こっそり帝都へ
翌朝、ミズキの部屋に王女がやって来た。
「ミーズーキー! おはよー!」
「あっ、おはようございます」
「…あれ? あんな扉あったっけ?」
「えぇ…ありましたよ」
「ほんとにー? 怪しいなぁ…」
王女がミズキの部屋の隅に、怪しげな扉を発見。首を傾げながら怪しい扉の前に行き、開こうとするがビクともしない。
「んぎぎぎぎ! 開かない…ミズキー! 開けてー!」
「大事なものが入っているので駄目ですよ」
「また秘密!? うぅ…隠し事しないでよー!」
王女が悲しそうな顔でミズキに抱き付くが、ミズキは困った顔を浮かべるばかり。
「姫、これで許して下さい」
「これは?」
「例の花油です。実は姫の分もあるんですよ」
「ほんとぉ! やったー! あっ、でもあのメイドから貰ったのよね?」
「えぇ…まぁ…間借り代…いや、実はあの子……姫の事が好きなんですよ」
「私の事が…ふふっ、素直になれば許してあげようかな」
(ごめん、レティ…)
ミズキの苦し紛れの嘘は、王女とレティの関係を更に拗らす事に……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アレスティアー、私はどうしたら良いんですかー?」
「決して封印を解くな。そして、みんなの言う事を聞くんだ」
「あんまりピチッとした服は好きじゃないんですよー」
「それはあれか? 胸が苦しいからか? ボンッキュッボンッ自慢か? それとアレスティア禁止な。ぁんれすてぃあーも禁止」
エーリンのおっぱいを揉みしだきながら、私の怨みを込める。少し分けろ。
現在、エーリンをパンパンに連れて来ていた。更衣室で着替え中…紅白の服は目立つから、嫌がるエーリンを無理矢理パンパンの制服にチェンジしている。
一応フーさんから転移ゲートをくぐれる指輪は受け取っていたけれど、ちゃんと言う事を聞かないと放り出すからな。
「えー…じゃあ…ダーリン」
「却下。身体も男って言ったの忘れてないからな」
「ぶー…じゃあ…仕方無いですね、白鬼族に伝わる伝説の戦士の名前を借りましょう!」
「白? 伝説ってなんか格好良いじゃん」
「しろたむんむん!」
「……ぁんれすてぃあーで良いや。ところでさ…ミズキに会って何か感じた? ゴールだと思ったんだけれど、無反応だからさ」
「いえ? でもゴールは近い気がするんですよねー」
ミズキがエーリンのゴールじゃなかった……となると、アラステア様? うーん…なんか違うような……でも一番しっくり来るのがアラステア様だし……会ったら解るか。
「とりあえず、みんなと働いて来て。お友達沢山欲しいでしょ?」
「はいー。行ってきまんもすー!」
エーリンは更衣室から飛び出て、待っていたムルムーに抱き付いた。おー…懐いている懐いている。
エーリン曰く、ムルムーはお母さんみたいで落ち着くらしい。
赤鬼族は壊滅したという記憶を視たけれど…深く考えるのはよそう。
さて、私は帝都に潜入しよう。
先ずは封印の指輪で私の魔力を隠す。
そして迷宮で見付けた魔法のウィッグとぐるぐるメガネを装備する。
もし地味眼鏡の地味顔で行動すると、第一王女派が接触してくるし、素顔は論外だ。
「うーむ。あっ、ヘルちゃーん」
「あらアスティ、悩んでいるなら私の服を着て良いわよ」
「ありがちゅ」
「…もう」
可愛いのう。
ヘルちゃんの言う通り、服は黒の方が良いな……髪の毛の色は…赤が良い。
魔力のウィッグは魔力を通せば色が変わるけれど……白、黒、金髪、白、黒、金髪……あれ? なんで三色だけ?
……白髪は銀色と被るし若者には珍しいから目立つ、黒髪はほとんど居ないから目立つ、残るは金髪しか無い……それこそアレスティア王女じゃねえか。
えー……目立たないのは金髪…ぐるぐるメガネがあるから大丈夫か。
「金髪黒服…お揃いね」
「お揃いー。今度アースの王都を一緒に歩こうね」
結局、金髪ぐるぐる黒女になった。
視界は良好…いざ出陣。
罠は昨日の夜に嵌まったから、次の罠設置まで大丈夫な筈…よし、裏口から脱出成功。
花屋に行くと怪しまれる…まだマイホームには行けない…
何処に行こう。
特事班は難しい…誰かの家も難しい…
不特定多数が集う場所…
学校か。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
という事で学校に到着。
久しぶり…という訳では無いか。二、三週間振りくらい?
