モフモフ旅は直ぐに終わったよ…

 

 リアちゃんにラジャーナまで送ってもらった。

 ヘルちゃんも一緒なので、デートも兼ねている。


「アスティ、剣技大会…観に来て欲しいな」

「うん、行く行くー。丁度第二皇子も居ないし、こそこそすれば大丈夫。そういえば、商業都市でやっていた闘技大会ってどうなったの?」


「波乱だったわよ。直接観ていないけれど、凄い少年が現れたって…(元)剣聖セドリック・ノーザイエを超えると言われているわ。なんて名前だったかしら…ヒロト? タロト? そんな感じの名前」

「へぇー、そりゃ凄い」


 帰る時はチューを一回支払えば迎えに来てくれる。

 リアちゃんの通貨は私という…身体で払うを見事なまでに再現しているな。


「こんにちは、バラスさん」

「お久しぶりです」

『元気そうだなアスティ、ヘル。女神には会えたようだな』


「はい、お蔭様で女神様のお世話係をしています。ヘルちゃん、早速モフモフしよっ!」

「え、えぇ…」


 ラジャーナに来て真っ先にやる事…バラスのモフモフを堪能しよう。あぁ…気持ち良い…ヘルちゃんと一緒に真っ白いたてがみの中に顔を突っ込んで首をギュッてすると…眠気が…


『天使になったのか?』

「仮ですよ。私には私のやるべき事がありますし……あっ、北の氷雪地帯に案内して下さい」


『…自分で行け』

「嫌です。今日はバラスさんの背中に乗ってモフモフしながらヘルちゃんとデートをするのを楽しみにして来たんです。娘さんの所へ案内して下さい」


 どうせ暇なんでしょ。

 送ってよ。送ってくれないと私は離れないよ。

 ……おっ、観念したのか体制を低くしてくれた。ヘルちゃんを乗せてから飛び乗って、ヘルちゃんが前で私が後ろ。バラスはチラリと後ろを見て確認した後、北に向かって駆け足。


『娘に会ってどうするんだ?』

「ペッ…いや、お友達になって貰いたくて」


『ペットは駄目だぞ』

「解っていますよ。お名前はなんですか?」


『……ライラ、ミイナ、ヤイナだ』

「三姉妹…夢が広がりますね! みんなどんな子なんです?」


『…アスティと違って真面目だな』

「いやいや、私は常に真面目ですよ。ねーヘルちゃーん」


 失礼しちゃうな。あんまり寄り道しないし、物事に本気だから真面目だよ。

 そんな事言ったら美少女の二連尻を堪能させてやらんぞ。

 氷雪地帯まではバラス便に乗って五日以上…しかし、私にはルゼル直伝の強化魔法があるのだ!


「エナジースピード」

「きゃっ」

『ぬぉっ! 何をした!』


 ギュンッてバラスのスピードが急上昇…あっ、やばっ、落ちる。でも今ヘルちゃんのきゃっを聞けた。言った後に少し恥ずかしがって少し耳が赤い…可愛いのう。


「今、裏世界で修行をしていまして…強化魔法を使えるようになったんですよ」

『だからと言って急にやるな。転んだらアスティが一番危ないんだぞ』


「もう…優しいですね。でも駄目ですよ、私にはヘルちゃんという婚約者が居ますからぁ」

「もう…アスティったら」

『…落とすぞ』


 おー、くだらん会話をしている間も速い速い。

 五日の工程を一日に短縮出来るぞ。


 草原から、徐々に草がなくなってきた。


「バラスさん、あの山ですか?」

『違う。もう二つ山脈を越えてからだ』


「お引っ越しをしていたら悲しいですよね。何年会っていないんですか?」

『……二十年だ』


「いや、すみません。落ち込まないで下さい」

『落ち込んではいない。本当にそうかもしれないと思っただけだ』


 まだ成体になっていないから、定住する場所を変えている可能性が高いらしい。

 成体になるまで百年…産まれてから五十年…という事は…人間で言うと、十歳くらい?

 まぁ見た目が小さいバラスだから解るか。


「魔力は北にあるんです?」

『ああ、今詳しく調べるからちょっと待ってろ』


「えー…調べないで走り出したんですか? バラスさんこそ娘さんに会いたかったんじゃないですかー」

『別に良いだろ……ん? 近いな…あの山を越えたら直ぐだが…』


 近くか。地図を広げて見ると……山を越えたら街がある。娘は街に居るのか? 災害級の娘なのに?


 うおっ! ちょっ…急にスピード上げないでよ。

 ん? バラスが氷の板を出した。山の頂上に向かって伸びる伸びる…おー…その氷を駆け上がっていく。

 地面よりも氷の上の方が遥かに速い…流石は白銀獅子。

 ヘルちゃんはもうプルプルして縮こまっている…よしよし。


 直ぐに頂上に到達…眼下に広がる大きな街。


 …深淵の瞳で視力を上げると、街の中心に人集りがある。

 よく見えないな。


『すまん、先に行く』

「えっ…」


 ポーン。尻尾で私達は降ろされ、バラスは街へと駆けていった……

 バラスが去った後、氷の板がパラパラと崩れていく。それと同時に発生する冷気がひんやり。

 ヘルちゃんにくっ付いて暖め合おう。


「…降ろされちゃったね」

「ええ、そうね」


「ヘルちゃん…二人っきりだね」

「えぇ…アスティ、現実逃避は駄目よ」


 まぁ…そうだよねー。

 災害級のバラスが街に現れるとか…大事件だよねー。

 しゃあなしに…行くか。

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