エライザの迷宮というらしい
あの後はさっさと帰った。
それぞれ微妙な表情を浮かべていたけれど、他言はしないだろう。他言すれば国の不利益だから。
私とミズキは良好な関係を築いていると伝えたら、安心した様子だった。ミズキに感謝しろよおめーらー。
「じゃあ封印を解きましょうか」
「なんか、緊張するね」
私は地味黒メイドの姿に戻り、ミズキと封印された迷宮の前に立っていた。
もちろんアテアちゃんは邪魔なのでパンパンに置いてきた。少し不安だけれどパンパンのみんなはアテアちゃんに優しいし、女神だと気付いているのは極僅かだからなんとかなるだろう。
目の前には、封印された壁。
入り口の部分だけが壊せないようになっているので、周りの壁をゆびーむで焼き切って穴を開ける。
そこから槍を突っ込んで引っ掛け、グイッと引けばくり貫かれた壁が倒れて入り口がこんにちは。
「解けましたよ」
「壁くり貫いただけでしょ…こんなんで入り口に入れるんだね」
見た目は迷路型の迷宮。灰色のレンガが積み上がった壁が続くタイプ。長い間放置されていたからカビ臭い。
「触りだけでも視ますか」
「緊張するね」
内部を視ながら迷宮へと足を踏み入れた。
最初は下りの階段。流石は迷宮というべきか、壁に設置された燭台に火が灯り、階段を照らしていた。
「ミズキさんは、迷宮に潜った事はありますか?」
「うん。この世界に迷い込んで、最初は迷宮で稼いでいたんだ」
「どこの迷宮です?」
「帝国。迷い込んだのはアースとの国境だから、その付近」
「へぇー、ミズキさんの記憶はサラッとしか視ていないので、色々質問させて下さい」
「良いよ。私もレティの事聞きたい」
階段が終わり、十メートル四方の小部屋に到着。前、左右に扉があり、中央には一メートル程の小さな噴水。噴水の水を視ると、魔力を回復する効果があった。飲んでみるとほんのり甘い。
「休憩所ですね。各所にあると思うので、長期滞在が可能…割りと大きな迷宮ですね」
「早速行ってみようか」
三つの扉、堂々と真ん中を行こう。
通路はミズキと手を繋いでお互いに両手を広げた幅よりも広い。快適通路だ。
「あっ、魔物ですよ。頭が牛、ガチムチの身体に、脚が蜘蛛。脚が最悪な魔物ですね」
「どれかに統一してよ…いや、蜘蛛は無理。シャイニングアロー」
ミズキが光の矢を飛ばして、牛の頭を貫いた。
……脚がワシャワシャして、こっち来たよ。きもっ。
「うわぁぁ! 無理無理! 光の壁!」
光の壁が出現して、牛頭がごっつんこ。そのまま光に焼かれて、魔石を残して灰になった。
強さは…BかAランクか…
「まともに戦える魔物は少ないかもしれませんね」
「これは…気をしっかり持たないとキツイね…」
「倒しやすくて実りの多い魔物を探しましょう。罠は無さそうですが、キモいのが沢山居ますね」
「うげぇ…あっ、また来た……ひっ!」
あー…骸骨剣士……になる前。内臓残ってんぞこら。
「ゆびーむ」
ばしゅん。あー…おいにーばいやーだなぁ……魔石は、Aランク。実りは良いけれど、一人で来るのは精神が保たない。三人以上推奨だ。
ここに来れるのは、フーさん、エーリン、クーちゃん、ヘルちゃんくらい。
フラムちゃん、シエラ、ベラ辺りは剣主体だから相性が悪い。
ミーレイちゃんは戦闘向きじゃないし、チロルちゃんはメンタルがクソ弱いから来られない。
更に進んでいくと分岐が多く、繋がっているから迷いやすい。
みんなの為に地図を書きながら、あっまた魔物…
「……ちょっとここの魔物おかしくない?」
「興味深いですね。今度は身体の前と後ろに顔があるトカゲ…ウンコはどうしているんですかね」
「そこ気になる? シャイニングバレット」
「気になりますよ。仕事柄魔物の生態とか調査しますから」
「じゃあこの迷宮はどうして変な魔物なのか考えよう」
「理論は別として、答えはあります」
「へぇー、凄いね。教えて」
「可愛いく教えてって言ってくれないと嫌です」
「あの…レティ、教えてぇ…欲しいなぁ…」
もじもじしながら少し下唇を噛んで上目遣い…中々良いね。
「良い感じですので答えは教えましょう。ですがキュンが欲しいです。ミズキさんからのキュンが欲しいんですよ」
「…ムズい」
「それは追々。答えは魔物同士が合体している…ですね」
「なるほど…合成魔獣キメラみたいなものか…」
だから序盤で強い魔物が出てくる。
理論は解らないけれどね。そういう迷宮だと思えば良いか。
今度は頭から大きな木が生えたゴブリン。
…よく安定しているな…合体したら最適化するのか。
「ゆびーむ」
『ギャァアア!』
「…大きさによって合体出来る数も違うのかな?」
「確かに…最初の奴は三体合体ですもんね。もうすぐボス部屋っぽいですよ」
最短距離を進んで、鉄の大きな扉に到着した。
開けてみると……うん。
「まぁ…なんとか倒せますね」
「うん…直視出来るね」
蛇の身体に翼が生えて、昆虫の脚。天辺から大きな木を生やしたタカの頭。
統一感を出しなよ…特徴が大渋滞しているじゃん。
「結局、どれが元々のベースなんですかね。蛇かタカですよね。ゆびーむ」
「意外に木かもよ。光の鎖」
飛ぼうとしていたのでミズキが鎖で拘束し、昆虫の脚を焼き切っていく。
――キュフォォオオ!
