好きになる努力って難易度高いよね
ラジャーナの草原までリアちゃんの転移で直接来た。
眠っている幼女はリアちゃんに渡して、お花畑の方へと歩く。
「ミズキさん、ここはモフモフ天国です」
「…明らかにヤバい場所だよね」
「あっ、ヘルちゃん、店長にお花送りたいからお願いして良い?」
「良いわよ。そうそう、この前ゴン・ジーラスさんが服をプレゼントしてくれたのよ」
「見たい見たーい」
「アスティの分もあるから、一緒に着てデートするわよ」
途中でリアちゃんが立ち止まる…どうしたの?
「アスきゅん、私はここで待っているわ」
「あっ、じゃあ私も」
「アスティ、行ってきて良いわよ」
えっ、なんでさ。モフモフだよ? みんな堪能したくないの?
秘密の話でもするの? 混ぜてよ。
……ちぇっ。
お花畑で到着すると、寝そべるバラスを枕にして眠る白獅子が三体。バラスの耳がピクリと動いて、グルッと鳴くと白獅子が目を覚ました。
「バラスさん、終わりましたよ」
『そうか…あの人間は?』
「殺しはしていないので、能力を没収して終わりです」
『なんだ、殺していないのか。甘いな』
「生かす目的はありますよ。その時が来ればですがね」
白獅子達が私の前にやって来た。……白獅子だと見分けが付かないな。
…とりあえず手を伸ばすと、カプッと噛まれた。
…痛いよ。
暖かいけれど、舌がザラザラしているし…
もう一体が私を噛んだ白獅子の首を噛んで嗜めている…
そしてダラダラ血が流れる私の手をもう一体がペロペロ舐めてくれた。おー…傷が治っていく。
いや、喋りなよ。
「……あの、人化してくれませんか?」
白獅子が顔を見合わせて…ポンポンッと変身。
三人のケモ耳美少女に早変わり。
顔はまだ見分けが付かないけれど、耳の形と髪型で解る。
…噛んだのは長めの耳にぱっつん前髪の長女ライラ、意外だな。
嗜めたのは丸耳ロングヘヤーの次女ミイナで、ペロペロしてくれたのがピンとした猫耳風に短めの髪がクセッ毛の三女ヤイナ。
「ありがとー。ヤイナだよ」
真っ先にヤイナが抱き締めてくれた…あぁ…きゃわゆい。
丁度私のアゴ辺りにケモ耳がピョコンと存在している…抱き締めるついでにケモ耳を頬擦りしよう。あぁ…幸せ…
「姉のライラがすみません。ミイナと申します」
ミイナが申し訳無さそうにしている。今の私はご機嫌だから気にしないよ。
ライラを見ると、一礼して少し暗い雰囲気だ。
まぁ…理由はなんとなく解るかな。
「はい、無事で何よりです。私はアレスティア、アスティでもレティでも好きに呼んで下さい。これからあなた達はどうするんですか?」
「私はおとさんの側に居たいー。強くなるのー!」
「私もぱぱと居たい…自分の弱さを実感しました」
「…」
「そうですか、頑張って下さい。ではまた会いましょう」
挨拶と今後を話してケモ耳を堪能出来たから用件は終わりだな。
また時間がある時に来よう。
「待って!」
「…なんですか?」
帰ろうとした私の前にライラが通せんぼ。
「あの…私と、戦って欲しい」
「…はい、良いですよ」
戦いたいというのなら、掛かっておいで。
ライラが構え、魔力を高めている。その姿で戦うのかな?
