強くならなきゃ、ね

 

「お邪魔しまーす」

 夜になってから、ミズキが私の部屋にやってきた。

「いらっしゃいませ。少々お待ち下さい。そろそろ良いところなので…」

「あっ、うん。絵本かな?」


 ミズキが椅子に座って私達を眺めている。

 今ベッドでアテアちゃんと一緒に薄い本を読んでいた。私の前にアテアちゃんが座って、仲睦まじい様子をミズキが微笑んで眺めている。ちょっと待ってね。


「ケンジ…好きなんだ。俺のものにしたい…全部俺のものにしたいんだ…頼むよ…大好きなんだ…」

「やめろよ…こんなところで…俺…お前のものとか嫌だよ」


「ケンジ…そ、そっか…ははっ、そうだよな…」

「全部俺のもの…全部…お前のものが良い」


「っ! ケンジ!」

「…行こうぜ…俺達だけの…世界に」

「……」


 抱き合う姿に、全私が泣いたよ。


「「はぁ…尊い…」」

「……」


「お待たせしました。やっぱり夜になりましたね」

「えっ、あっ、うん……ちょっと…絵本にしては…過激だね」


「あっ、読みます? 貸しますよ」

「いや、大丈夫」


「どうせ真面目な本しか読んでいませんよね。たまには気晴らしして下さい。王女には見付からないようにして下さいね」

「えっ、こんなに…あ、ありがとう?」


 読み終わった薄い本をミズキに渡して、さて本題だ。


「じゃあ、質問があればこのアテアちゃんにどうぞ」

「アテアちゃん?」


「わっちがアラステアじゃ。迷いし者よ」

「えっ……アラステア様……はっ、はじめまして! 白雲水城しらくもみずきです!」


「聞きたい事があるんじゃろ?」

「はっ、はい! 元の世界に帰る方法を教えて下さい!」


 ミズキが立ち上がって、期待した目をアテアちゃんに向けている。

 でもアテアちゃんは首を横に振った。


「そんな…」

 女神の答えを聞いてしまったミズキが、へなへなと椅子に座って項垂れてしまった。まぁ、故郷に帰れないと解ったら…私でもへこむ。


「わっちの力では無理じゃが…方法はあるの」

「っ! 教えて下さい!」


「自分の運命に感謝するんじゃな。アレスティア、説明してやれの」

「はい。ミズキさん、エーリンを呼ぶので少々お待ちを…エーリーンおいでー!」


「はいー」

 うぉっ、直ぐに来た。

 扉の前で待っていたのかよ…あっ、レーナちゃんが聞き耳を立てている。めっ、だよ。


「エーリンにも関係している事だから、ちゃんと聞いてね」

「はいー。いつも真面目ですよー」


「では…帰る方法ですが、ただ帰るだけなら今すぐに帰る事が出来ます」

「どうやって!」


「まぁ、落ち着いて聞いて下さい。それは、ただ帰るだけで良いですか?」

「どういう…こと?」


 えーっと…ここからはリアちゃんの台本通りに喋らないと、また拗ねてしまう。普通に教えたいのに…楽しんでいるリアちゃんを想像すると……可愛いな。


「ただ帰るか…それとも迷い込んだ時間に帰るか…それともそれとも、迷い込んだ時間にその時の姿で帰るか」

「……あの時に…帰れるの?」


「それは、ミズキさんの選択次第です。物事は等価交換ですから」

「等価交換…何を…すれば良いの?」


「単純に、大きな功績ですね。ただ帰る場合は、災害級を討伐した功績があるので達成しています。迷い込んだ時間に帰る場合、災害級の上…害のある超越級の討伐。そして、若返りも付けると……知りたいです?」

「もちろん! 教えて!」


「どうしよっかなー…きゅるん」

「「「……」」」


 いや、これ台本通りなんだよ。少し首を傾げて人差し指をアヒル口に当てるっていうね…察してくれ。


「この世界に、深魔貴族と呼ばれる裏世界の強者が現れました。その深魔貴族の討伐です」

「深魔貴族…」


「エルドラドの、とある一族を滅ぼした蒼き魔物…」

「アレスティア! なんで…知っているんですか…」


「私を誰だと思っている…らぶりぃぷりちぃアレスティアちゃんだぞ?」

「……真面目に答えて下さい」


 ごめん台本通りなんだ。睨まないでおくれ。こうやって舌を出しながらキメ顔をしないと私も代償を払わなければいけないんだ。私が困っている様子をリアちゃんは眺めているんだろうな…


「ここまでがこの台本通り。それでね、エーリンのゴールについて考えたんだ」

「……もうゴールなんて…解らなくて良いです」


「最近、何を占った?」

「…アース城についてです。地下に迷宮が視えました」


「アース城に迷宮? そんなの知らない」

「やはりそうですか。私も城を探索して視たのですが、遠い昔に封印された場所がありまして…入口も埋められていました」


 夜中の暇潰しに城の探索したら、迷宮の入口を見付けた。昔に封印されて多分国王くらいしか知らない迷宮…


「そうなんだ…古い資料を見れるか聞いてみる」

「お願いします。恐らくその迷宮の奥…それがゴールと推測します。もちろん、ミズキさんも行った方が良いですね」


「私も?」

「はい、深魔貴族は…強さの次元が違います。今の私が反則技を使って倒せるかどうかですね」


 反則技は…死なない魔法を使い、魔力を回復させながらひたすら遠くから星を落とし続ければインガラなら倒せるかも。蒼き魔物がどの位置にいるかが不安だけれど…


「……もっと、強くならなきゃ駄目なの…」

「はい。正直パーティーなんて出ている暇があるなら迷宮で修行して欲しいですね。今の三倍は強くならないと死ぬ確率は高いです」


「……はぁ…そんなに強いの…」

「恐らくは。エーリンはどうする? ミズキさんと迷宮に行く?」

「行きますよ…アレスティアは、行かないんです?」


「私は、最初以外はほとんど参加出来ないと思う。時間があったらちょいちょい参加すると思うよ」


 エーリンとミズキは迷宮で修行…或いは強力な武具を手に入れる。二人の探索は辛いから、ヘルちゃんやクーちゃんとかにも声を掛けて、手伝ってもらおう。


 あの迷宮は、パッと視た感じ…高ランク迷宮。

 先ずは何故封印したのか調べる事と、迷宮探索許可、アテアちゃんの相手、リアちゃんの相手、邪霊樹の所に行く、部屋の確保、あとは…あとは色々…なんか、帝国に居なくても…なんだかんだで忙しいなー。



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