あっ、二週間と言えば、闘技大会はどうなったんだろう…丁度終わったくらいか。
暗部の尾行は無い。よしよし。
なので、トイレにて魔法のウィッグを外して…ぐるぐるメガネはまだ着けておこう。
銀髪ぐるぐる黒女に変身。
学校内を歩いていく…まだ講義中か。
移動教室なので、二組の教室には誰も居ない。
いつも座っていた後ろの端に座って、雷牙王の毛を編んだ飾りを作る。金具を付ければ、鞄に付けられる飾りになった。良い感じ。
…話し声が聞こえて来た。講義が終わって教室にクラスメイトが集まってくる。私には目もくれないのは当然…気配を消しているから。
もう、ほとんど会う事も無いんだろうな。
嫌みを言ってきた女子や、馬鹿にした目を向けてくる女子、嫉妬の視線を向ける男子に、陰口を言う男子……うん、良い思い出は無いな。
おっ、ティーダ君がやって来た。ぐるぐるメガネを外そう。
「ティーダ君」
「えっ、天使ちゃん……俺?」
「そうそう。今まで仲良くしてくれてありがとね。私…退学したんだけれど、お礼を言いたくて…」
「今まで…って…」
「私、アレスだよ。どう? 私の変装…解らなかったでしょー」
はははーどうよ。気が付かなかっただろうよ。
…ティーダ君? おーい。
……ありゃ、周りもざわざわしているな。
「あ、アレスって…まじか…」
「これ、雷牙王の飾りなんだけれど…良かったらどうぞ。じゃあね」
呆然と私を見詰めているから、雷牙王の飾りを握らせておこう。ほれっ、受け取れ。
じゃ、ばいばーい。
「あっ、レーナちゃん。やっほー」
「ほえっ? アスティちゃん来ていたんです?」
「うん、こっそり来ちゃった。勉強頑張ってね」
「ほんと、寂しくなりますね。落ち着いたら戻って来て下さいよ」
「落ち着けばね。じゃあ夜にー」
レーナちゃんの頭を撫でると、嬉しそうに笑っている。少し寂しい、卒業まで居たかったな…
周りを見ると、クラスメイトは驚いた様子で私を見ている。話し掛けたいけれど、私にした事を思い出して話し掛けられない雰囲気が堪らないね。
最後に挨拶でもしてやろう。
「みなさん、色々とお世話になりました」
特に何も無いから色々で済ませてしまった。とりあえずピシッと、いつもの敬礼をしてウインクスマイル。
レーナちゃんが鼻血を出して撃沈。よし!
ティーダ君も胸を抑えて撃沈。二人目!
嫉妬男子達が泣きそうな顔で撃沈。良い調子!
陰口男子達が茫然自失。可愛いだろー。
嫌み女子が悔しそうに歯を食い縛っている。ふっ、どうよ。
馬鹿にした目を向けていた女子は目を伏せて沈んでいる。
とまぁこんな感じで、最後の挨拶は終わり。
もう会う事も無いだろう。さらばだ!
お次は、フラムちゃんとミーレイちゃんの所へ。
真っ直ぐ前を見て廊下の真ん中を歩くと、みんな道を開けてくれる…っと一組に到着。
「ミーレイちゃーん」
ミーレイちゃんが、ガバッと首がもげるんじゃないかってくらいの振り向き具合でこっちを見た。やっほー。
そして走って私に抱き付く…よしよし。全然会えなかったもんね。
「アスティちゃん…アスティちゃん…会いたかった…」
「へへっ、ごめんね。急な事でさ」
私の事情を知っている…パンパンで聞いたのか。
ミーレイちゃんを連れて、フラムちゃんの所へ向かおうとしたら止められた。
「あっ、フラムちゃんね…今日は居ないの」
「そうなの? 風邪?」
「それがね…あれから指南役を辞めちゃって…」
ありゃ。フラムちゃんはプンプンしちゃってお城の指南役を辞めてしまったらしい。でも、別の所で指南役をしているとの事…
「何処で指南しているの?」
「今ね、騎士団の特事班に入って頑張っているのよ」
わお! フラムちゃんが特事班! えー! 見たいー! 一緒に働きたいー!
という事は…私の後を継いで女性騎士さんに剣術指南をしているとな。
なんか悪いな…沢山ご褒美あげなきゃ。もちろんミーレイちゃんにもご褒美あげるよ。
「ミーレイちゃん…予定合わせてね…」
「うん…絶対合わせる」
私が居なくなった影響は、少なからずあるのか……みんなの為に、私も頑張らなきゃ。
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