どうも、アレスティアです

 

 もっきゅもっきゅ…

 ちょっと待って。

 お行儀悪くてすまんね。

 ……やっと肉を飲み込めたから喋れる。


「ふぅ、二度と私に関わらないならメガネを取りますよ」

「えっ…」


 意地悪してみよう。

 あらぬ噂が流れるから構わないで欲しいんだ。

 もう既にあらぬ噂が流れているけれど、傷口を広げる事はしたくない。

 クーちゃんに男装して貰った方が良かったな…カレぴっぴだよーって言えたのに。


「あっ、レティのストーカーが居るです。アース城まで追い掛けてきて懲りないですね」

「クーちゃん会った事あるの?」


「彼氏はお前かーって詰め寄って来たからボコったです。褒めるです」

「偉い偉い、心に消えない傷を負うくらいでも良かったよ」


「何故知って…まさか……あの時の奴か!」


「クーちゃんバレちゃったねー」

「てへっです」


「可愛いー」

「レティには敵わないです」


 どやどや、青いドレスのクーちゃんが可愛いから手を繋いで自慢してやろう。

 というか彼氏の噂を聞き付けて職場まで来て詰め寄るとか…マジやべぇ奴じゃん。ドン引きだよ。

 怖いからエナジーバリアで防御しておこう。


「……レティ、お前にそのメガネは似合わない」

「お前とか言わないで下さい。あっ、王女さん…見て解るようにこのストーカーと一緒に居るくらいだったら王女さんと結婚しますよ」


「えっ…私と? そ、そんなぁ結婚って…もぅ…だっ、だめだぞ。私達は女の子同士なんだから結婚だなんて…もぅ」

「まんざらでもない顔をしないで下さい。逆に恥ずかしいです」


 どうすればこの悪化していく場が治まるんだよ。

 ん? 幼女が城に来たな…ミズキの部屋から向かって来ている。

 何しに来たんだよもぅ。

 …いやチャンスか。


 よしっ、メガネ取ろ。


「あ…あ…」

「あ…レティ、探したんだぞ。帝国へ帰ろう」

「私が帝国を出た理由も知らずに自分勝手ですね」


「何を…」

「アレスティア! 君だったのか!」

「……は? アレスティア?」


 おー、レインの王子よ。忘れていたよ。

 こういう状況を見ると、やはり普通のアレスティアとして生きるのは難しかったと実感させられる。

 周囲はざわめき、レイン王子は嬉しそうに笑い、モブ王子は驚き、ストーカーは私に駆け寄りエナジーバリアに激突。

 ふっ、私は鉄壁なのだよ。


「アレスティア…王女…なのか…」


 元だよー、これ重要。

 まっアレスティアだと解ってしまった以上、アース王国での活動が制限されるかな。どうせ帝国ではヘルちゃんの師匠はアレスティア王女という情報があるから遅かれ早かれレティがアレスティア王女だと解るけれどね。王女さんよ、私に仕返し出来て良かったな。


「皆さん、静粛にお願い致します。あらぬ噂が流れるのは嫌なので言いますが、私の名前はアレスティア。社会的には死んでいるので元フーツー王国所属のアレスティアですがね」


「本当に…アレスティア王女だったのか…なんで…教えてくれなかったんだ…」


 なんでって皇子と結婚したくなかったからだよ。


「この際ハッキリとさせましょう。私には婚約者が居ます」


「ついに、この時が来たのね!」

 王女さんよ、黙ってくれ。

 なんで嬉しそうなんだよ…私が皇子と結ばれたらミズキを一人占め出来るからか? もう言っちゃえよ、ミズキらぶってさー。


 周囲も期待している。

 捏造演劇の続きを見ている気分なのかね?


「俺と…」

「呼んだかしら!」


 皇子の言葉を遮り、後方から意気揚々とやって来た幼女を抱える救世主ヘルちゃん。

 待っていたよー。

 白いドレスが似合うねー!

 ついでに幼女も白いドレス? いや光らせている白いワンピースだな。


「ルーデ…何故ここに…」


「紹介しまーす! 私の婚約者、ヘルトルーデちゃんでーす!」


「「「はぁっ!?」」」


 ヘルちゃんが私の隣に立ち、仁王立ちでドヤ顔を決めた。

 おー…ヘルちゃんが勝ち誇っておる。

 ついでに幼女もドヤ顔…しかもヘルちゃんとお揃いのツインテールじゃないか! ズルいぞ!

 どうした幼女、今日はノリノリだな!


 ……なんかシーンとしちゃったな。

 みんな茫然としているけれど、言葉を飲み込むまで待ってみよう。


「あ、あの、ヘルトルーデが婚約者って、どういう事よ。てっきりリーセント様だと思って…」

「話せば長くなるけれど、ヘルちゃんとラブラブなのだ!」


 王女さんよ、えー…って顔をしないでよ。

 そういう事だから、よろしくー。

 おっ、皇子さんがエナジーバリアを叩いて怒っているな。


「そんなの! 認めない! 結婚なんて出来る筈が無いだろ!」

「ふっふっふっ、実は出来るんですよ。女神アラステア様公認の仲ですからね!」


「女神…だと…」


 さぁ幼女よ、出番だ!

 おっ、神気を垂れ流しながらヘルちゃんから降りて、二本の足で立っている!

 幼女が立った! 珍しくやる気だ!


 王と宰相が駆け寄り、幼女に向かって跪く。

 それにつられて周囲の貴族達やモブ王子、王女さんも慌てて跪いた。

 控えおろー。


「わっちがアラステアじゃ。天使アレスティアと聖女ヘルトルーデの婚約を認める…のじゃ」


 うわっ、カンペを見ながらめっちゃ棒読み。

 私をチラチラ見ながら、どう? どう? っていう顔を向けてくる。下手くそ…カンペ見なくても言えるだろ…

 ヘルちゃんなんて笑いを堪えて口が半開きじゃないか…緊張感無さすぎだよ…


「はい、ありがとうございます……とまぁ、私は死んでから女神アラステア様に拾われて天使となりました。なので私が結婚出来る相手は聖女以上の存在でなければいけません」


「そんな…嘘だろ…」

「本当ですよ。詳しくはアース王かミズキさんに聞いて下さい。という事でアテアちゃん様、私が表舞台から消えるまでで良いので箝口令を敷いて下さい」


「あ? しばらくこの話を広める事を禁ずるー…終わったから帰るのじゃ」


 あ? って言うなし。

 もう飽きたのか。


「じゃあ皆さんさようならっ。ヘルちゃんクーちゃん帰るよー」

「肉持って帰るです」

「ご褒美頂戴ね」

「アレスティア、抱っこしての」


「はいはい」

 幼女を抱えて大ホールから出ていく。


 その後どうなったかはミズキに聞こうかな、王女さんに嫌味も言いたいし。


 これで第二皇子は私を諦めてくれる筈。

 諦めなかったら神敵として葬り去ろう。


 よーし、なんかスッキリしたー。



「ところでアテアちゃん、どうしてそんなにやる気だったんです?」

「えっ、それはの…えーっと…伝え忘れていたんじゃが…天異界序列戦の日程が変わっての…」


 序列戦…確か上位と戦う前に、二十位以下と戦う日があるんだっけ?


「へぇー……いつですか?」

「……下位戦はこれからやの。てへっ」


「えー…」

「てへっ」


 わざとらしい顔して…

 可愛いな。

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