がするな。

 お邪魔しまーす。

 ……部屋には…ベッドでミズキが寝ている。

 睡眠中かな…そろりそろりと這い寄ろう。


 ……ベッドに到着。ゆっくりと掛け布団を捲る……そろーりそろーり……あっ、カエル柄のパジャマだ。これ可愛いな。

 それにしても良く寝ている……薬? 睡眠薬を飲んで寝ているのか…またストレスを溜めているんだな。仕方ない。


「うぅ…」

 少しうなされているので、パジャマのボタンを取ってみる。

 ……紺色か。紺色も良いな…大人っぽい。

 ズボンを脱がせてみる…うん、紺色良いね。


 再び布団を掛けて、そこに潜り込んだ状態でピタッと横から密着。

 ミズキの顔を横に向けて、至近距離から顔を凝視。鼻息が顔に当たる…私も鼻息を当てよう。


「みーずきさん」

「ぅ…ん……ん?」


「おはようございますっ」

「…おはよ…んぅっ」


 おはようのちゅーで目を覚まさせてあげよう。

 ミズキの目が少し覚めて、またとろーんとしてきた。二度寝しないでよ。


「ミズキさん、迷宮に行きましょう」

「うん…怖い夢見たから、落ち着くまで待って欲しいな」


「年上のお姉さんにそんな事を言われたらキュンですね。キスマーク付けて良いですか?」

「いや、恥ずかしいから駄目」


「駄目と言われたらやりたくなるのが人の性」

「ちょっ、やめてっ、痛い痛い痛い!」


 首筋にちゅーー。


「ぷはっ…エナジーセーブ」

「えっ、何したの?」


「キスマークを保存…つまり回復魔法でも治りません」

「まじ恥ずかしいから治して」


「嫌です。私は独占欲が強いのでミズキさんは私のものアピールをしたいんです」

「…また姫と喧嘩になるよ」


 喧嘩になろうと私は譲らないよ。

 丁度王女がやって来たけれど、マイペースを貫こう。


「ミズキー! おはようー!」

「姫様、おはようございます。ちょっと待って下さい」


 …扉越しに王女さんが居る。

 いたずらしたくて堪らない…

 何しよーかなー。

 怒らす方向で行くか、嫉妬させる方向で行くか…


「ミズキさん、どっちが良いですか?」

「どっちって何さ。一応姫はレティの事を心配していたんだから優しくしてあげなよ」


「優しさにも人それぞれ形がありますよ?」

「じゃあ、いつものあれは優しさなの?」


「いや、出来心です」

「楽しいだけでしょ。えっ、何してんの?」


「何って美少年に変身しているだけですよ? どうせまだ故郷に帰るって言っていないんですよね?」

「うっ…泣いちゃって最後までは…」


「誰かいる…まさか、開けてー! ミズキー! 開けてー!」


 王女が感付いたな…男モードをオンにしながら死角に入る。

 ミズキが軍服に着替えて扉を開けた。

「アレスティアー!」

 王女が飛び出して来たので、死角から抱き付いてベッドにポフッと優しく押し倒した。


「やぁヘンリエッテ…会いたかったよ」

「…へ?」


 押し倒した王女と至近距離で見詰め合い、頬に手を添え優しい口調で話し掛けた。

 王女が驚き、遅れて私を認識すると、徐々に顔が赤くなってきた。


「私の事…心配していたって聞いて…嬉しかった。ヘンリエッテの口から、聞かせてくれないか?」

「あっ、ぅっ、ぁの…私…あなたを…思い出さない日は…無かった」


「思い出して、何を…想っていたんだい? 教えてくれたら…ご褒美あげるよ」

「ぁっ、ふぉっ、はぅぉっ……ぁぅ…」


 ポンッと顔が真っ赤になって気を失ってしまった。

 純粋なお姫様には刺激が強かったか。

 …ふっ、やりきったぜ。


「レティ…知らないぞー。多分今ので惚れちゃったぞー」

「ふっ、私は罪な女ですね」


「いや、ほんとにどうするのさ。姫が惚れたら面倒だよ」

「面倒とか言われて可哀想ですね。別に惚れられても構いませんよ」


「…姫の事好きなんじゃん」

「ふふっ、王女さんとミズキさんにはお別れが待っています。その時…恋という感情が邪魔になる時だってあるんですよ」


「…やり方が強引だよ」

「王女さんはミズキさんの事が好き過ぎなんですよ。辛い別れなんて見ていられませんからね。少しお手伝いしますよ」


 やり方なんて沢山あるけれど、私らしいやり方はこれなんだ。

 ちゃんとミズキが帰る事を受け入れないと。

 おはよう王女さん。


「んぅ……ん? ……はっ!」

「おはよう、ヘンリエッテ」


「ぁ…アレスティア…」


 ベッドの縁に座って王女の頭を撫でると、顔を隠すようにピタッとくっ付いてきた。ミズキのなんだかんだで興味津々の視線を浴びながら、王女の頭を膝に乗せて頭を撫でる。

 あっ、ブリッタさんこんにちは。パチリとウインクをすると、胸を抑えてダウン…ふっ。


「ヘンリエッテ、深魔貴族を討伐したらミズキさんは故郷に帰るよ」

「……知っている…父様の話を聞いた…」


「それなら、どうしたい?」

「どうって…」


「ヘンリエッテは選択出来る。いや、私が選択させてあげる」

「…なにを」


「ミズキさんが帰る時に、見送るか…一緒に行くか」

「えっ…」


 ミズキの功績じゃあ足りないけれど、私のハズラを撃ち破った功績を使えばリアちゃんは動いてくれる。

 まぁ、そんな事をする義理は無いかもしれないけれど、私が死んだ時に泣いてくれた…それだけで私が動く理由になり得るんじゃないかな。それを言ってしまうと王女が喜んでしまうから言わないけれどね。


「悩むのなら、もう一つ選択させてあげようか?」

「それは…なに…」


「それは秘密かな。ミズキさんにも言っていないから」

「…意地悪」


 まだ実現可能か解らないからね。

 この世界とちきゅうを繋ぐ時空転移ゲート…ルゼルなら用意出来る。リアちゃんはルールに縛られているから迷惑を掛けられないし…

 交換条件は…蒼の深魔貴族に吸収された、ロンドの魂。


「ねぇレティ…まだ自信無いんだけど、本当に勝てるの?」

「勝つだけなら大丈夫と思いますよ。私がとどめを刺しても良いみたいですし…」


 裏世界で修行を重ねてきたから、勝つだけなら大丈夫だと思う。

 序列も上がったし…


「じゃあ…迷宮に潜らなくても大丈夫じゃない?」

「いや、それがですね…エーリンが迷宮に籠っているのでどちらにせよ行かなければならないんですよ」


「そういえば…最近見なかったね…ごめん、気付いたら居なくて…帝都に居ると思ってた」

「エーリンは夜行性なんで仕方ないですよ。決めた事を曲げないですし」


 リアちゃんの話では、エーリンは単独で最深部に居るから…連れ戻さないといけない。

 きっと迷子になっているんだろうなぁ…


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