邪霊樹を採りに行こう

 

「白雲! やっと見付けたわ!」

「あぁこんにちは王女さん。今日も可愛いですね」


「えっ? えっ…あの…」


 ……ほうほう。予期せぬ事を言われるとアタフタして、物語に出てくるヒロインみたいな反応…あざといような、女子らしいというか、むしろ私の世代はこの反応が普通なのか。

 あっブリッタさん、今日も素敵ですね! 休みの日はいつですか!


 そういえば、今まで興味が無くてスルーしていて今更だけれど…本当に今更だけれど…王女は長めのユルフワ金髪に青目がクリッとした癒し系の顔。まぁ素直に可愛いとは言える。


 隙だらけだな。アタフタしている王女に近寄り、髪を取り匂いを嗅ぐ。オレンジフルーレの花油は合っている…


「…その香り、似合っていますよ」

「…あなた…誰? 白雲はそんなに優しくない!」


「私をなんだと思っているんですか? 例え私と性格が合わなくても、王女さんは絵に描いたようなお姫様で可愛いくて性格も良い素敵な方だというのは認めています」

「うぅ…調子狂うわね…」


「意地を張って綺麗な花を綺麗と言えない人間になりたく無いので」

「そ、その考えには…同意、するわね」


 同意はしても、実行出来るかは別。性格が合わないと言った事に否定をしない所をみると、王女もそう思っているんだな。


「ところで、王女さんは将来どうするんです?」

「どうって…帝国第二皇子のリーセント様と結婚するわよ」


「良いんですか? 帝国の方と結婚したら、ミズキさんとはお別れですが…」

「……なんで?」


「いや…ミズキさんは帝国に住みませんよ。待遇悪いですし」

「えっ、嘘よ。ミズキは一緒に居てくれるって言った!」


 その考えは甘いな。ミズキは帝国に来たら平民以下の女性だ。平民を雇うという事は、リスクがある。

 とりあえずアース王国所属の平民…この時点で詰んでいる。何かあれば全責任は王女。ふとした事で雇い主の王女の悪評が広まり、ある事ない事噂が飛び交う。当のミズキは陰で虐められる。

 他にも色々あるけれど、ミズキを想うなら帝国には連れて行けないぞ。


「理想と現実は違います。ミズキさんを守るなら帝国の法律を全て暗記しないと話になりませんよ」

「くっ…わかっているわよ」


 今…ミズキが故郷に帰る為に頑張っている事は、まだ伝えられていないのか。ミズキさんや、早く伝えないと大変だぞ。


「…聞いて良いですか?」

「…なに?」


「王女という身分を捨てる事が出来たら、どうしますか?」

「……そんな事…考えた事も無いわ」


 …そっか。愚問だよね。

 私が道を示すのは筋違い…か。


「失礼しました、忘れて下さい。では…」

「…何処へ行くの?」


「野暮用ですよ」

「そう……あの、あなたが来てからミズキが明るくなった。…ありがとう」


「いえ、恩を返しただけです」

「その恩を、聞かせては貰えない?」


「私は構いませんが、全て話すにはアース国王の許可が要ります。どうしても私とミズキさんの関係を聞きたいのなら、国王に頼んでみて下さい」

「お父様の…」


 ブリッタさん、気まずい顔は駄目ですよ。王女さんに知る権利はありますから。

 王女は薄々気付いているかな。美少女グランプリの時に会った奴だって。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 さて、邪霊樹を採りに行こう。

 場所はエライザの地図によれば王都から南。日帰り可能な場所。


 ミズキは迷宮に潜るというので、ミズキの部屋に転移ゲートを置いてきた。

 流石にあの迷宮で一人は辛い…丁度私の部屋にフーさんが居たから、ミズキを頼んでみたら快く了解してくれた。あとエーリンも置いてきた。

 ミズキがフーさんにアレコレされていない事を祈るばかりである。


 早速星乗りで南へ向かおう。


「はぁー、気持ち良いなー」

 星の上で大の字に転がり、薄く雲の掛かった太陽を眺める。


 …将来かぁ。


 特事官は休職中だから、続けるか辞めるかハッキリさせないと中途半端だな。三年経てば、第一皇女の流れが変わっている筈だけれど…誰と結婚するかによって変わるか。

 でもあの皇女が嫁ぐなんて無いだろうし、釣り合う男を探すのに苦労しそう。


 うーむ…私は大丈夫だけれど、友達が害される可能性があるからなぁ…


 ……結局は第一皇女が皇帝になってしまえば、私は帝都を堂々と歩ける。

 かと言って味方をする気にはならない。


 良い方法は……

「…あっ!」

 あぁー…そうか…同じ土俵で考えるから駄目なのか。

 私は天使…アテアちゃんは女神…そしてヘルちゃんは隠れ聖女…

 もうこれだけで素パン一斤食べられる…いやそうではなくて、もっとこう…なんだろ、可能性がありすぎて考えが纏まらない。


 うーん……

 うーん……

 アテアちゃんがお姉さんモードになってくれたら早いのに……

 んー……その前に私は長生きしないと……

 んー……


 あっ、この感覚…着いた?


 広い草原の丘に、黒い樹…邪霊樹が見える。

 螺旋を描いた枝にヤバめな雰囲気が懐かしい。


 邪霊樹の前に降り立ってみると……ラジャーナの邪霊樹より小さい。私の身長くらい…若い樹なのかな。


 試しに深淵の瞳で視てみる。

 …お? 分類的に樹というより、魔導具に近い? エネルギーが幹に集中している…根っこはただ地面に刺さって安定させるもの…だから幹が重要。枝はアンテナ…根っこは要らないけれど、切るとエネルギーが漏れて地面に逃げる。


 でも私なら深淵の瞳を使えば邪霊樹の形を変えられる!

 凄いね私!


 早速幹に触れて、深淵の力を同調させる。

 先ず根っこは要らないから、根っこが縮むイメージ…むしろ全体的にコンパクトにしたいから、収縮…収縮…収縮…よっしゃ手の平サイズ!


 土を入れた鉢を用意して、邪霊樹をブッ刺せば完成。


 ミズキに感謝だ。

 これでいつでもどこでも裏の夢を見られる。


 さっ、帰ったら早速寝んねしよう!

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