はじめまして女神様

 

「待ちなさい! シラクモォぉお!」


 王女の声を無視。会議室から出て、前回と同じく窓からダイブ。問答をする前にさ、まだニコライさん以外からお礼を言われていないという……これに関しては、戻ったら王女にネチネチ言おう。

 私は根に持つタイプだからね。


 また戻って来たら文句くらいは聞いてあげるよ。文句を言えるのなら…だけれど。


 ここから東に十二時間…でも一人だから、本気でブッ飛ばせば六時間かな。

 白い星と黒い星は使う魔力が違うから、乗り換えれば休み無しで行ける。よーし、しゅっぱーつ!



 * * * * * *



 白雲が去った後、主役の居ない会議室ではミズキに注目が集まっていた。ミズキは視線を上に向け、小さくため息を付いていた。


「……ミズキ…あのお方って誰?」

「……知ったら、後悔しますよ」


 ミズキが視線を王女に向け、本当に知らない方が良いと言うように、薄く笑った。

 王女はミズキがこんな状況でも少し嬉しそうにしている事に、嫉妬していた。自分の知らない、ミズキと白雲の信頼に…


「それでも…聞く権利はあるわ」

「そうですか。まぁ、ここまで彼女は読んで行動しているようですし…良いですよ。ですが少し、人が多いです」


「分かった。皆さん、白雲が再びやって来るまで会議は中断にします」

「だ、そうだ。皆の者、戻れ。また追って連絡する」


 白雲が戻って来るのか解らないが、会議は中断になった。

 王の側近が人払いをし、公爵家関係者と取り巻きが出ていく。メイド達も出ていく中、ミズキがブリッタを呼び止めた。


「あっ、ブリッタさんは残って下さい。(道連れですよ!)」

「…はい、畏まりました。(くっ、逃げられると思ったのに!)」


 ミズキとブリッタの視線がかち合い、ふっと笑い合う。

 残った面子は、王女、ミズキ、ブリッタ、王の側近、監査員、公爵の息子。


「では、話してくれ」

「はい、女神アラステア様です」


「「「――なっ!」」」


 一同の驚愕が同調した。

 一般的に、女神の声を聞ける者は聖女。

 そして、女神と接触出来る者は…天の使い。

 だとすれば、白雲がどんな存在か、辿り着く答えは一つ。


「ミズキ…嘘じゃない、よね?」

「本当だと思いますよ。私も行きたかったんですがね…」


「では、白雲は天の使いだというのか?」

「そうですね…彼女は(みんなの)天使です。本当に、彼女を怒らせない方が良いですよ。私より強いんですから」


「そんな…嘘よ。あんな性格の悪い奴が天使だなんて……」


 王女の嫉妬が募る一方、側近はこの先の予定について考えていた。白雲が天使だとしたら、望みを受け入れなくてはならず…女神が来るとしたら、迎え入れなければならない。

 それに、国が良いように使っていたミズキが、居なくなる事も視野に入れなければならなかった。


「…忙しくなるな」



 * * * * * *



「あー…疲れた」


 ……特に何も無く、六時間経った。

 空を移動すれば山も川も難なく進めるのは良い事だけれど、旅の醍醐味は景色だけ。その景色も夜の景色なので少し寂しい感じ。


 とりあえずそれっぽい町に降りて、現在位置を確認しよう。



 闇に紛れて町の広場に降り立った。

 周囲を確認…人は居ない。

 広場の中心に立つレンガ造りの時計塔は、十時を指していた。

 照明は少なく、綺麗な土の上を歩いていく。

「ん?」

 ……なんだ?

 引き寄せられるような感覚…呼んでいる。

 この気配は…なるほど、ここが目的地か。


 よし、行ってみよう。このまま、広場を抜けると石畳の地面になり、道の両側には等間隔に幹の太い木が生えていた。

 木を眺めながら奥へ進むと、大きな三角屋根にステンドグラスが目に入る白い建物…教会か。

 そういえば、教会に入るのは国を出た日以来だな。


 …入って良いのかな。

 十段の白い階段を上り、両開きの白い扉に手を掛ける。

 そしてゆっくりと扉を押し開いた。


「……」

 少しひんやりとした聖堂。赤い絨毯が真っ直ぐ奥まで続き、参拝用の長椅子が両脇に複数設置されている極々一般的な造り。

 赤い絨毯の続く先には、女神像が設置してあるはずだけれど…無いな。

 真っ直ぐ歩いて奥まで行ってみると、身長程もある台座はあった。でも女神像は無い……

「くくっ」

 …後ろから笑い声が聞こえた。幽霊ではない。声の主は恐らくあの方…


「…はじめまして。アレスティアと申します」

「待っておったぞアレスティア。わっちの名前はアラステアじゃ」


 わっち?

 振り返って、直ぐ後ろに居たアラステア様を見る。

 窓から射し込む月の光に照らされ、真っ白い長髪がキラキラ輝いて銀色に見える。私を見詰める蒼い瞳が妖しく光り、ニンマリと笑う表情はとても嬉しそう……


「……お会い出来て、光栄に思います」

「なんじゃ? 今失礼な事を考えたじゃろ」


 そんなアラステア様を、私は見下ろしていた。

 女神像と全然違う……顔がでは無くて、身長…手足…おっぱい…まぁつまり、私より下の子供の姿。


「いえ…私の知る女神像とアラステア様に少し違いがありましたので…」

「ほう…具体的にどこが違ったのじゃ?」


「…女神像は大人の姿。そのお姿は…子供、ですよね?」

「左様。この姿は『節約もーど』なのじゃ」


 節約? 大人状態だと疲れるから、子供の姿で居るのか?

 白い髪に白いワンピースに白いサンダル…普段の私とそう変わらない格好でニシシと笑われると…なんかこう…ね、お持ち帰りしたくなる。これが…『のじゃロリ』……可愛い…可愛いすぎる…くっ、落ち着け私…今は真面目な空気だ。


「あの、待っていたというのは…」

「その内会いに来ると思っていたからのう」


「では…私の事を知っているのですか?」

「わっちを誰だと思っておる。あのお方の力をそのまま覚醒させおって…普通なら極一部なんじゃぞ」


 あのお方…アラステア様が上に見ている相手。キリエはアラステア様よりも上位に位置しているの? なんか変な感じだな。

 極一部というのは、帝国の第一皇女のように覚醒するのが普通…

 私は色々な条件が重なった結果か。

 強い力を得てしまった私は、この世界にとって迷惑…なのかな。


「私は、アラステア様にとって邪魔者なのでしょうか?」

「くくっ、そう判断するのは当然か。答えは、お主次第じゃな」


「私次第…これから先の選択に掛かっているのですね」

「話が早くて助かる。お主は不安定な状態じゃ。光と闇の相反する力…どちらかに安定させなければ、その内死ぬ」


 …なるほど。アラステア様の加護を得て光に安定させるか…深淵を深めて闇に安定させるか…どちらかを選ばなければ、今度こそ死ぬのか。


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