大きなお世話だよ

 

 大ホールの中央にて、音楽隊の演奏に合わせて踊る男女達…先ずはそこを目指そう。

 立食は手前と側面に料理が乗ったテーブルが並んでいて、貴族達が世間話をしながらダンスを眺めている。クーちゃんはもりもりお肉を食べて幸せそう…話し掛けられても無視して、メンタル強いな。

 とりあえずイメージ的には豪華絢爛っていう便利な言葉を使っておこう。


「レティ、私ダンス上手くないよ」

「それなら複製すれば良いじゃないですか。ほらっ、上手そうな男女がセンターに居ますよ」


「なるほど…複製っと。あっ、出来たっぽい」

「これで安心ですね。因みに私はフーツー王国流のダンスしか踊れません」


「えー…堂々と残念な事言わないでよ。レティのダンスを複製しても女性パートと女性パートだから駄目じゃん」

「じゃあ剣舞でもします? 私の剣で良ければ貸しますよ」


「あっ、良いね。刀があるから大丈夫だよ」


 ミズキが中央を歩いていくと、貴族達が礼をしながら道を開けていく…気持ち良いね。

 私もミズキの威を借りてオラオラしてみよう。


「おらおらー、ミズキ様のお通りだー」

「いやほんとマジやめて絶対わざとでしょクッソ恥ずかしい」


「おー、二秒で言いましたねー。おやおや王女さんが期待した目で見ていますよ」

「なんか心が痛いんだけど…」


 ミズキが来て王女が嬉しそうに笑っている。

 来てくれると思っているのかな?

 でも行かないよ。王女の隣に私が引き摺り回したレインの姫が座っているからねー。


「因みに隣に座っているレイン王国のお姫様はこの前会いましてね…首根っこ掴んで引き摺り回してポイッてしましたよ」

「アホなの!? お転婆にも程がある!」


「いやぁ…褒めないで下さいよぉー」

「褒めてない!」


 隣のテーブルにはモブ王子とレインの王子とストーカー王子が仲良く歓談…仲良いんだな。ミズキを見て顔を寄せ合い盛り上がっている…こうやって見ると男子って感じだなー。

 いや、あれはもしかしたら……男三人のお泊まり会の相談かもしれない……

 ……モブが受け…かな、レインも受けっぽいな…じゃあストーカーが攻めでモブとレインをひーこら言わすんだろうか……


「ミズキさん、どう思いますか?」

「脳内会議の終盤だけ振るのやめてよ。なに? あぁ……アース王子も割りと攻めだと思うよ」


「えー…攻め二人だとレイン王子が耐えられますかね? いや、ここはおっさんズの誰かが参戦するやも…」

「ねぇ…これ剣舞中にする会話?」


 実はもう剣舞を始めている。

 剣は他の人に当たったら危ないので、周りに透明なエナジーバリアを張っているから安心仕様。ミズキは刀、私はミスリルソード。

 更に音楽隊の演奏を邪魔しないように、剣戟の音や会話は封印魔法で聞こえないようにするという匠の技。

 という事で剣舞というより模擬戦に近いのだ。


「どうせ聞こえないんだから良いじゃないですか。他にする会話あります?」

「……いや特に無いけど…そういえば婚活イベントで何やらかしたの?」


 ミズキが連続突きを繰り出して来たので剣先で軌道を変えていく。周囲から、おー! という声が聞こえてくる…どやどや。


「見学していたら婚活参加者が喧嘩売って来たので、遊んでいたらレイン王子が居たんですよ。それでボコボコにしただけですが?」

「突っ込み所が満載だね。なんでボコボコにしたの?」


「……なんでしたっけ? あぁ、告白されたんで私を諦めて貰う為にボコボコにしました」

「…ほんとレティって男に厳しいよね」


「思わせ振りな態度は出来ませんし、男性と仲良くするとみんなが怒るんですよ。ミズキさんも経験ありません?」

「私は別に…でもレティと知らない男が仲良くするとか考えるだけで嫌かも。あっ、そろそろ曲終わるよ」


 そいじゃあラストスパート。

 先読みでミズキの連撃に合わせよう。

 上下左右の連撃に後ろを向きながら剣を合わせ、振り向き様に横凪ぎ。

 曲の終わりに合わせるように、封印を解除して剣戟の音を響かせる。


「「無元流…乱れ桜」」


 最後は無元流で拍手変わりの剣戟。

 エナジーバリアを解除し、ミズキと手を繋いで貴族達に一礼。お邪魔しましたー。


 ――パチパチパチパチ!

