あわよくば…

 

「蒼禍さん、ここは近隣国で一番大きな街ですよ」

「へぇ…平和なもんだな」


 ……一緒に外に出てみたけれど、蒼禍の情報が無いからどうしたもんか。

 一応示したものには興味を持つけれど、クールな性格だから会話のテンポが気まぐれだな。

 なんか時折微妙な表情を浮かべるのが気になる。


「……何か、気になる事でもあります?」

「いや…じろじろ見られるから、なんというか…恥ずかしい」


 可愛いくて格好良いお姉さんを見るなという方が難しいよね。私もじろじろ見ているよ。


「自慢してやりましょうよ。私は可愛いんだぁーって」

「可愛いとか言われるのは…慣れていないし…」


「じゃあこれから慣れましょうよ。私は可愛いって言いまくりますよ」

「いや、やめろ…恥ずかしい」


 恥じらうお姉さんに私はニヤニヤが止まらない。

 最初は幼女に何してんだと思っていたけれど、まぁ良い仕事をしたと思う。他世界の感性やらに触れられるし…


 まぁ、確かにじろじろ見られ過ぎだなぁとは思うね。

 私も可愛いから目立つし…

 でもナンパしようとする人は呪いで硬直するようにしている。

 便利だよ呪いの力は。

 呪いと言っても深淵と合わせて精神に攻撃するだけだから後遺症は無いし…いや、多分無いし。


「あっ、そういえば朱天の剣も武装? でしたっけ、出来るんですか?」

「出来るとは思うが…少なくとも私は見た事は無い」


「朱禍さんは使っていませんでしたね…視れば解るかな…」

「あの…良かったら父の事を教えてくれないか?」


「…良いですが、裏世界への憎しみが増すだけですよ」

「覚悟は出来ている。父が居なくなって長い時間が過ぎた…」


 ……アラスだと三千年くらい前…蒼禍って何歳?

 その前に人間じゃないから…種族も気になるところ。


「蒼禍さんって何歳ですか?」

「さぁ? 四千年は生きているんじゃないか?」


「……種族は?」

「天魔族だ」


「天魔族…特徴は? あっ、人間との違いという意味です」

「諸々の成長は遅いが寿命は無いのと…翼があって、爪が伸びる。後は…魔力が多いところか」


 翼? 背中を触ってみると、あった。普段は折り畳んでいるみたい。次に爪を確認…少し尖っていて青みのある爪…よしっ、そのまま手を繋ごう。

 もちろん恋人繋ぎだ。


「朱禍さんに会ったのは、深魔貴族になる為の戦いでした」

「……」


 順を追って説明しないと私が殺したと思われるから、気を付けないと。戦った時の話だけでは説明不足なので、私が視た朱天の剣に刻まれた記憶も交えて話していく。


 …ちょっと恋人繋ぎは失敗したかもしれない。蒼禍が力を入れて手がミシミシ言っているから…まぁ、手を繋ぐチャンスをものにしたいから強化して我慢しよう。


「とまぁ、戦いの後に剣と奥義書…そして呪いの力を譲り受けたという訳です」

「…そうか…ありがとう。父の最期を見届けてくれて…」


 呪いは譲り受けた訳ではないけれど、そういう事にしておこう。なんとなく。

 うーん…お礼を言われるような事はしていないからなぁ…


「蒼禍さんは、アラスで何かしたい事はありませんか?」

「…天魔族にとって死を見届けて貰うのは特別な事なんだ。だから、アレスティアに礼がしたい。何でも言ってくれ」


「お礼と言われても、こうやって手を繋いで歩いてくれるだけで嬉しいですからね。これ以上を求めるのは違いますし…」

「これ以上とは、どういうものだ?」


「あぁ、いや、忘れて下さい」

「…教えてくれ」


 いや、いやいや、言ったら実行しそうだから怖いんだよ。

 ここでは健全なんだから…いや健全ではなかったか。

 あっ、そうだ。


「じゃぁ……」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夜に帰ってきた。

 蒼禍とは仲良くなれたと思う。


「あら、アスきゅん早かったのね。蒼禍ちゃんもおかえり」

「夜に帰って早いと言われる私はどれだけ不純な生活をしているんですかね?」


「毎日好きな時間に寝て好きな時間に起きる時点で一般的とは離れていると思うよ?」

「今の私は自由業なんで良いんですよ。そろそろ迷宮に行ってきますね」


「行ってらっしゃーい。誰と行くの?」


 誰と…えーっと…私、ヘルちゃん、クーちゃん、ミズキ、エーリン…そういえばエーリンって何処行った?

 ライラはまだ早いし…蒼禍は過剰戦力…あまり多いと何かあったら守りきれない。


「とりあえず予定通りの五人ですねー。明日ちょっと先に行っているので、ヘルちゃんとクーちゃんが来たら伝えておいて下さい」

「うん、りょーかい」


 転移ゲートを持ち運べば迷宮で合流出来るし、ヘルちゃんの為に先にキモい魔物エリアを抜けてしまおう。


 と、その前にチロルちゃんを待たせてしまっているから、夜這いするか。


 …幼女の部屋に入ると、チロルちゃんは幼女と一緒に普通に寝ていた。蒼禍に幼女を任せて、チロルちゃんを抱っこして私の部屋に運ぶ。


 すーすー寝ている…ベッドに寝かせてパジャマに着替えさせよう。

 脱がし脱がし……あっ、魔導ブラジャー…これ、新しいやつだ…なんで教えてくれなかったんだよ……


「……」

「んぅ? アスティ…ちゃん?」


「……お仕置きだね」

「ぅえ? なん…で? …あっ」


 己の失態に気付いたか。

 ふっふっふ…私に新作魔導ブラジャーを教えてくれなかった罰だ。

 カチャン…いつもミーレイちゃんに使っている手錠を手首に嵌めた。これで逃げられぬよっ。


「お昼寝したから眠く無いよね? 夜は…長いよ」

「あっ、えっ、うそっ、だめっ」


「本当は、嬉しいんでしょ?」

「……」


 至近距離で見詰めると、視線を逸らしたな。

 ふっふっふ……ん?


「レティちゃん、お姉さんが…現れたぞっ」

「フーさん……まさかっ、クーちゃんが負けたっ!」


「クーが私に勝てる訳無いじゃないの。じゅるり」


 あぁ……

 チロルちゃん、ごめん…道連れになって下さい。


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