来ちゃいました

 

 城を出て、更衣施設にて白い私服に着替え、エーリンが居る場所を目指す。

 メイド服はそのままお借りした。一応ブリッタさんにメイド服の代金を払う予定だ。


 エーリンは何処かなー。魔力感知を広げて、広げて…おっ、発見。商業地区だな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 商業地区にやって来た。

 店が並び、露店も多い。

 王都だけあって賑わいは凄い。

 帝都よりも柔らかい雰囲気だな…穏やかな人が多いと聞いたけれど…あっ、エーリン発見。紅白の服は目立つなぁ…因みにあの服、魔防具らしい。


 何をしているんだろう…しゃがんで何かを見ている。

 キモいオッサンの笑顔が描かれた怪しい壺や、前衛的なデザインの怪しい置物…


「エーリン、何を見ているの?」

「ん? あぁ…可愛い壺ですよー」


「…買うなよ」

「えっ」


「それ買ってどうするのさ。ほらっ、行くよ」

「けちー」


 エーリンを引っ張って…引っ張って…動かねえな。

 まぁ良いや、放っておこう。


 商業地区だから、地図でも買うか。

 商業ギルドか何かがあれば…おっ、案内看板発見。

 ……結構バラバラだな…古い街並みだから仕方無いか。

 中心部分に商業ギルド…先ずはそこで聞いてみるか。



「ぁんれすてぃあー、待って下さいよー!」

「エーリン、宿は取れた?」


「はいー、バッチリんこですよー」

「大義であった」


「ははー! あっ、ぁんれすてぃあー…おかえりんこー」

「ただいまん……その手には乗らないぞ」


 ……何? 無表情で見詰めないでよ。

 人差し指を口に近付けると、ガジガジ噛み始めた。

 きっと私の帰りが遅いから待ちくたびれたんだろう。よしよし。


「それで、どうだったんですー?」

「会えたよ。明日また行く予定」


「良かったですねー。じゃあ私は迷宮に行ってきますねー」

「へぇー、あるんだぁ。近く?」


「はいー。占ったら、王都の地下に見付けましたー」

「あぁ…多分それ王族や貴族しか入れない所だから、行かない方が良いよ」


 街等の地下に迷宮がある場合、大抵は権力者が牛耳っている。迷宮がある事を知らないのは有り得ないからね。

 入口も城にしか無いと思うぞ。


「えー、別に誰の迷宮とか無いじゃないですかー」

「止めはしないけれど、騒ぎは起こさないでね」


 止めても入るんだろうな。

 恐らく占いで隠しルートを探し当てて入ると思う…それなら良いか。


 エーリンとキャッキャウフフしながら…間違えた、普通に歩いて商業地区の中心部へ。五階建ての大きな建物に結構な数の商人達が居た…いつもこんな感じなのかな…帝都は地区毎に色々出来たからスムーズだったけれど…


 商人の話が耳に入って来る…なるほど、私達が入った新しい迷宮が現れた噂ね。情報が早い…それで流通が少し変化する…か。


 一般受付は空いている。これなら並ばなくて良いや。


「いらっしゃいませ」

「すみません地図が欲しいのですが…」


「一万ゴルドで周辺地図…五万ゴルドで街の名前付き…十万ゴルドでアース王国地図…二十万ゴルドで更に街の名前付き地図になります」

「じゃあ二十万ゴルドで。はい」


 地図ゲット。

 サラッと確認…ビッケの町は…あった。星乗りで東に十二時間の距離…かな。


「ありがとうございました」

 もう用事は無いので、エーリンの取った宿に向かおう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「…」

「へへへー、どうですー?」


 宿に到着した…ピンク色を基調とし、外観にハートマークが多数点在している。看板には…休憩…ショートタイム…宿泊の文字が見えた。


「ここ、ラブホやないか…チェンジ」


 通称ラブホ。

 エッチが主目的の宿だ。

 今もイチャイチャするカップルが入っていった。


「えー、アレスティアにお似合いですよー」

「そういう問題では無い。宿探すぞ」


 ここに泊まる事は出来ない。

 公爵家からお礼を貰う時に、届け先がここになるのはもちろん色々弊害がある。ミズキも呼べない。


 くそっ、もう暗くなって来た…

 間に合うか…



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 結果は、間に合わなかった。

 商人達が多く、迷宮周辺の人が逃げてきた影響もあり、宿は一杯になっていた。


「やっぱりラブホに泊まれば良かったんですよー」

「嫌だよ。暗部の人に尾行されてんだぞ? ざわざわするだろ」


 そう…怪しいメイドは尾行される。王女とのやり取りは聞かれている筈だからね。


「じゃあクソ宿に泊まるか、野宿ですかー?」

「どちらもノーだね。まぁ、策はありけりだよ。星乗り」


 さぁ乗って乗って。

 怪しいのは今更だからね。それなら…



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――コンコンコンコン。


 とある窓をコンコン叩く。

 おーい。おーい。


「だ、誰?」


 警戒する声と共に、窓を開ける女性…星に乗る私とエーリンを見て、目が点になっていた。


「来ちゃいました。てへっ」

「はじめましてー。エーリンですー」


「……えっ?」


 という事で、ミズキの所に泊まろう。

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