お腹ぷにぷに

 凄く嬉しそうなリアちゃんが、台座の上に女神像と同じ祈りのポーズで現れた。桃色の髪が月の光で輝いて…なんかもう、アラステア様より女神感が凄い…

 アラステア様が特に突っ込みを入れない所を見ると、これが二人の日常なのか。


「アラステアちゃん、久し振りー」

「御歳暮以来じゃな…らーめんってやつ美味しかったから全部食べてしもた。また送ってくれの」


「えー、一年分あったじゃないの。もう食べたの?」

「一日二袋食べたら半年で無くなってしもた。ぎょうざとちゃーはんもあったから…つい」


「もう、相変わらず食いしん坊ねぇ。じゃあしばらくアスきゅんの言う事を聞いたら送ってあげる」

「むぅ…仕方が無いのう…でもわっちが抜けると大変じゃぞ?」


「あら、じゃあ誰か寄越すわ」


 普通の会話なようでちょっと違うのが面白い。てへって笑うアラステア様が可愛い過ぎて…やっぱりお持ち帰りしよう。

 というか…話を聞く限りアラステア様って、インスタント食品生活……最近の私と食生活が一緒過ぎて親近感がドバドバ溢れているな。多分食の好みは同じ…これで私生活も同じだったら一緒に暮らせるぞ。


「リアちゃん、ミズキを元の世界に帰すには…どんな代償を払えば良いですか?」

「もちろん帰す代償は等価交換ね。ふふっ、でもそれはただ帰る? それとも、迷い込んだ時間軸に帰る? それともそれとも、迷い込んだ時間に…その時の姿で帰る?」


 うわ…なにその三段階…説明ぷりーず。


 ただ帰るのは、もう既にアース王国で災害級の魔物を倒したという功績を成しているから、リアちゃんが次元の扉を開いて帰すだけ。もうこの時点でリアちゃんがブッ飛んだ存在という事が解る……

 迷い込んだ時間軸に帰る場合、迷い込んだミズキと帰還したミズキが入れ換わる形…でも現時点でミズキは成長しているから色々弊害がある。

 そして、迷い込んだ時間にその時の姿…確か女子高生の姿で帰還する……普通に考えて、これがミズキのハッピーエンド。


「ただ帰るのは達成として、残り二つの代償について教えて下さい」

「解りやすいのは、迷い込んだ時間に帰る場合…害のある超越級を討伐。そして、若返りも付けるとなれば…」


「なれば?」

「教えて欲しい?」


 ……焦らさないでよ。別に私がやる訳じゃないんだし。

 いつまで台座に立っているのさ。はいはい可愛いよ。

 アラステア様なんて何か食べだしたし…それなんです? 干し芋? あーん。……美味。


「教えて下さい。…いやごめん拗ねないで」


 干し芋食べたらリアちゃんが拗ねた。どうしよう…

「いふふぁふぁやふおふえふぇふぁふぇふぉ」

 アラステア様、食べながら喋らないでよ。何を言っているか解らないし、横になりながら干し芋食べてお行儀悪いよ。


「仕方ないわね。この世界に来た深魔貴族の討伐よ」

「あれ通じたんですね。深魔貴族ですか…今、この世界に居るんです?」


「今、深魔貴族は迷宮を根城にしているのじゃ。アレスティアは深魔貴族に会った事があるかえ?」

「間接的には…邪神候補のインガラという奴です」


「イったん、知っておるかえ?」

「前の世代は知らないよ」


 イったん…イったん…リアちゃんの本名はイが付く名前か。


「…イったん」

「アスきゅん、めっ…よ」


 めっ…戴きました! やっぱり本名を呼ぶのは駄目らしい。理由はまぁ…格が関係しているんだろう。神格か何かが、アラステア様と同格以上の場合は名前を伏せる的なルールがあるんだろうな…ルルもきっと偽名だったと思うし。


「……リアちゃん、本名で呼びたいな…きゅるん」

「アスきゅん…きゃわゆいけど、めっ…よ」


「リアちゃん……」

「アスきゅん……」


「……話進めて良いんかえ?」

「ええ」「どうぞ」


「深魔貴族の居場所じゃが…エルドラドという国に居るのじゃ」


 エルドラド…そうか。あの蒼き魔物か…結局行く事になるって訳ね。あっ、でも主役は私じゃないか。決めるのはミズキだな。


「それは、一人で討伐しなければいけませんか?」

「いや、功績を一人占めすれば良いぞえ。アレスティアが手伝っても構わぬがな」


「それは…また後で考えます。じゃあお城まで行きましょう」

「仕方が無いのう…ほれ、連れて行ってくれの」


 あっ、私が抱っこして行くのね。歩かないの? 太るよ。

 ……アラステア様のお腹の肉を摘まんだらペシッと叩かれた。


「リアちゃん、ありがとうございました」

「待って。何か忘れていない?」


 覚えていたか。

 アラステア様付きでデートね。


「何処に行くんですか?」

「折角だから、アースの王都にしましょ」


 やったー、帰る手間が省けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る