正直、聞きたい事を聞けたから、居なくても話が進むんだよね…

 デートは、まぁ…楽しかったけれど割愛しよう。

 デートというか…私がアラステア様にひたすら餌付けをして、それをリアちゃんがパシャパシャ撮るという…

 裏美少女アルバムの袋とじらしい。裏美少女アルバムってなんぞや。出来たらおくれ。


「……のうアレスティア」

「なんですか?」


「結局わっちは何をするのじゃ?」

「……マスコット的な?」


 現在、ミズキの部屋でアラステア様とゴロゴロしている。

 王女が空気を読まずに公務中。ミズキがその護衛をしているので、暇を持て余していた。


 さっきパンパンに行ってアラステア様とご飯を食べて来たけれど、エーリンはモキュモキュご飯を食べるアラステア様の頭を撫でて終わり…特に反応無しだった。正直、アラステア様は居ても居なくても……いや、考えるのはよそう。


「…休暇と思えば良いのじゃな。お昼寝して良いかの?」

「どうぞ。……アテアちゃん」


「……照れるの」

「可愛いですね。おやすみなさい」


 アテアちゃんで良いらしい。素直に嬉しい。出来ればお姉さんモードのアテアちゃんを拝みたい。

 私はすーすー眠るアテアちゃんを眺めていたいから起きていよう。


 ……ん? なんか部屋の前に誰か立ち止まっている。数は三人。

 カチャリと扉が開いて、出てきた人は……男? 歳は十六くらいか? 後ろの二人はお付きかな。


「「……」」

 目が合った。なんだろう…凄くビックリしている。私もビックリだよ。女性の部屋に無断で入るなんて、ただの痴漢じゃないか。


「今この子がお昼寝中なので、出ていって貰えますか?」

「あ、あぁ…」


 パタリと扉を閉めて、素直に出て行った…なんだあいつ。怖いから私の部屋に行こう。現在アテアちゃんは誰にでも見れる状態らしいし…

 転移ゲートを部屋の隅に置いて、アテアちゃんを抱っこして部屋に戻った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ふみゅ? アレスティア…ここ何処じゃ?」

「私の部屋ですよ。変な男が入って来たのでこちらに移動しました」


「女神の寝込みを襲うとは、罰当りじゃな」

「あっ、それ良いですね。見掛けたら言いましょう。そろそろ帰っているかな…」


 アテアちゃんがおやつの時間ピッタリに起きたので、そーっとゲートを開いてみる。

 ……椅子に座るミズキと目が合った。凄く横を目配せしているので誰か居るのかな。もう少し顔を出して部屋の中を見ると、さっきの男が居たので顔を引っ込めてゲートを閉める。


「アテアちゃん、ミズキさんは逢引き中です。邪魔をしては駄目ですね」

「そうじゃな。書き置きくらいはしておいたらどうじゃ?」


 なるほど。

 一筆書いてゲートの隙間から紙を通す。

 内容は『太もものチラリズムが素敵ですね!』

 ……直ぐにクシャッという音が聞こえたので、パンケーキを食べてから黒メイド服に着替えて地味眼鏡を装着。

 とりあえず私一人だけミズキの部屋に入る事にした。


 そーっとゲートから中を覗くと、ミズキと例の男と知らないメイドさんと執事っぽい人。話に夢中なので気配を消して中に入った。執事さんがこっちを見ている…こんにちは。


「ミズキ、今度のパーティーのダンスだが曲目が少し難しい。俺も手伝うから頑張ろう」

「何度も申し上げていますが、パーティーには出ますがあくまで護衛としてです」


「もう決まっているんだ。レインの王族も来るし、今回は帝国の皇子が来るかもしれない。肩身が狭くなるぞ」


 パーティーのダンスって面倒だよねー。私は幼少期に陰から眺めていただけで、ほとんど参加した事無いからルールなんて忘れたよ。一回踊ればなんとやら、同じ男と二回踊ればなんとやら。

 ミズキのメンタルだと緊張するよね。戦いとは違うし…戦いか。


「……」

「…とにかく、練習はするぞ。ん? メイド?」


「ミズキさん、仮病を使う場合は結局体調不良が一番効果的です。罪悪感を感じる必要はありません。身体の不調も心の不調も自身が弱っているサインだからです。さぁ、開き直って仮病を使いましょう!」