「素晴らしい!」「流石勇者様!」「メイドも地味だけど凄いな!」

 拍手喝采をありがとーございまーす。

 ミズキも楽しそう。やっと安心した表情だし…


 王女さんは…ハンカチを噛みながら私を睨んでいる。

 うーん…ちょっと普通だな。

 闇落ちした時ぐらいのリアクションが欲しいんだけれど…


 ん? モブ王子が近付いてきた。

 ミズキに用事? かと思ったら私の前に来た。


「あ、あの…シラクモ殿、良かったら俺と踊ってくれませんか?」

「申し訳ありませんが、私は男性と踊る事を禁じられています」


「一曲だけでも…駄目ですか?」


 私に手を差し伸べ、踊ろうよポーズ…おー、これ本で見た事ある。王女時代は見れなかったから新鮮だなー。

 でもすまんね。

 ヘルちゃんのご機嫌の方が大事なんだ。

 地味な私が断ったから凄いざわざわしてんな。ミズキは面白そうに私を見ているし…助けないところを見るとさっきのおらおらーの仕返しか? 根に持つぞー。


「私はこの手を取る事も触れる事も禁じられています。地味な女に構わないで下さい。困ります」

「いえ、貴女は地味なんかじゃありません! 光り輝いています! 俺を叱ってくれた女性は貴女が初めてでした…あれ以来、貴女の事を考えない時はありません!」


 えー…地味な方に惚れたの? アレスティアの方? どっちさ。

 あれは叱った訳じゃなくて無理矢理謝らせただけだし。

 あれ? モブ王子って私の顔見たでしょうに…もしかしてアレスティアとシラクモは別人だと思っている?

 なんかそれはそれで困る…なんか嘘付いているみたいだし…

 地味なのに目立っているじゃん…空気読みなよ。


 ほらぁ、王女さんが焦った表情でこっちに来ちゃったじゃん。

 ついでにレインとストーカーも来たじゃん。

 王よ、宰相よ、止めろよ。目が合ったらニコっとするな…幼女はいないぞ。


「お兄様!? シラクモは駄目です!」

「ヘンリエッテ、邪魔をするな」


「シラクモが誰だか解っているんですか!? 断固反対です!」

「そんなの、解って…いるさ」


 おー、頑張れ王女。

 珍しく私の味方をしてくれているじゃないか。

 私を守るように手を広げて、ぷんぷんしながらモブ王子を睨んでいる。

 頼もしいぞー。


「王女さん、私を庇うなんて変な物でも食べましたか?」

「シラクモ…あなたには結ばれるべき人がいる」


「うわー…王女さん、しばらく会わない間に拗らせましたね」

「今…リーセント様が来ているわ。行きなさい!」


「嫌ですよ。誰が好き好んでストーカーの所に行くんですかね」


 駄目だ…やっぱり頼もしくない。

 王女め…妄想と現実を組み合わせたな。

 アレスティア王女はリーセント皇子と結ばれるべきなんて思っているんだろうけれど、大きなお世話でお節介だよ。

 これが嫌だから正体を明かさなかったのにさぁ。

 なにその私は解っているわよっていう親友へ向けるような顔は…私への恨みをどう脳内変換したらその顔が出来るんだよ。

 さっき睨んでいただろ…情緒不安定か?


 おいミズキ…目を逸らすな。

 そして群衆に紛れるな。

 覚えてろよ。


「恥ずかしがらなくて良いの。あなたは頑張ってきたんだから…」

「今この状況が恥ずかしいですよ。こんな形で仕返しをするなんて王女さんも中々やりますね」


「さぁ、そのメガネを外して」

「外したら確実に場が荒れるので嫌です」


 王女が微笑みながら私のメガネに抜き手を放ってきた。

 ひょいっと躱す。

 ……今度は突進しながら抜き手。

 ひょいっと躱す。


「……どうして躱すの?」

「嫌がっているのは無視ですか?」


 くそっ、話が通じない。

 このままじゃストーカーの前でアレスティアとか言いそうだ。


「レティ、何してるです?」

「あっ、クーちゃん…」


 救世主が来たかと思ったけれど、クーちゃんは爆弾な気がする。


「美味しい肉があったです。あーん」

「マイペースだね」


 とか言いながらお肉を食べてしまう。確かに美味しいけれど、大きいよ。私の口を塞がないで戴きたい。


「…レティだって?」


 ほらぁ、ストーカーが感付いたじゃん。

 もっきゅもっきゅしているから喋れないし…

 クーちゃんは美味しい? って顔で見詰めている…フーさん同様何故この姉妹は空気を読まないんだ。


「もうお肉食べたから帰るです」

「待ちなさい! まだ話は終わっていないわ!」


「私は興味無いです」

「じゃあ黙って見ていなさいよ! 私は彼女と話をしているの!」


「レティが嫌がっているです。空気読め」

「きぃぃいい! どっちがだよ!」


 おー、クーちゃんも中々やるねぇ。

 王女のきぃぃいい! を引き出したよ。


「ヘンナ王女うるさいです」

「クーメリアのせいだよ!」


 そういえば王女とクーちゃんは迷宮探索で顔を合わせているんだっけ。いつもこんな感じなのかな?

 見ていて結構面白い。

 こんなパーリーで騒いじゃって…周りは微笑ましい感じで眺めているから優しいな。


「あの、君は…レティなのか?」


 もっきゅもっきゅ。

 ストーカーが寄ってきたな。

 首を横にフリフリしてみよう。


「…メガネを取ってくれないか?」


 やだー。

 こんな注目された中で恥ずかしいじゃん。

 あっ、でもここで思い切り振ってしまえば諦めるかも。

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