しっかりしろアレスティア

 

 赤黒いオーラが朱禍を包み込み、肉体が強化されていくのが解る。今までの比にならないな…


『朱点蓮華』

 っ!

 急接近しての連撃!

 圧迫感がヤバい!


「乱れ桜!」

 連撃を受け流しながら卑怯ブレイドで腕を焼いていく。

 やっぱり折れないソードはちょっと重い…

 でもこれ以上剣が軽いと弾かれる。


 拳は真っ直ぐ私を狙うから逆に助かるな。

 フェイントされたらキツイから…


『朱点砲』

 目からビーム!?

 アホか!


「リフレクト・ミラーフォース!」

 射線に鏡を設置…ビームを受け止めた隙に回避!

 鏡にヒビが…押し負けたな。

 やっぱり星属性が弱いから跳ね返せない。


『朱点蓮舞』

 不規則な軌道の連撃!

 こりゃ無理!


「ソルレーザー!」

 自分に当てて緊急脱出!

 危なっ…


 ……ちょっと戦ってみて解ったけれど、戦闘技術は朱禍の方が遥かに上だ。

 死線を潜った数が違う…

 少しのダメージは無視して連撃が来る…

 私なんか自分が可愛いからダメージを抑える癖があるし…


『くくっ、儂は強いだろ?』

「はい…強いからこそ残りの時間を考えると本当に惜しいです」


『あまり褒めるな。未練が残る』


 まともなダメージを与えるには…生半可な攻撃じゃ駄目だ。

 朱禍が使った呪われた世界は、恐らく狙った属性や能力を弱体化する…

 一見ショボいように見える能力だけれど、強敵相手に戦うならこれほど頼もしいものは無い……


「何か命を繋ぐ方法があれば嬉しいですがね…よっしゃ! 仕切り直して深淵の瞳・大解放!」


 先読みを最大限に!

 一撃が致命傷だから!


『その瞳…天然物か…』

「はい。改造されたと聞きましたが…その目は魔眼ですか?」


『あぁ、これは妖呪の瞳。ジュマの一族が大妖精に負のエネルギーを流し込み、拷問の果てに完成した呪いの瞳だ』

「……業が深いですね」


 朱禍の大きな瞳の中に、核のような物が視える…あれが呪いの根源か。

 ちょっと…直視し過ぎると意識が飛びそうになる。私の深淵に匹敵する程の…深い憎悪、怨嗟、痛哭…幾多の積怨が混ざり混沌としたものを感じた…


『これはあまり視ない方が良い。その黒き翼が穢れてしまうぞ』


 翼?

 ……そういえば深淵の瞳の力を解放すると、背中に違和感があったな。

 ちょっと待ってね…鏡で見るから。

 うぉっ! 黒い翼っぽい物が背中から出ている! 翼というより黒いエネルギーだから黒い妖精の羽をギザギザにした感じ?

 中々イケているではないか!

 しかも黒い翼はルゼルとお揃い!

 ひゃっほーい!


 そういえばバラスが私を見て堕天使とか言っていた…

 みんなに駄天使と呼ばれる訳だ…納得。


「お喋りは終わりましょうか。私流剣技・深界」


 静界と深淵の瞳を組み合わせた卑怯回避術で朱禍の動きを把握。

 腕が四本だから躱しきれるか不安だけれど…武器を持っていない事が救いだよ。


『あぁ、そうだな。儂は姿が変わってしまったが、変わらぬ物もある…召喚・朱天の剣!』


 武器持ってんじゃねえかアホー!!

 赤黒いオーラを放つ一振りの剣…サイズは朱禍にしては小さめだな。恐らく姿が変わる前に持っていた剣…


「えっ……」

 朱禍が自分の腕を二本斬り落とした…

 何を…


『この剣を使う時は邪魔なのだよ…行くぞ!』

 来る!

 しなやかな動きで私の眼前に接近。

 袈裟斬りに剣を合わせたけれど、押し負けそう!

 手首の力を抜いて受け流しながら後退。


「超連撃!」

 卑怯ブレイド最大出力!

 細く鋭く形成!

 一気に畳み掛ける!


『朱剣・千武』

 朱禍も連続攻撃。

 剣が幾つもあるように見える程に速く、私の剣を全て弾く程に重く、卑怯ブレイドを斬り刻む程に鋭い。


 つまりはまぁ、私より凄い連撃。

 直ぐに私の右腕がポーンと飛んだよ。


「ソルレーザー!」

 また緊急脱出!

 グレーターヒール!

 折れないソードと私の右腕は離れた場所…取りに行くのは難しい。

 仕方ない…サンダーホークの剣を使って左腕で頑張るか。


 まぁ腕が一本無くても戦えるさ。


『取りに行っても良いのだぞ?』

「情けは無用…ライト!」


 ライトを朱禍の周囲に多数展開。

 今回は円状ではなく球状…つまりドーム型に展開している。


『これは、下級魔法か』

「行きますよ! シャイニングロード! 連結! 光速剣!」


 近くのライトに飛び込み、光速移動。

 朱禍の死角から首を狙う!