「……レティ、凄く説得力のある説明をありがとう。相談聞いて貰える?」


「良いですよ。ドレスを着て知らない男とダンスを踊るのが恥ずかしくて嫌で耐えられないんでしょう? 私に名案がありますよ!」

「私の心を視ないでよ」


「いえ、視なくても解ります。私も似たようなものでしたから。あっ、申し遅れました。レティと申します」


 おでこに手を添えてピシッと敬礼して、初対面の方と挨拶。

 みんな地味眼鏡黒メイドには興味無さそうだな。なんだこいつという目を向けられた。


「メイドがしゃしゃり出るな。お前何処の所属だ?」

「…それで名案ですが、三つあります」

「三つも? 教えて」


「おい、俺の話を聞けよ」

「一つ目は最強の仮病を使う。二つ目は別の演目をしてダンスを踊らなければ良い。三つ目はあのお方がパーティーをやめさせる。ザックリ言うとこんな感じです」

「一つ目気になる」


「執事、あのメイドを摘まみ出せ」

「一つ目はですね、私がミズキさんにわざと病気を植え付けるんですよ。これで本物の体調不良です」

「それは凄い。どんな病気?」


 ……執事さんが私の所に来て、私の事を見据えた。何か喋ろうとした所で、私のメイド服に気付く。私はニヤニヤ笑い掛けてあげると、一礼して元の位置に戻った。


「何故戻った? ……なに?」

「普通に風邪ですよ。発熱は三十九度以上」

「えっ、ちょっと高過ぎない?」


「妥当だと思われるのは三十八度ですが、今回はギリギリまで上げないといけません。少し辛いですが、頑張ってください」

「頑張る。……ってこれを完全に聞かれたから仮病は難しいね」


 むっ、そうか…仮病を受け入れてくれる環境じゃないのか。じゃあ二つ目か三つ目。

 二つ目の場合、私も護衛としてパーティーに参加する必要がある。

 三つ目の場合、幼女アテアちゃんが表に出なければいけない。

 ……みんなが女神だって解れば良いんだけれど、あのぐうたら女神に威厳も何も無いという…まぁ王の側近には会わせよう。


 …結局ミズキが頑張れば良いんじゃない? 私は仮病になると熱く語ってしまう癖があるだけで、ミズキが踊れば万事解決。


「という事で行きましょう。これを嵌めればあのゲートに入れます。後で返して下さいね」

「脳内会議で解決しないでよ…もう…解った」

「二つ目なら考えましょう」


「おい、お前何者だ?」


 ミズキとゲートに行こうとしたら、男が呼び止めた。

 無視しても良いんだけれど、ここは相手をしてやろう。


「私はとある方の使いです。あなたこそ名乗りもしないで人を探ろうとしないで下さい」

「……アリーモブナ・アース・ユスティネだ」


「そうですか。あなたはミズキさんの恋人ですか?」

「えっ、いや、違う。妹を守ってくれているから…」


「では容赦をする必要はありませんね。ミズキさんの部屋に勝手に入り、あのお方の寝込みを襲おうとしたのは、アリーモブナ・アース・ユスティネという者と伝えておきます」


 ミズキー聞いてよー。こいつ勝手に入ったんだぞー。

 あっ、ミズキが引いてる引いてる。


「えっ…いや、違う…違うぞ!」


「あのお方が言っていましたよ。恋人でもない女性の部屋に勝手に入った時点で痴漢…と」

「そ、それは…すまない! 謝らせて欲しい!」


「いやいや、先ずはミズキさんに謝るべきでしょう。勝手に入るなんて私なら即刻出ていくレベルですよ。あれですか? 女性軽視ですか? 迷い人軽視ですか? ミズキさんは私の恩人です恩人を軽視するというのなら私はあなたは敵です心からの謝罪をしない限り許しません例えあなたの身分が高かろうが関係ありませんさぁ! 何をしているんです? 謝らないんですか? 早く謝って下さいよさぁ早く早く早く!」


「それは……いや、ミズキ…すまない…」

「ミーズーキー! …あれ? お兄様と…あっ!」


 あぁ…もう…早く謝らないからうるさい王女が来てしまったじゃあないか……折角追い込んだのに。

 ズンズン音を立てて入って来やがった。


「シラクモぉ! あんたねぇ! 帰って来たなら直ぐに言いなさいよ! 準備するこっちの身にもなりなさい!」

「白雲ミズキさん、呼ばれていますよ」


「いや、ほんとマイペースだね」

「気の合わない方にペースを乱されるのは嫌なので。では、邪魔が入ったので暇な時に私の部屋へ来て下さい」


 転移ゲートの指輪は渡してあるから、後はミズキがみんなを振り切って来れば良い。


「待ってくれ! 俺もあのお方に会わせて欲しい! 謝りたいんだ!」

「…きっともう気にしていませんよ。私のように根に持つタイプではありませんので…では」


 まぁアテアちゃんは寝ていたし、気にしていないからね。

 ばいばーい。


「シラクモぉ! 私も連れて…」

 パタン。

 王女が何かを言っていたのは気のせいだろう。


 部屋に戻ると、アテアちゃんが薄い本を読みながらニヨニヨしていた。

 ……それ私の薄い本じゃないね。

「アテアちゃん、それ誰の本です?」

「イったんが昨日通販で買うてくれたのじゃ」


「えー、良いなぁー! 一緒に読みましょう!」


 ミズキが来るのはどうせ夜だし、アテアちゃんとか薄い本とかを楽しもう。

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