幼女が帝都を一人で歩く様子を思い浮かべて下さい

 

 とりあえず幼女の件は後回しにして、ヘルちゃん、バラス達の所へ向かう。通して下さーい。……あれ、通してくれない。

 仕方ないから飛び越えるか…とうっ!

 あれ? リアちゃん来ないの? あっ、ヒロトを見ているのね。


「ヘルちゃーん、終わったよー」

「あら、待っていたわ。どうやら私は魔物に囚われた皇女様みたいよ」


「帝国圏だから皇女ってバレちゃってたか。でも本物だから似合っているよ。あーれーって言って」

「いやよ」


「君達! その魔物は危険だ! 早くこちらへ!」


 バラスが衛兵さん達を睨み付ける中…三姉妹がバラスの上に乗ってお喋りしている…私も混ざりたい。

 衛兵さん達は大変だね。仕事だからバラスに対峙しなければいけない。後方に偉そうな人がいるな。衛兵の長か市長かな。


「ほらっ、アテアちゃん女神ですよね。みんな仲良く平和によいしょってやって下さい」

「えー、代わりに喋っての」


「働け。せめて神気くらい出して下さい」


 まぁ…こうなる事は解っていたよ。

 アテアちゃんがダラダラと神気を垂れ流し、大聖堂よりも神々しい雰囲気に変わった。これさえやってくれたらどんな幼女でも女神に見える。まぁ今回は私がそれっぽく見える仕様…

 ざわざわし始めたから、やりますかね。


「みなさんごきげんよう。私は女神アラステア様のお世話係をしている者です」

 ――ちゅーちゅー。

 折角代わりに喋ってんだから耳元で生クリームちゅーちゅーすんなよ。

 ――ざわざわ。

「――!」

 なんか言った?

 ざわざわしてちゅーちゅー聞こえる中で話し掛けて来たから聞こえない。

 生クリームを没収しよう。

 うわっ、幼女が凄く切ない表情でこっち見ている。終わったら返すから我慢してよ。


「私はこの街の市長をしているヌーザスという者です! 天使様にお会い出来至極光栄でございます!」


「いえいえ…お騒がせしました。実は神獣が人間に囚われまして…もう解決したのでみなさんを害するつもりはありません。安心して下さい」

「神獣様…まさか!」


「はい、こちらの少女達が誕生した際…女神アラステア様が立ち合いました。その証拠に白獅子でありながら人化しています」

「あぁ…なんという事だ…私達は女神様を敵に回したという事か…神獣様! 申し訳ありませんでした! おい! 武器を向けるな!」


 まぁ、そうだね。反省しろよー。

 アテアちゃんの加護を得た白獅子だから、捕まえたら罰当たり。主犯の罰当たりはヒロトだから、責めるならヒロトを責めてくれ。

 美少女監禁罪は重罪だよ。極刑だよ。

 幼女よ、ふて寝するな。


「バラスさん、用事を済ませてきますのでラジャーナで待っていて下さい」

『分かった。借りが出来たな…ありがとう』


 ほいほい貸しだよー。

 バラスは氷の道を作り、三姉妹を乗せて山の方に向かっていった。あっ、ヤイナちゃんが手を振ってくれた!

 またねー!


 バラスが去り、市長さんの方を見ると全員跪いていた…

 間違ってはいないけれど、なんか居心地悪いな。


「市長さん…あのヒロトという人はどや顔で神獣を捕まえて神獣の父親を卑怯な手で痛め付け私に剣を向けましたが、もう解決したので私は命を取りません」

「あぁ…なんと慈悲深い…天罰が下ってもおかしくない所業……では、私共が裁きを下します!」


「いえ、必要ありません。神獣を傷付け神獣の父親を痛め付け私に剣を向けただけですよ? もう裁きは下しています」


 美少女監禁野郎の所業は二回言って強調しておく。

 これで噂が広まる筈だから、帝国での生活が難しくなった。知り合いの周りをうろちょろされたらウザイからね。


 複製の能力は取り出したけれど、複製した力はそのまま持っているから余裕で生きられるだろうし。

 もう収まったからリアちゃんの所へ行こう。


「リアちゃん、何をしているんです?」

「ん? 契約魔法の説明」

 おっ、リアちゃんが脅している。

 これで心を入れ換えるなら良し。復讐に走るなら次元の狭間に死ぬまで閉じ込める契約……さっき槍で刺したのはこの契約の為か。

 リアちゃんの説明が終わり、ヒロトはとぼとぼ女子達の元へ向かっていった…あっ、女子達を返り討ちにしたけれど生きているかな? …多分大丈夫か。


「じゃあ市長さん、私達はそろそろ帰りますね」

「はい! 慈悲深い天使様のご恩は一生忘れません! ヘルトルーデ様も御無事で何よりです!」


「ええ、貴方の対応は良かったわ。この調子で街を守ってね」

「はい! あ、あの…ヘルトルーデ様は…天使様に成られたのでしょうか?」


「違うわ。私は…」「女神様!」


 おっ? なんかぞろぞろ来た。

 白い制服軍団…教会関係者か。

 ん? 幼女が起きた。


「イったん、帰るのじゃ」

「あらあら、一応部下でしょ。挨拶しないの?」


「あいつら面倒なのじゃ。ある事ない事教典に書きよってからに…仕舞いにはわっちの冒険譚まであるんじゃぞ?」

「宗教なんてそんなものよ。放置しているアラステアちゃんが悪いわ」


「いや忙しくての…仕事が終わるのも夜でな…それに大きな街は迷子になるから怖いのじゃ…」


 だから田舎町の教会に居たのか…

 田舎は夜なんて誰も居ないし…

 幼女が帝都を歩く様子を思い浮かべる…うん、迷子になるな。


「女神様ー!」


「仕方無いわね。みんな掴まって」

 幼女を抱えながらリアちゃんの手を握り、ヘルちゃんが反対側で手を繋ぐ。……リアちゃん、にまにましていないで早く転移しなよ。幼女がビクビクしているじゃないか…あっ、ビクビクしている幼女を楽しんでいるのか。


 幼女が悲しそうな顔になった所でバシュンと転移した。



 因みにこの街…天使降臨の地として有名になったみたい。

 演劇になるらしいよ。

 悪人から神獣を救う天使様の物語……

 アレスティア王女ブームから天使様ブームへ移行していくんだけれど……どちらも私なんだよね。

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