 斬っ……たけれど浅い。

 それなら先ず右腕を回収。

 グレーターヒールでくっ付けながら朱禍を斬り刻む。


『中々面白い技だ…朱剣・乱嵐』

 うおっ! 何処から来ても対応出来る乱れ斬り…

 今のうちに折れないソードを回収。

 よっしゃ、折れないソードに持ち変えて…


「追加技! ライト散開! 卑怯ブレイド!」


 ライトを広範囲に散りばめる。

 離れた位置から光速移動をしながら卑怯ブレイドで卑怯攻撃!


 はっはっはー!

 これならずっと私のターンだよ!


『くくっ、なんて奴だ。気に入ったぞ! 朱剣奥義・天壁!』


 朱禍が剣を地面に突き刺さすと、赤黒い柱が天を貫き…

 柱の直径がどんどん拡がって行く。

 ヤバいヤバい!

 壁が迫ってくる!

 後退しながら対策を練らないと!

 私のターンは直ぐに終わってしまったよ!


 周囲のライトはどんどん掻き消され、逃げ場が無い…

 光飛斬! …呑み込まれた。

 ゆびーむ! …ちょっと抑えたけれど呑み込まれた。

 黒三日月! …なんか勢いが増した。


 えー…どうしよう。

 前後左右に逃げ場無し。上も星乗りが使えないから無理…下は掘る時間が無い。

 待っていたら私は粉々…

 私が出来る手段は…光魔法だけという縛りプレイ。


 それでも…


「逃げたくない! ソルレーザー!」


 正面のライトを起点に…先ずは正面に放つ。

 壁に衝突…接触部分は抑えたけれど隣から呑み込まれるようにソルレーザーが消えて…いや内部である程度存在してから呑み込まれている。なら…頑張って放てば朱禍に届くかもしれない!


「ソルレーザー!」

 光を凝縮させて中心へ放つ。

 お? …当たった?


 深淵の瞳で凝らして見ると…黒いバリアが朱禍を守っている。

 弱った威力じゃバリアを貫けない…

 どうしようどうしよう…


 ソルレーザーより強い魔法なんて…エナジーマジックが無いと出来ない…

 強化魔法に頼り過ぎて、いざ使えなくなったらこの様だ…情けない。


「しっかりしろアレスティア。強化魔法が使えないだけで落ち込むな。今まで自分の力でやってきたじゃないか…使えないなら…使えないなら……なんとかしてやる! ライト!」


 この壁を消すなんて無理だ。

 でもこれに耐えれば勝機はある!


 私の周囲にライトを展開。

 ライトを起点にしてソルレーザーを真上に放つ。

 朱禍の真似っこ…ソルレーザーバリア!


 私の近くならソルレーザーが消えないから耐えられる筈…来た、接触する!


 赤黒い壁が接触。

 ジリジリと接触部分のソルレーザーが小さくなっていく…出力を上げていかないと…ってかなりキツイ!


 あっやべっ…真上の事考えていなかった。

 角度を付けて円錐形に…

 おっ?

 おー?

 なんか頂点が合わさったら強くなった!

 ソルレーザーを合わせたから? いやそれは前からやっていた…だとしたら…円か?


 あっ…何か…思い付いたかも!


 赤黒い壁が通り過ぎ、朱禍の攻撃が終わりを迎えた。

 黒いバリアを展開する朱禍を中心に地面が削れ、荒れ果てた大地が朱禍の攻撃の強さを物語っていた。


『限られた力で…これを防ぐか。成長したようだな』

 朱禍が黒いバリアを解除し、私を見て嬉しそうに眼を歪ませた。


「ええ…朱禍さんが私の甘っ垂れた精神を叩き直してくれました。本当に感謝します」

『くくっ、手助けしてしまったか…やってみろ』


「はい! ライト!」


 朱禍が再び剣を大地に突き刺し、赤黒い柱を発生させた。

 柱が大きくなる前に完成させないと…


 朱禍の周囲、円状にライトを展開。

「ソルレーザー! 連結!」

 ソルレーザーでライト同士を連結。

 朱禍を囲む円を作成。


 円の中にソルレーザーを走らせ、三点で繋ぎ三角形を作る…そして三点の逆にソルレーザーを走らせ、逆三角形を作れば…


 六芒星の魔法陣。

 魔法文字も無い簡単な魔法陣だけれど、私理論ならソルレーザーの魔法陣を作れば儀式魔法が完成する!


 …筈だけれど、何も起きない。

 あれ? 間違えたかな?

 ……詠唱とか要る? いやソルレーザーの詠唱なんて知らんし。

 早くしないと三角形が呑み込まれる…


「うーん……やばたん……あれ?」


 影?

 上を見上げると……は?


 遥か上空に巨大な白い剣?

 ここから見えるって事は…デカイで済む大きさじゃない?

 剣先が下に向いて…なんか降りてきているな。

 わー、おっきー。

 あの剣はなんだろうなぁー。


 ……

 ……あっ、もしかしてあの剣って私が出した?


 へぇー……えっ? 私凄くね?

 いやその前にあれどうしたら良いの?


「…あっ、名前か…どうしよ……ソルブレイド(仮)」


 おっ、光った。

 結構な速さで墜ちて来るなー……


 ……ん? ちょっと、ここに刺さったら私も危険?


 逃げなきゃ…

 一歩後ろに下がろうとした瞬間…

 ペタリと座り込んでしまった。

 あれ?

 力が入らない…


 あぁ…魔力切れだー。


 まぁ、うん、受け止めよう。


 私が出した魔法だから大丈夫でしょ…多分。


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