とりあえず女子感を出そう

 

「まぁ、こんな感じで堕落した女神にご飯を食べさせています」

「…難しいな」


 私が抱っこしているアテアちゃんにご飯を食べさせ、蒼禍が抱っこしているチロルちゃんにご飯を食べさせている。

 大きく育てよー。

 チロルちゃんは幼女の真似をしている…真似というか脱力しているだけだな。


「アスティちゃん…私は駄目になっていくのが解る」

「先に自分に負けたのはチロルちゃんだったね」


「もう、何もしたくない」

「しばらく蒼禍さんにお世話してもらったら?」


「私は構わないぞ。チロルもなんていうか…可愛いからな」

「…ありがとうございます。でも学校でザワザワするので我慢します」


 ……降りたいけれど、蒼禍の背が高いから降りられない様子を眺めよう。

 モゾモゾしてもガッチリ抱っこされているから脱出出来ず、降りたいと声を掛けようにも蒼禍が意外に楽しそうだから持ち前のヘタレで上手く伝えられない。

 私に助けを求める視線を向けるけれど、拳を握って頑張れポーズで応えてあげた。


「学校なんて行かなきゃ良いじゃろ」

「…親に学費を払って貰っている身分なので休む訳にはいきません」


「真面目じゃの。そういえば蒼禍はハズラで何をしていたのじゃ?」

「ハズラドーナ様の元で修行していた。裏世界の者がいつ来ても対応出来るように」


 蒼禍は言葉に憎しみを込めていた。

 朱禍が死んだ原因は裏世界の扉が開いた事による戦争。元凶はルゼルと初めて会った時代に遡り…つまり今は亡きロンドだ。

 そのロンドを吸収した蒼き魔物の事を知ったらどう思うんだろう。


 間接的な仇がアラスに居る。

 …私が蒼禍だったら喜んで殺しに行くだろうな。


「とりあえず、蒼禍さん」

「なんだ?」


「髪切りません? 前髪が気になって仕方ないんですよ」

「あぁ、任せるよ」


 蒼禍って女子感がほぼゼロなんだよ。

 中性的な顔立ちで少しボサボサな髪だから男子にも見えるし、服装も無骨というかシンプルだし。

 よしっ、ここは蒼禍を可愛く変身させて私の心を満足させよう!

 お世話係という事は、天使になるという事。

 天使は可愛くなければいけないのだっ!


 髪型は…長さがボブかショートにしか出来ないから…顔立ち的にショートカットか。

 一人でやるには時間が掛かる…召喚するか。


「リアちゃーん」

「はーい」


「蒼禍さんを可愛いくするので手伝って下さい」

「んー? あっ、りょーかーい」


 普通に扉から現れたリアちゃんが蒼禍に微笑み掛ける…口説いちゃ駄目だよ。

 蒼禍は硬直して驚いている。もしかしたら知り合いとか?


「あの…」

「ふふっ、可愛いくしてあげりゅ」


 リアちゃんの両手にハサミが出現。くるくると回してなんか得意気にアピールしているけれど、危ないからやめてよ。

 何? びよーし免許を持っている? びよーし免許って何さ。

 とりあえず暇なチロルちゃんには幼女を抱っこしてもらう。


「可愛いショートカットでお願いします」

「りょーかい」


 シュンッ…とリアちゃんの手がブレ、蒼禍の髪に風が吹いたかと思ったら…ハラリと髪の毛が落ちてショートカットに早変わり。

 落ちた髪の毛はスーっと消えて床も綺麗だ…

 びよーし免許って凄いね!

 こんな事が出来るんだ!


「リアちゃん凄いです! びよーしの力なんですか?」

「そうよ。私はびよーしの中じゃ下の方…上には上が居るのよ」


「これで下の方…びよーしって凄いんですね!」


 そもそもびよーしって何? 髪を切る人かね?

 ……あっ、美容師ね。

 解った解った。

 蒼禍はボーイッシュな感じ。

 前髪は少し短くなって眉毛の下くらい…あっ、良いね。

 次は化粧乗りを良くしたいから、洗顔してパックだな…


「これは…自分でやる…」

「駄目です。任せるって言いましたよね」


 洗面所でわちゃわちゃ…人に洗顔するって難しいな…二人掛かりならなんとか…よし、洗って化粧水パックを装着。

 しばし待ち時間。


「リアちゃん、楽しみですね」

「うん、テーマは?」


「出来る女…ですかね」

「りょーかい。完成したらお出掛けするの?」


「まぁ、そうですね。アラスの街並みも見て貰いたいですし…蒼禍さん、終わったらデートしましょう」

「デート…ってなんだ?」


 ……デートを知らぬのか?

 その前にハズラの常識やら価値観やらを知らないという問題に直面しているぞ。


「ハズラで恋人は居なかったんです?」

「恋人?」


 こてんと首を傾げられた…パック中だから表情がよく解らないけれど、居ないという事で良いのかね?

 あっ、時間だ。パックを取ろう。


「じゃあ、リアちゃん…やりますよ」

「うん、アスきゅんは下地よろ」


 蒼禍な肌が綺麗だから薄くで良いかな。

 さー。

 陰影を付けなくても大丈夫かな。

 目は…あっ、このパレット凄いねー。目の形になってこの通りやれば良いのか。

 アイラインで蒼禍が怖がっている…感触には慣れておくれ。


 まつ毛を整えて、眉毛を書いて…リアちゃん紅濃くない?

 あっ、意外にまとまる。

 おっ良いねー。可愛いよりも格好良い感じの女子になった。


「「いえーい」」


 リアちゃんと両手でハイタッチ。

 出来た出来た。

 後は白シャツにロングスカート、アクセを着けたら完成!


「かんせーい」

「良い仕事をしたね」


「リアちゃん、ありがとうございます」


 やりきったよ。

 蒼禍に姿見で見せてあげよう。

 どやどや。


「これが、私か?」

「はい、これを一人で出来るように頑張りましょう!」


「これは、戦いの役に立つのか?」

「はい! 私の心が癒されます!」


「うん? それなら良い…のか?」


 良いんだよ良いんだよ。

 格好良いお姉さんも大好物です。

 白シャツから覗く青ブラジャーが視線を釘付けだねっ!


「じゃあ、デートしましょう!」

「ん? アレスティアはそのまま出るのかえ?」


「こそこそするのもアレなので、試しにそのまま出てみます。アテアちゃんはチロルちゃんと一緒に堕落していて下さい」

「じゃあの。チロパン、わっちの部屋に行くぞえ」


「えっ、あっ、はい」


 チロルちゃん後でねー。

 よし、行くぞー。


「デートって、何をするんだ?」

「一般的には…手を繋いで色々したり色々見たり、あわよくばチューする感じだと思います」


「なるほど。アテアの街も見たいと思っていたから、案内を頼む」

「はいっ!」

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