これが噂に聞く、ちーとって奴か
さて、高見の見物といこうかね。
星の上にヘルちゃんを前にして座って、ツインテールを一撫で。ブリリアントローズの香りを堪能しよう…
「アスティ、美聖女戦士ってどうかしら?」
「変身して戦いそうだけれど、それじゃあ私の語呂が悪いよ。美天使戦士になっちゃう」
「じゃあ美聖天使…いや、もうシンプルに聖女で良いわ」
「そだね。私は?」
「だ天使」
だ…って…堕なのか駄なのか、はたまた惰なのか解らないじゃん。
聖女ヘルと…だ天使アスティ。
っとイチャイチャしている場合じゃなかった。見物見物。
人々が逃げ、誰も居ない広場に対峙するバラスと…あっあれがヒロトね。先に動いたのは…
「おとさん頑張れー!」
きゃわゆい子。腕に繋がる鎖をジャラジャラさせながら、ピンッと立った三角の耳と同じように両腕を上げて応援している。
「ヤイナ、ぱぱは集中しているの。静かにしよ?」
「いやー!」
きゃわゆい子がヤイナね。この子はしっかりしていそうな雰囲気で少し丸っぽい耳。
「良いのよミイナ。お父さんの応援をしましょ…あの人間を殺して貰わないと…」
「う、うん。あの人間は許せない…」
「おとさーん! 人間殺せー!」
なるほど…元気一杯の三角耳がヤイナ。しっかり者の丸耳がミイナ。最後に喋った子がライラ…クール系で長めの三角耳。
覚えたぞ。
元気を取り戻した三姉妹が応援する中…ヒロトが剣を掲げて魔力を練り始めた。あの剣は見た事がある…雷牙王の剣だ。私が闘技大会側へ売ったもの…ヒロトが闘技大会で優勝したのは本当みたい。
「白銀獅子は氷属性…なら反対で攻めるのみ! フレイムソード!」
剣が炎に包まれ、周囲の温度を上げていく。
更に雷牙王の剣の効果で雷が発生…炎と雷だから剣聖リックみたいなスタイルかな。
『…氷の刃』
バラスの周囲に無数の刃が発生。ヒロトの向かって次々と射出した。
ヒロトそれを雷炎の剣で弾いている。中々上手い…でも、なんだろうこの違和感。
雷炎を周囲に飛び散らせながら範囲攻撃。まとめて刃を消し飛ばした。
「これなら余裕だな。行くぜ! 奥義・雷炎の鎧!」
ヒロトの身体に雷炎が纏わりつき…ってリックと同じ技!?
魔力の使い方もリックと同じ……じゃあリックの弟子という事…か?
『氷結葬送』
バラスが雄叫びを上げると、空中に氷の塊が無数に現れ落下してくる。
一つ一つは私より大きく、ギュッと凝縮された氷がヒロトに当たる寸前…雷炎の鎧が爆発するように肥大。氷を吹き飛ばしながら溶かしていく。
「まだまだぁ! 雷炎大樹!」
雷炎が大樹のように空へ伸び、全ての氷を吹き飛ばした。
…またリックの技だ。
バラスがその隙にヒロトの背後に高速移動。
「なっ!」
『氷爪』
ヒロトが気付いた時にはバラスの前足がヒロトの腹を抉っていた。バラス速い…いや、私のエナジースピードが解除されていないのか。バラスー、ずるいぞー。
ポタポタと腹部から血が流れ、ヒロトが苦しそうに顔を歪めながらも雷炎を飛ばして後退。剣を上に掲げて魔力を放出した。
「くっ…痛え…グレーターヒール!」
おー…腹の傷が治っていく。回復も使えるのは凄いけれど…魔力の使い方が違うし、魔力の質も違うからバラスが訝しげに見ている。
うーん…なんかおかしい。
『氷爪乱舞』
バラスが回復した瞬間を狙いすれ違いに脇腹を抉り、急旋回して肉球の強打撃。ヒロトが側面からくの字に曲がって吹っ飛んでいった…痛そう…
平行に吹っ飛び近くの建物に激突。
建物を破壊し瓦礫に埋まった。
「ミイナ、ヤイナ、応援しましょ」「おとさん格好良いー!」「ぱぱ…頑張って」
…バラスが私を見ている。
…最後までやらせろってか。
「ヘルちゃん、最後までやりたいってさ」
「そう…いざとなったら、私がなんとかするわ」
「頼もしいねー」
バラスは強い。でもヒロトは何か得体の知れない何かがある…不安だけれど、これはバラスの戦い。
バラスが魔力を高める…決める気か。いや、これを使う程に怒っている…
『青の魔導書、零の章。天より舞い落ちる雪が…やがて吹雪となりて…全てを閉ざす…生ある者が死に絶える絶氷…』
バラスの足元に大きな青い魔法陣が出現。
その間に瓦礫が崩れ、ヒロトが現れた。
「くっ…強え…っ! んだあれ…」
バラスの魔力に圧倒されている…
無理も無いよね、バラスって近接タイプの癖に魔力量が半端無いから…
ん? ヒロトが薄く笑って…
『我は歩く…この死に絶えた地を…我は立つ…この凍り付いた地を…孤独と引き換えに! 環境魔法・白銀世界!』
辺り一面に白銀の世界が広がる。
街の建物は凍り付き、バラスの魔力が支配する空間。
その空間で悠然と歩くバラスは王者の風格。格好良いわぁー。
ヒロトは震えてはいるけれど、バラスを落ち着いた雰囲気で見据えている…何をする気だ?
「はははっ、やっぱすげぇなぁ…異世界は」
『解放する気になったか?』
「まさか。俺、欲しい物は全部手に入れないと気が済まないんだ」
『そうか、死ね』
「死なねえよ…俺はこの力で最強になる! 魔眼解放・コピー!」
…なんだ? ヒロトからゾクリと来るような…魔力とは違う何かが放出された。知らない魔眼…というかやっぱり転移者だったか。
『何をしても無駄だ…白銀氷凍』
「おっしゃー来た来た! 環境魔法・白銀世界!」
『なんだと…』
……は?
バラスが支配する空間にヒロトの魔力が割り込んできた。
白銀世界を見ただけで発動…天才どころじゃない…いや、あの魔眼の効果…
「こりゃすげえ! 魔法凍結!」
バラスの魔法が停止…崩れ去った。
『……環境魔法派生・白銀氷壊』
「環境魔法派生・白銀氷壊!」
バラスとヒロト、双方の頭上に巨大な氷柱…
バラスの魔力操作そのままでの行使…私の視取りとは違う。
完全なる複製。
魔法や能力の複製は凄い能力。
確かに強い…戦えば戦う程に強くなる。
その内きっと私よりも強くなる。
まぁでも…こういうのは、なんか違うと思うんだよね。
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