「……武器は?」
「必要な時に使います」
ちょっと怒ったかな……舐めている訳ではないよ。
ムッとしたライラが突進してきた。
飛び上がって顔目掛けて鋭い爪を振り下ろす。
一歩下がって側面からライラの手を裏拳で弾く。
「くっ…」
その反動で蹴りを放ってきた。
踏み込んでいないから勢いは無い…振り抜いた足首を掴んで上に放り投げる。
「ソルレーザー」
ライラの真上から光の柱を落とす。
「あぁぁぁあ!」
いきなり視界が白くなるとビビるよね。光の加護を持つライラにダメージは無いけれど推進力はあるから…
受け身はなんとか取れたけれど地面に激突。
「こんのっ! ブライトバースト!」
私を見据えて魔力を解放。
光の爆発か。威力は王級…
「深淵の瞳」
まぁこれくらいなら私には効かない。
ギュインと吸収してやるとライラの目が見開き、全力で後退した。
流石はSランクの白獅子…危機察知能力は高い。
「…強い」
「ええ、私は強いですよ。悔しいですか? 人間に囚われて、また人間に敗けようとしている」
「うぅ…人間なんかに」
良いぞ良いぞ、八つ当たりに付き合ってやろう。
まだ成体じゃないから、心の成長も遅い。
恐らくライラは妹達を守ってきたんだろう。
ミイナとヤイナを守れずに自分まで捕まった…これはライラにとって凄い精神ダメージだ。
弱い自分への怒り…捕まった悔しさ…バラスに会えた喜び…妹達の為に自分は落ち着かなければいけない責任感から、情緒不安定な状態。
そこに現れた私という完璧な存在。
完璧だからこそ、突っ掛かりたくなってしまったんだね。
…言うよ、私は完璧だって。
「ライラ、あなたはどうしたいんですか?」
「……」
「解っている筈です。バラスさんの元で強くなっても、また人間に敗けるって」
「そんな事! ……くっ」
ライラは人間を憎んでいるのに、人間らしい心を持っている。
とても素敵な事だと思うのに、ライラはそんな自分が嫌いなのか…まっ、でもそれは知ったような事を言う私のエゴかね。
少し冷たい事を言うけれど、嫌われたらその時はその時で。
「もう一度聞きますが、どうしたいんですか?」
「……強く、なりたい」
「…どう強くなりたいんですか?」
「…私は…妹を守る力があれば、それで良い…」
「それは、難しい道ですね」
妹を守る力…それは妹よりも遥かに強くならなければいけない。
白獅子の能力には限界があるし努力をしても、少し強いくらいにしかなれない。
「そんなの…知ってる。だから…あの……」
……ライラはそのまま俯いて黙ってしまった。
姉の宿命か、わがままを言うのに勇気がいる。
気持ちが少し解る…いや、私はわがまま放題だったか。
「ライラ、お姉ちゃんだって…わがまま言って良いんですよ」
「…あの! あの…私…私を…強くして下さい…お願いします」
ライラが座った状態で頭を下げた。
チラリとバラスを見ると、任せるというように目を閉じた。
「生き方が変わりますよ。憎い人間達と過ごす事になります」
「構わない…それなら好きになる努力をするわ」
何か吹っ切れた表情になったな。
というか好きになる努力……なんだよ、私よりしっかりしてんじゃん。私の場合は嫌いなものは嫌いだし。
じゃあ…大丈夫か。みんなにも助けて貰おう。
「条件が二つあります」
「条件…なに?」
「一つは、人間の生活を学んで欲しい。もちろん働いて貰います」
「…人間の生活…分かった…二つ目は?」
「二つ目はこの剣…雪華を使いこなして下さい」
収納から一振りの白い剣…雪華を出してライラに渡す。
…雪華は私より、ライラが持っていた方が良い。
雪華を眺めるライラの目から、涙が零れ落ちている。雪華よ、ライラを守ってやんなよ。
「これ…は…なんか…凄く…暖かい…」
「この二つの条件は飲めそうですか?」
「ええ、もちろん」
「ふふっ、歓迎します。バラスさん、娘さんは預りますね」
『あぁ…頼む』
「姉さん…」
「お姉ちゃん…行っちゃうの?」
「お姉ちゃん、頑張ってくるからね」
ミイナとヤイナが悲しそうな目でライラを見詰めている…三人共連れて行きたいけれど、今は我慢だ。
ミイナとヤイナはバラスの元で修行…私は氷属性を教える事が出来ないから仕方ないか。
「それではまた来ます。ライラ、行きましょうか。私の事は……お姉ちゃんと呼んでも良いんですよ」
「…あっ…それは…ちょっと」
……えっ…断られた……えっ…お姉ちゃんって呼んでくれると思ったのに……
ライラがお姉ちゃんと呼べばミイナとヤイナも必然的に私をお姉ちゃんと呼んでくれる私の妹量産計画が脆くも崩れ去ったよ…ぐすん。
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