なんか叫んでいるけれど、なんか微妙…タカの声で良いのか?
体力ありそうだから攻撃を続けよう。
「これからこんなボスが待っているなんて、ワクワクしますね。ゆびーむ」
「不安しか無いよね。レティも参加してよ。光の刃」
「私は私で修行があるんですよ。お城に居る時間も減りますし…ゆびーむ」
「邪霊樹だっけ? 城に持って来れないの? シャイニングブラスト」
「前に枝を持ってきたんですけれど、無駄でした。ゆびーむ」
「全部持って来れば良いじゃん。レティが城に居てくれるだけで、凄く安心するよ?」
「おっ、今の良いですね。ちょいキュンです。ゆびーむ」
「やった。ゆびーむ以外に魔法使わないの? シャイニングバレット」
「私はあくまでサポートですよ。全部持って来る案は良いですね。試してみます…あっ、死にましたね」
あのごった煮魔物はSSランクかな。
魔石は歪な形。合体の線が強いね。
「実際これくらいなら、レティが居なくても大丈夫か…レティもエルドラドに来てくれるの?」
「それも追々決めます、あっ王女はどうするんです? 一緒に行くってうるさいですよ」
「そこなんだよね。姫は私を好き過ぎて、将来が不安でさ…」
「将来ですか…王女さんは帝国の皇子が本当に好きなんですか?」
「さぁね。姫は恋に恋するタイプだから、思い込みや責任感で皇子が好きなのかも。本当に好きかは別…って最近思うようになったかな。レティのお蔭で」
「ふふっ、もし王女さんがミズキさんを愛しているのなら…三角関係ですね」
王女はノーマルっぽいけれど、ミズキは別腹ってタイプかな。王女という立場が邪魔をして、気持ちの解放には至っていない。
「まっ、姫に限ってそれは無いでしょ」
「どうですかね。意外にド変態かもしれませんよ。そろそろ戻りますか」
とりあえずの確認完了。
今度は違う道から帰る事にした。
「あっ、ミズキさん。逃げます?」
「えっ、何が…来るの?」
「ナメクジの皮を被ったゴブリンがキモい足の生えたカタツムリの上に乗っています。数は二十…視界に入るまであと十秒」
「情報の癖が強い! 逃げよう! あぁなんかカサカサ聞こえる!」
私が行く先の指示を出しながら、ミズキを先頭にして走る。良い感じにプリッとしているミズキのお尻を眺めながら……ん? あれ?
「なっ! ミズキさん!」
「えっ今度は何!」
「なんで今日はTバックなんですか!」
「何故今言う!」
「だっていつも普通のパンティじゃないですか! もう一度言いますがどうしてTバックなんですか! ミズキさんのパンティラインが全力疾走で少しずつズレていく様をワクワク拝もうとした私の純情を返して下さい!」
「それは純情じゃない! ツンツンすな!」
くそっ、私の楽しみを奪いやがって…
……でもお尻自体を楽しめるし…ミズキがTバックの時点でキュンだぞ…ここに隠れキュンが潜んでいたか! 素晴らしい!
「あっ、そこ左で最初の扉です」
「了解!」
左に曲がり扉を開けて避難。
噴水の部屋に戻って来た。
「ふぅ、少し疲れましたね」
「はぁ……精神的にね……」
「癒してあげますよ。隠れキュンのお礼です」
「ちょっとよく解らないけど…お願いしよっかな」
さて…お次は忘れない内に邪霊樹を採りに行ってみよ。
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