お説教だぞー

 

 巨大な氷柱…白銀氷壊がぶつかり合い、激しい音を響かせて相殺。

 驚いた様子のバラス…それを見て得意気な表現を浮かべるヒロトが再び巨大な氷柱を生成した。


「もう一発行くぜ! 白銀氷壊!」

 バラスは即座に撃てない。

 氷柱が迫り、なんとか寸前で躱しながら氷のブレスを放つ。

 それもヒロトの氷の壁に弾かれ、接近して鋭い爪の斬撃。

 でも雷牙王の剣で受け流され…

『くっ…』

 力を逃がしながら上手く胴を斬られた。

 直ぐに氷で傷を塞ぐけれど、ヒロトの追撃。

「今だ! 雷炎大樹!」


 雷炎の柱がバラスを巻き込みながら上がり、バラスの身体を焦がしていく。バラスは耐えているけれど、長くは持たないかもしれない。

 ヒロトの氷耐性が上がったから分が悪い…

 あー…見てられない。でも…助けたらバラスは怒る。友としてバラスの戦いを見届けたい気持ちはあるけれど、友だからこそ戦いを邪魔する判断も必要だ。

 三姉妹が泣いている……なんだ? 雪華が…反応している。


『ガァァア! 氷刃乱舞!』

 雷炎大樹の中で氷の刃を乱射。

 ほとんど溶けて消えていく中…密度の濃い氷刃はヒロトを斬り刻んでいく。


「ぐぁぁあっ! 奥義・雷光昇炎斬!」

 耐えきれなくなったヒロトがバラスを斬り上げ吹っ飛ばす。

 膝を付き、呼吸を荒げながら剣に手を添えた。

 今度は剣が黒く染まる…闇属性も使えるのか。


「呪怨剣!」

 黒く怨念の籠った斬撃を放った。

 そのまま吹き飛ばされたバラスに直撃…効果は、身体能力低下か。

 ヒロトがゆっくりと移動して、三姉妹が入っている檻の前に来て魔力を込めた。


「黒のカーテン」

 黒い幕が檻に掛けられ、三姉妹の声も遮断された。何をする気だ?



「アスティ、そろそろ止めないの?」

「もう止めても良いんだけれど、次に何をするかによって対応は決まるかな」


「善なら交渉、悪なら敵対。だ天使らしいわね」

「リアちゃん曰く、転移者って扱いが難しいんだって。あの男を殺すのは簡単だけれどね」

 そこら辺にのたれ死ぬなら放置で良いけれど、ある程度力を手にした転移者って面倒らしい。今度詳しく聞こう。



『ガァァアア!』

 青い光が溢れ、バラスの身体を包み込む。氷の兜に氷の爪が装着された脚甲…魔爪だ。

 血を止める余裕は無いか…腹部からボタボタと血が流れていた。


「奥義…」

 ヒロトが剣を下段に構えて魔力を練り上げている。

 神経を研ぎ澄ませてバラスを待ち構えていた。


『終わりだ! 氷闘魔爪迅!』

 全身のバネを使って突進…身体能力が低下していても速い。

 一瞬で距離を詰め、魔爪を振り上げた瞬間…


「今だ!」

 ヒロトが少し横にずれて黒のカーテンを解除。


『っ!』

「ぱぱ…」

 バラスが硬直した…娘達が目の前に居たから…

 魔爪を振り下ろす事が出来ず…


「――剛炎牙突!」

 矢のように放たれた剣がバラスの胸を貫いた。

 …勝負あり、か。


『がはっ…』

「おとさぁん!」

「うそ…」


 胸を貫かれ、氷の魔爪が砕け散る。

 ヒロトが剣を引抜き、バラスに止めを刺そうと剣を振り下ろした。

「なに!」

 でも、その剣はバラスに到達せず…止まった。


 私がヒロトの剣を雪華で受け止めたから。…また雪華が反応した。…そうか…なんとなく解った。


「何者だ!」

『邪魔…するな…』


「はぁ…勝負は着きました。これ以上やるというのなら、私が相手をしましょう」


 何が邪魔するなだよ。無理しやがって。

 ヘルちゃーん、バラスを頼んだー。

「ご褒美頂戴ね」

 もちろん。


「それは俺の獲物だ! 何しやがる! っ! ぐぁぁあ!」


 掴み掛かって来たから雪華をシュッとやったら、ヒロトの腕がポトッと落ちた。私に触ろうとするからだよ。

 とりあえずこの男の事は後で良い…深淵の闇を与えて苦しんでいる隙にバラスに向き合う。

 お説教だぞー。

 そんな私の視線に、バラスの顔が歪む…おうおうなんだその態度はー。


「さて、バラスさん…貴方は何故直ぐにこの男を殺さなかったんですか? 単独で突っ走って最後なんて頭に血が昇った挙げ句、隙を見せて死にかけて……」

『これは…俺の…戦いだ…敗北は死』


「は? 馬鹿なんですか? 娘さん達をこれ以上悲しませてどうするんです? 言っておきますが、私は彼の代わりに怒っているんですからね!」


 雪華を掲げてバラスを睨む。

 星の魔力を雪華に込めると、淡く光り出し…バラスが気まずそうに視線を逸らした。


『…すまない…ネーヴェ』

「もう…雪華は馬鹿兄貴って言っている気がしますよ。とりあえず娘さん達に謝って下さいね。あっ、伏せて下さい。レーザーブレイド」


 三姉妹の檻をレーザーブレイドで焼き斬る。迷宮の扉よりも遥かに簡単だったな。

 中に入って鎖も断ち斬ると、ライラが私にお礼を言ってバラスに駆けていった。


「お父さん!」「ぱぱー!」「おとさーん!」

 ヘルちゃんの回復魔法で回復したバラスに三姉妹が駆け寄り抱き締めている。

 雪華が教えてくれた…この三姉妹は弟さんの娘達。

 …私が居なかったら二度も父親を失う所だったぞ。娘達も売られていたし…というか弟さんの娘って早く言えよバカバラスめ…


「で? どうして娘さんと離れて暮らしていたんですか?」

『…邪霊樹が近いからな…同じ役目を背負わせたくなかった』


「そうですか…ですがもう氷雪地帯には住めませんよ。人化出来る白獅子なんて人間達が欲しがりますから…私も含めて」

『…あぁ』


 まぁ…結果的に三姉妹が生きていて良かった。殺された状態で街に来ていたら大変だったよ。



「バラスさんは休んでいて下さい。ヘルちゃーん、ありがとね!」

「ふんっ、死んでいなければ余裕よ」


 ヘルちゃんは回復が終わり、三姉妹と一緒にバラスをモフモフしていた。流石は神聖魔眼を持つ聖女様。瀕死でも直ぐに回復してくれる。呪いも消してくれた。


 …戦闘が終わったから街の人が集まって来たな。ヒロトの連れも近付いてきている…

「くっ…そ…はぁぁぁ!」

 ヒロトはバチンと深淵の闇を払ったか。


「おや、抜け出せたんですね。迷い人さん」

「誰だか知らねえが…お前は俺を怒らせた! 人間相手には絶対負けねえ!」


 さてさて、バラスの戦いは終わった。

 良い感じに私へ怒りを向けているという事で…


「さぁ、掛かって来て下さい。私は…強いですよ」


 この世界の道理を教えてあげよう。

 話を聞かないようなら…まっ、その時はその時で。

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