もちろん身体で返して下さいね

 

 バシュンと転移した先は、アース城のミズキの部屋。

 誰も居ないので幼女をベッドに置き、ミズキが来るまでリアちゃんとヘルちゃんと私で休憩をする事にした。


「そういえばヒロトは野放しにして良いんですか?」

「それは彼次第ね。監視はしているから、何かやらかしたら教えるね」

「それだと…やらかした後じゃないと対応しないのかしら?」


「そうね。彼は殺人を犯していないし、神獣と知らずに捕まえてアスきゅんを天使と知らずに剣を向けただけ。情状酌量の余地は有りと判断して契約で縛って解放ね」

「確かに殺しはしていませんね。まぁ帝国に居なければなんでも良いですが…」

「それもそうね。遠い国で英雄くらいにはなれそうかしら」


 ヘルちゃんはヒロトには興味無いみたい。私も興味は無いから、好きに生きれば良いし…

 ただヒロトは最強にはなれないかな。複製能力は無いし、一から努力する性格じゃない。


「暴風龍はヒロトと遮断しましたけれど、召喚出来るんですか?」

「出来ないよ。流石にあの魔法は没収」


「頭に血が昇ると街を破壊なんて有り得るわね。…やっぱり投獄しておけば良かったのよ」

「ふふっ、ああいうのは狭い範囲で俺つえーしてチヤホヤされていれば害は無いのよ」


「まぁ、そうですね。承認欲求が満たされたら調子に乗りそうですがもう会う事も無さそうですし……いや、利用価値はありますね」


 話していると、部屋の扉が開いてミズキと目が合った。ミズキの視線がゆっくりと部屋の中を回り、そっと扉が閉まる。

 見なかった事にしたんだな。

「姫、少し一人にさせてもらえませんか?」

「えっ、なんで?」

 あぁ…なるほど、王女が居るから追い返しているのか。


「ヘルちゃんは迷宮に潜った?」

「ええ、一回だけ潜ったけれど、アスティが居ないから寂しくて寂しくて辛かった。もういや」


「ヘルちゃん…じゃあ私の修行が一段落したらね」

「…待っているわ」


「ところでアスきゅん、裏世界で誰の所に居るの?」

「裏世界の天使様ですよ」


「…天使?」


 ルゼルの事はリアちゃんも知らないのかな?

 でも天使って私が勝手に言っているから、別の呼び方があるのかもね。

 難しい顔をするリアちゃんが新鮮で可愛い…ちょっ、ヘルちゃんお腹つねらないで。

 ヘルちゃん好きだよ。…あっ、睨まれた。


「あの、お待たせ…しました」


 王女を追い返したミズキが入って来た。

 リアちゃんにビクビクしている…普段キリッとしている人がビクビクしているとキュンだね。

 あっ…ヘルちゃん、拗ねないでー。


「ミズキちゃん、こっち来て目を閉じて」

「は、はい」


 強者には逆らわない…ミズキらしいね。言われるがままだね。

 リアちゃんが目を閉じたミズキのおでこに手を当てて光る玉を押し込む。

 ミズキがビクッと反応し、自分の中に入って来た力に首を傾げた。


「この能力は複製よ」

「複製?」


「ある程度の能力や技、魔法をコピー出来るの。使いこなせば他人に能力を渡す事も出来る。上手く使ってね」

「えっ…凄い…でもなんで…」


「ちょっと色々あってね。これはアスきゅんがミズキちゃんにあげて欲しいって。感謝しなさいよ」

「はい…レティ、ありがとう…」


「いえいえ、身体で返して下さいね」

「……」

 ……えっ、なに? 間違った事言った?

 ただであげる訳無いじゃん。

 私だけならまだしも、リアちゃんが動いているからね。


「じゃあリアちゃん、ラジャーナへ行きましょうか」

「えっ、もう行くの?」


「はい、また時間がある時に来ます」

「あっ、あのさ…相談なんだけど…」


「なんです? 何でも言って下さい」

「雷牙王の剣…私にも譲って欲しいなって…もちろんお金は払うよ」


 あぁ…そういえば私が素材を持っていたか。ヘルちゃんから聞いたんだね。

 ミズキの剣を見せてもらうと、魔鋼黒銀の剣という超高級品。でも使い込まれていていつ壊れてもおかしくない。

 災害級の魔物はスライムみたいな奴だったから素材も無かったみたいだし。


「お代は要りません。素材を渡しますので、ヘルちゃんとグンザレスさんの所へ行って下さい」

「いや、お金は払うよ」


「いやいや、今ミズキさんは私のですよね? だからお金なんて要りませんよ」

「……えっ?」


 私が深魔貴族討伐の為にミズキを雇っている形だから、私のだよ。報酬はちきゅうへ完璧な帰還。

 その為の経費だからミズキは払う必要無し。

 という事で素材を渡しておいた。


「とりあえずその剣だけでは不安ですよね…あっ、他の迷宮で剣を手に入れたので使って下さい」


 青い刀身の刀…名刀水鳥と、骸骨剣士の剣を渡す。これでなんとかしてくれ。これで私の剣は雪華、サンダーホークの剣、木剣、ミスリルの剣…か。


「わっ、刀…ありがとう」

「使った事あるんですか?」


「昔お爺ちゃんが持っていてね、こっそり抜いて遊んでいたら凄い怒られたんだー。なんか思い出しちゃった」

「ふふっ、そうですか。あっ、ミズキさんって自己流ですよね。無元流のコピーをしてもらうので一緒に行きましょうか」


 テーブルに外出中の札を置いて、ミズキを無理矢理連れていく。

 さっ、ラジャーナへ行きましょうか。


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