下ネタを言えるようになったら少しは見直してやろう

 

 ベッドの上で、ミズキの髪にブラックローズの花油を馴染ませながら、他愛もない話をしていく。主にミズキの故郷の話…文明レベルが高い事は解った。


「ミズキさん、少しは楽になりましたか?」

「…うん。凄く頭がスッキリしてる。…ありがとね」


「ふふっ、良かったです。でも後何回かはシなければいけませんらね。では着替えましょうか…こちらに向かって、うるさいお姫様がやって来ますよ」


 私はスポッとメイド服を着て、ミズキは軍服のようなピシッとした服を着る。ミズキは凛とした雰囲気が素敵だから、格好良い系統の服が似合うな。

 あっ、今使った花油あげる。


 ――コンコンコン。

「ミーズーキー! 居るー?」


「すみません、ちょっとお待ちを!」

「ミズキさん、髪結んであげますよ」


「あっ、うん。ありがと」

「さっきよりも、笑えるようになれましたね。素敵です」


 雰囲気は柔らかくなったな。肩の荷が下りたというか、色々経験して余裕が出てきた感じ。良いね、この雰囲気ならモテモテだぞ。

 さっきはポニテだったから、ハーフアップで少し頬に髪を残して…

「ミーズーキー! まだー?」

 うるせえな。


「薄く化粧でもしますか」

「う、うんありがと…でも、姫が…」


「あんなの待たせときゃ良いんですよ。ミズキさんが綺麗になる方が大事です」

「そういえば、姫はレティの事…知らなかったよね」


「えぇ、教える気はありませんよ。面倒なんで…っとこれで仕上げです」


 ミズキに薄く化粧を施して、地味眼鏡を装着した。

 そして部屋の隅に立って待機…壁の花ならぬ壁の眼鏡女。

 ミズキは扉を開き、アースの王女…名前は……あれ? ド忘れした。まぁ良いか。を、部屋に招く。


「もう遅ーい。ねぇねぇ聞いて聞いて! ブリッタが凄く良い匂いなの! 凄いの! でも何の香水か教えてくれないの! ってここも凄く良い匂い! なんでぇ!」


 王女の後ろから、ブリッタさんが一礼して入って来た。やっほー、さっき振り。

 あぁ…優しいお姉さんに、ニコリと笑い掛けられるとくっ付きたくなる。

 ブリッタさんとミズキがアイコンタクト…あっ、秘密の会話しているー。混ぜてよー。


「姫…美の秘密は姫といえど、軽々しく話さないものですよ」

「でも…凄く良い匂いだったから……あれ? ミズキ、凄く綺麗…何か良い事あった?」


「えぇ、ありましたよ」

「なになにー、教えてよー」


「これは女の秘密です」

「むぅー!」


 なんだろう…これが年相応の会話って奴か。こう…キャピキャピというか…若々しいというか……私とエーリンみたいに下ネタトークなんてしないんだろうなぁ…って。

 歳は近いんだけれど…大事に育てられたというのが解る。


「どうしても、駄目なの?」

「それがですね…」


 ブリッタさんとミズキが私を見る。

 そこで初めて王女は私に気が付いた様子だった。でも、新人メイドに気を向ける訳もなく…


「そこのあなた、出て貰える? これから秘密の話をするの」

「……」

 私が居るから喋られないと思ったようで、出ていくように言われた。私はこれ幸いと、ミズキとブリッタさんに礼をして扉に手を掛ける。


「ちょっと待って…どうして私に礼をしないの?」

「……礼をする理由が無いので」


「えっ、理由が無い? …何このメイド……ちゃんとした説明が欲しいわね」

「ミズキ様は私の恩人です。ブリッタ様は右も左も解らない私に優しくして下さいました。えーっと…王女さんは私に出ていけと言っただけなので、礼をする理由がありません。これで良いですか?」


「…良い度胸ね…あなた、名前は?」

「ウンコダイスーキです」


「ウッ…ウッ…ウッ…」

 ほれほれ、王女よウンコって言ってみろ。言えねえだろー、はははー! ミズキが目を逸らして笑いをこらえ…ブリッタさんはプルプルしながら両手で顔を覆っている。

 …我ながら大人げないものだ。


 王女は私の名前を言おうか言わまいかの葛藤中……ウンコダイスーキなんて名前ある訳ねぇだろ。こりゃ頭に血が昇っているな…


「では、出ていけと言われたので出ていきますね。ミズキ様、また明日来ます」

「あ、うん…」


「ブリッタ様…本日はありがとうございました」

「え、えぇ…こちらこそ、ありがとう…ま、またね」


 二人に手を振って…さっ、帰ろう。

「待ちなさい!」

「なんです? 私に構うよりも、王女さんは焦った方が良いですよ」


「はぁ? 焦る?」

「レイン王国に、アレスティア王女が居るらしいですよ」


「――っ! なん、ですって…」

「あぁそれと、この香りは私がお二人にプレゼントしたものです。ではではごきげんよう」


「……」


 王女が呆然としている隙にさようならー!


 王女は素直で表裏の無い絵に描いたようなお姫様…社会的正義が行動理念。

 私はひねくれた噂だけ一人歩きしている元お姫様…己の正義が行動理念。

 端的に言うと性格が合わない。


 まぁそれでも、嫌でも関わる事になるんだろうね。

 ミズキがこの世界に居る限り…


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